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2021年4月19日 (月)

「におい」の話:1

朝日新聞で
(リレーおぴにおん)日本のにおい
という連載をしています。
その第1回目から引用↓

(リレーおぴにおん)日本のにおい:1 ウイスキー、神社仏閣の香り 輿水精一さん
2020年12月8日 5時00分

 ウイスキーは醸造したものを蒸留し、10年、20年という時間、たるに入れて寝かせます。蒸留は香りを濃縮していく行為でもあり、さらにたるの中で、香りの複雑さが圧倒的に増していく。香りを楽しむことこそが、ウイスキーの最大の魅力だと思います。
 ・・・
 ブレンドウイスキーは時には30種類の原酒を混ぜてつくります。欠点のない繊細な香りがする原酒ばかりを集めても、線が細いものにしかならない。一見正反対な異質な酒を少量加えると、ぐっと深く奥行きのある味、香りになります。ちょっと変わったヤツが必要なんですよ。優等生ばかりを集めていてもいい酒になりません。

こんな話でした。

近年、「匂い」という言葉を、「臭い」と書いて「におい」と読ませることが普通になりましたね。
「におい」という言葉は含蓄があって奥深い意味を持っているんですがね。
「色」にも使いますよね。
それが「臭い」という表記ばかりになって、忌避の対象になってしまったような気がするのです。
「におい」はいけない、「におう」ものは避けよう。生活から「におい」を消し去ろう。
「におい」を悪者にして、「におい」は退治、追放。無臭や芳香ばかりがもてはやされる。
人は動物。生きている限り「におう」のです。匂わない人間なんていません。お化けじゃあるまいし。
匂いたくなければ生きていることをやめるしかないと思っています。

一見正反対な異質な酒を少量加えると、ぐっと深く奥行きのある味、香りになります。ちょっと変わったヤツが必要なんですよ。優等生ばかりを集めていてもいい酒になりません。

これがすっごく大事なことです。
マリリン・モンローが「シャネルの5番を身につけて寝る」という当意即妙な切り返しを行ったということで有名な「シャネルの5番」。これ、実は香水という概念にある意味で革命的なものだったのです。

↓ここから引用します
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/biological-chemistry/profile/essay/essay15.html
生物化学研究室 東京大学大学院 農学生命科学研究科 応用生命化学専攻
「ワイナート」2009年5月号に掲載されたコラムです

「もっとも人間的なもの、それは匂い・・」という言葉を残したココ・シャネルの創った香水のなかで一番有名なものは「シャネルNo.5」である。なぜシャネルNo.5は斬新でセンセーショナルなデビューをしたか。それは、良い香りを混ぜれば良い香水ができるという定説を打ち破り、アルデヒド類といった単独ではどちらかというと嫌な匂いを、ふんだんに使った初めての香水だったからだ。その後、香水には必ずといってもいいくらい臭い匂いを少しいれるようになった。そうすると香りの奥行きの深さが広がるのである。

よい香りだけでは深みがない。単独で濃いと悪臭になるものが、香水には必要なのです。

40代のころ、文系志望の3年生の選択化学という講座をつくったことがあります。
「色」とは何か、色素と顔料の違いは、洗剤・界面活性剤とは、化粧品とは、農薬とは、食品添加物とは、などなど、いろいろ実験しながらやったのですが。その化粧品の時に私が参考にしていた本から部分引用します。平仮名表記を漢字にしたり、ちょっと手を加えて読みやすくしました。


