アンラーン
為末大さんが本を出しました。
『Unlearn 人生100年時代の新しい「学び」』 柳川範之、為末大〈著〉
こういう書名。三八広告では
「思考のクセ」を捨て、生涯成長し続ける方法
と謳っていました。
とにかくまあ
「Unlearn(アンラーン)」という言葉が新鮮です。
「UN」という接頭辞についてですが、通常、日本では要するに否定を意味する、と理解されてませんか?
そうすると「学ぶ」を否定したら「学ばない」になるんですが、そういう意味ではないようなのです。
↓参考
http://gogengo.me/roots/141
接頭辞 un-
「否定」、「反転」を意味します。
「反転」という意味があるようです。
そうすると
unlearn
►vt 〈学んだことを〉念頭から去らせる,忘れようとする;…の癖を捨て去る;…の誤りに気づく;UNTEACH.
►vi 既得の知識[習慣]を捨てる.
リーダーズ英和辞典第3版より引用
「既得の知識[習慣]を捨てる」という意味があるのですね。これは知らなかった。
↓朝日新聞の書評欄から引用
(書評)『Unlearn 人生100年時代の新しい「学び」』 柳川範之、為末大〈著〉
2022年3月5日 5時00分
・・・
そこで出てくるキーワードが「アンラーン」。これまでに身につけた思考のクセを取り除くことだ。為末の場合は、緻密(ちみつ)に計画を立て行動することや、自分の力だけで問題を解決しようとすることが思考のクセであった。それらは陸上競技という環境に適応した、パターン化した思考である。成功体験を生んでもいる。だが新しい環境においては、適応を阻害する大きな要因となる。社会環境は変わり続けるし、常識もうつり変わる。人生100年時代において学び続けることは不可欠だ。ところが学びの文脈では、知識や情報を得るという、「インプット」の重要性ばかりが強調されがちだ。しかしアンラーンを、人によってはインプット以上に意識せよというのがこの本のメッセージだ。すでに成功体験をもっている人ほど、過去の環境への適応は高かっただろうから、アンラーンは大切だ。
・・・
評・坂井豊貴(慶応大学教授・経済学)
こうなんですね。すでに持っているものを「殻」にして閉じこもっていないで、殻を破りなさい、ということらしい。
いい言葉を聞きました。
上のリーダーズ英和辞典からの引用にある「unteach」を引いてみると
unteach
►vt 〈人〉に既得の知識[習慣]を忘れさせる;〈正しいとされていることを〉正しくないと教える,…の欺瞞性を示してやる.
リーダーズ英和辞典第3版より引用
元 teacher としては身に沁みますね。「自分は正しい」と権威になったつもりに陥るとき、teacher としての資格を失う。
常に自分に対してunlearn, unteach することを自覚していなければならない。
いや、実際、佳い言葉を知りました。うれしいことです。
★逸話:中学で理科を教えていた頃。業者テストを生徒に受けさせました。その問題で、「両眼視は立体視にとって重要である」ということを、業者テストを作った方が誤解して「両眼視ができなければ立体視はできない」という内容の問題を作った。
テストを返却しながら、生徒に、片目でも立体感を得ることはできるんだよ、このテストで×を取っても全く気にせず無視しておくれ、と言ったら、生徒はびっくりしていましたね。彼らの大好きな音楽の先生は、教員のレクリエーションのバレーボールで顔面にボールが当たって片目を失明していらしたのです。でも、運転もするし、日常生活で立体感がないのではないかという感じは全くなかった。体を左右に振ると両眼視と同じ原理で視差が生じて遠近感が得られる。宴会でビールを相手に注ぐときなどは、ビール瓶の先端がコップの縁にあたるようにコントロールすれば、こぼすことはない。などなど。片目で立体感を得る方法をいろいろ伺っておりましたのでね、そんな話を生徒にしてあげた。つまらぬ問題を作る方よりも、君たちの方が奥深い知識を得られたんだよ、とね。
「unlearn, unteach」になったかな。教職歴のごく初めのことでしたっけ。
★更に別件。両眼視の話から。
カマキリは獲物との距離感を得るために両眼視を利用しています。その両眼視で、獲物がカマの届く距離に入ったと判断した時、ものすごい速さでカマを伸ばして獲物を捕獲する。
たまに、カマキリが体軸を傾けないで、体を左右に振ることがあります。両眼視で距離がつかめないときに、頭部を左右に振ることで視差を得て、距離を見積もっている。そして接近を図るわけです。
すごいでしょ。
私も「カマキリ爺さん」と名乗ろうかな。
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