エウブロンテス・ノビタイ
7月9日の朝日新聞デジタルです。
恐竜足跡に「ノビタイ」、由来は「のび太」 ドラえもんのファン、中国の学者が命名(2021年7月9日 5時00分)
中国で長さ30センチほどの肉食恐竜の足跡化石が見つかった。足跡の特徴から、新種の化石として「エウブロンテス・ノビタイ」という学名がつけられた。名前の由来は「ドラえもん」に登場する「のび太」だ。
中国地質大学のシン立達(シンリーター)准教授らの研究チームは昨年7月、四川省成都の南方の川で、約1億2500万年前の白亜紀の岩石に足跡化石を見つけた。
3本指で二足歩行とみられる足跡が4歩分あった。かぎ爪の痕があり、肉食恐竜とわかった。歩幅から時速4キロメートルくらいで歩いたとみられ、恐竜の全長は約4メートルと推定される。
・・・
今回も指の向きなどの特徴から新種化石として命名した。昨年公開された映画「ドラえもん のび太の新恐竜」で、のび太が恐竜を名付ける場面がある。ドラえもんファンというシンさんは「のび太の夢をかなえたい」と名前を決めた。
(後略)
↓プレスリリースの一部引用
https://www.kahaku.go.jp/procedure/press/pdf/660057.pdf
プレスリリース令和3年7月8日独立行政法人国立科学博物館「のび太」の夢を叶えた“ノビタイ”足跡化石のレプリカ公開国立科学博物館でミニ企画展開催
日本の人気漫画「ドラえもん」のファンであるシン・リーターXing, Lida(邢立达)中国地質大学(北京)准教授は、中国の四川省で発見された肉食恐竜の足跡化石に「のび太」の名前を献名し、エウブロンテス・ノビタイと命名しました。
内容的にはこれで充分ですが・・・。
「ノビタイ」という言葉に違和感を感じませんか?
「僕、もっと伸びたいなぁ」ではないんです。
私がこの問題に初めて接したのは教師になった初めの頃。1970年代。
翼竜の化石が新種として記載された、という話でして、その学名が
Quetzalcoatlus northropi
ケツァルコアトルス・ノルトロピ
というのです。
何で「ピ」なのかなぁ、と悩みました。
当時はまだ今のようにインターネットで検索して、という時代ではありませんでしたので、いろいろそれなりに頑張って調べましたっけ。
下に参考としてリンクしたWikiの記載から
「種小名 northropi は、全翼機の開拓者ジャック・ノースロップの空気力学に対する功績を讃えての献名である。」
ノルトロピ=ノースロップ+イ
なのですね。
今回の「ノビタイ」も、ノビタ+イ なのです。
「イ」って何なのさ。
キーになるのは「献名」です。
↓ハチの新種の話の途中を引用します。
https://nh.kanagawa-museum.jp/www/contents/1617242029300/index.html
なお、本種の学名(種小名)は標本採集者である学芸員の渡辺恭平(Kyohei Watanabe)にちなみます。新種の命名において、その新種の発見に貢献した人物の名前を学名につけることを「献名」といい、貢献に対する謝意を示す分類学の慣習です。動物の新種記載のルールを定めた「国際動物命名規約第4版日本語版※※※」の条文31.1.2には『ある種階級群名は,それが現代人の人名から直接形成した(補足:ラテン語化した)名詞の属格であるならば、人名が男の人1人の名前ならば-iを、……(中略)……その人名の語幹に付加して形成するものとする……(以下略)』とありますので、学名(種小名)の「kyoheii」を見れば、日本語を解さない人にとっても渡辺が男性であることが一目でわかります。
ちなみに、新種に自分の名前をつけることは通常行わず、常識的な分類学者はまずそのようなことはしません。また、雑誌によっては、そのような命名行為は認められないこともあります。
献名する名前が男性なら「-iを」つけるんですね。女性は?
↓国際動物命名規約第4版日本語版から引用
31.1.2.ある種階級群名は,それが現代人の人名から直接形成した名詞の属格であるならば,人名が男の人1人の名前ならば-iを,男の人を含んだ複数の人の名前ならば-orumを,女の人1人の名前ならば-aeを,複数の女の人の名前ならば-arumを,その人名の語幹に付加して形成するものとする(条11.9.1.3を見よ) .これら学名の語幹は,属格を形成したときの原著者の行為によって決定される.
「人名が男の人1人の名前ならば-iを」「女の人1人の名前ならば-aeを」つけるのです。
「のび太」君は男性ですので「nobita + i」で「ノビタイ」になりました。
ということなのです。
学名をつける、って大変なことなんですね。
↓図や写真が少し多いかな。
https://travel.watch.impress.co.jp/docs/news/1337075.html
国立科学博物館、ミニ企画展開催。のび太の夢を叶えた「エウブロンテス・ノビタイ」レプリカを公開
★追記
この記事は昨日18日(日)に書いてタイマーでアップロードされるようにしておいたのですが。
今朝(19日)の朝日新聞の朝刊の(いちからわかる!)という連載でも取り上げられていました。
↓これです。
(いちからわかる!)化石に「のび太」って名前が付いたらしいね
■恐竜足跡に「ノビタイ」。発見者がドラえもんファンだったA 発見した学者のシン立達(シンリーター)さんは「ドラえもん」のファンで、「のび太」にちなんで「エウブロンテス・ノビタイ」という世界共通の名前(学名)がつけられたよ。エウブロンテスは、肉食恐竜の足跡につく名前だ。十数種の仲間が報告されているよ。
コ なるほど。そういえば学名はノビタじゃなくて、ノビタイだけど。
A 動物の学名は、国際的なルールに基づいてラテン語でつけられる。人の名前を元に学名をつける場合は基本的に、男性なら「i(イ)」、女性なら「ae(アエ)」を名前の最後につけることが多い。のび太君は男の子だから、iがついてノビタイになったんだよ。
記者さんたちの中で「イ」に疑問を持った人がいたか、読者から質問が寄せられたかはわかりませんが、やはり気になるもののようですね。
あわてて記事がアップロードされる前にこの追記を書き込みました。私のこの記事が新聞の後追いにならなくてよかったです。
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