「現代香粧品学」岸 春雄 著 講談社サイエンティフィク 1980年発行 第2刷 より
p.30

 A.天然の動物性香料
a.麝香(じゃこう)Musk
 ジャコウジカのオスに特有な生殖腺嚢から分泌する香料であり・・・香気の化学成分は大環状ケトンの一種でムスコン(muscone)と呼ばれる物質である。

b.霊猫香(れいびょうこう)Civer
 野性の霊猫(ジャコウネコ)はアフリカ、南米、アジア(日本を除く)の山野に穴居する。オス、メスともに肛門および生殖腺嚢より霊猫香を分泌する。・・・香気の化学成分は大環状ケトンの一種でシベトン(civetone)と呼ばれる物質である。

c.ビーバー香(海狸香・かいりこう)Castoreum
 ビーバーはアジア、アフリカ、ヨーロッパの北部の湖中に生活し、オス・メスともに肛門近くの梨状の分泌嚢よりビーバー香を分泌する。香気成分はアルコールに可溶の樹脂状物質のほか、数種の芳香族ケトン、アルコールなどを含む。

d.龍涎香(りゅうぜんこう)Ambergris
 マッコウクジラの胃腸内にできる淡褐色の異物で、イカの多食による病的排泄物であるとされている。・・・香気成分はアンブレインのほか数種の芳香族ケトンを含んでいる。

「ケトン」という言葉がでてきますね。これは「・・・C=O」というグループで、アルデヒドもケトンです。このCOというグループをもつ物質は、濃いと大抵、刺激的な悪臭があります。シャネルが使ったのもアルデヒド。香りが引き立ったのですね。

最近おっそろしく評判が悪いのが「加齢臭」。その匂いのもとは「ノネナール」といわれています。
「ノナン」は炭素9個の鎖のこと。「ノネン」はそこに二重結合が入っているという意味。語尾の「アール」はアルデヒドの意味です。ハイ、オジサン・オバサン臭はアルデヒドなんだ。ふ~ん。ごく薄く香水に入れると引き立つ芳香になるかもしれませんよ。そんなことやった人はいないけど。

★今回の最後に「もう一発」
「糞臭・便臭」は、まさしく「くさい」ですが、その匂いのもとはスカトール。アルデヒドではないのですが・・・
↓Wikiから引用
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%AB
スカトール

スカトール (skatole) は、複素環式芳香族化合物の一種で、インドール誘導体。毒性のある白色結晶。ギリシア語で糞を意味する skato から命名された。

性質
天然には、哺乳類の糞(消化管内でトリプトファンから分解される)、ビート、コールタールなどから単離され、強い糞臭を持つ。 低濃度では花の香りを呈し、実際にオレンジ、ジャスミンやある種のトロピカルフルーツの花の香気成分に含まれている。またこの物質は、多くの香水の香料や定着剤、タバコの香料および添加物[1]として使われている。

「多くの香水の香料」にも使われているのです。

↓広辞苑から、参考までに。

におい【匂】ニホヒ
①赤などのあざやかな色が美しく映えること。万葉集[10]「黄葉もみちばの―は繁し」
②はなやかなこと。つやつやしいこと。万葉集[18]「少女らがゑまひの―」
③かおり。香気。狭衣物語[3]「かうばしき―」。「香水の―」
④(「臭」と書く)くさいかおり。臭気。「すえた―」
⑤ひかり。威光。源氏物語[椎本]「つかさ位世の中の―も」
⑥人柄などの、おもむき。気品。源氏物語[幻]「かどかどしう、らうらうじう、―多かりし心ざま、もてなし、言の葉」
⑦(「臭」とも書く)そのものが持つ雰囲気。それらしい感じ。「庶民的な―」「犯罪の―」
⑧同色の濃淡によるぼかし。
 (ア)染色法また襲かさねの色目などで、上が濃く、下が薄い配色。上を濃くするのを普通とし、下を濃くするのを裾濃すそごという。
 (イ)匂縅においおどしの略。
 (ウ)女のかき眉の下の方の薄くぼかしたところ。
 (エ)日本刀の刃の、地肌との境目の部分に霧のようにほんのりと見える文様。最も大切な見所の一つ。
⑨芸能や和歌・俳諧などで、そのものに漂う気分・情趣・余情など。花鏡「一声の―より、舞へ移る境にて妙力あるべし」。去来抄「移り、―、響きはつけざまのあんばいなり」 →匂付においづけ。

◇「臭」は、好ましくないものに使うことが多い。

広辞苑第六版より引用

書きたいことがいろいろ絡まり合ってしまって、次回がいつになるかはわかりません。そのうち。また。

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