立春を過ぎました
「立春」を「理科年表 2021」で見ますと。
立春:太陽黄経 315 度:2月3日 23:59
とあります。
あれ?立春って「日」じゃなくて「時刻」なの?と思いませんか?
そうなんです、天文学的に太陽の位置が前の春分から315度進んだ位置を通過するときが「立春」なのです。
で、その時刻を含む日を「立春の日」とするわけですね。
決して、昔の人が気象観測を続けて、この日あたりから春めいてくるぞ「春が立つ」ぞ、として決めたのではないのです。
ですから「『暦の上』では立春なのに寒い」というような表現はよくないのですけどね。気象情報などでみんなそういう表現を使いますね。二十四節気というのは「古い暦」に属するもので、しょうのないものだ、というような感覚があるのでしょう。
太陰暦は「月の暦」ですから、季節を反映しにくいんです。季節を産み出すのは月ではなく太陽ですからね、月の暦には必ずずれが起きます。そこで太陽の動きを入れて季節とずれないようにした、それが太陰太陽暦です。
二十四節気は太陰暦に埋め込まれた太陽暦なんです。
春分・夏至・秋分・冬至という二至二分はもう、考えるほどのこともなく名前が決まりますよね。
その間をもう半分にしたのが「立」。
春分・立夏・夏至・立秋・秋分・立冬・冬至・立春 これで二至二分四立(にしにぶんしりゅう)です。
これは太陽黄経だと45度ずつになります。
365日で360度をまわると大雑把に考えて、約45日区切りになるわけです。
暦としてはちょっと「粗い」ので、さらにそれぞれの期間を3等分しましょう。
そうすると、45/3=15 で約15日区切りができます。これが二十四節気なのです。
太陽からのエネルギー流入量が最大になる夏至を過ぎて約45日。北半球が暖まりきった頃が立秋。立秋に暑いのはあたりまえ。逆にエネルギー流入量が最少の冬至を過ぎて約45日。冷え切った頃が立春なのです。
立春に寒いのも当たり前なのですね。
最高気温・最低気温の平年値と太陽高度とをこのグラフで見てください。
上で書いた「暖まりきるのにも冷え切るのにも時間がかかる」ということが分かると思います。
立春はは2月はじめ、立秋は8月のはじめのところです。
★さて、実際のところでは、東京で
気温の底は
最高気温:1/18~1/27 9.3℃
最低気温:1/23~1/28 0.7℃
今年の立春2/3の最高気温の平年値は9.6℃、最低気温の平年値は1.0℃です。
立春の少し前に気温の底を通り抜けています。
日の出が一番遅かったのは 1/1 ~1/13 で、 6:51 でした。
日の入りが一番早かったのは 11/28~12/12 で 16:28でした。そして
2/3の立春には日の出が6:40、日の入りは17:10でした。
朝が明るくなり、日脚が伸びてきたなと思えるようになりました。
★「名前」の怖さ
ある対象について議論するためにはその対象に名前をつけなければなりません。そうでないと言語化されていないものについての議論はできませんからね。そして命名というものは、対象のある側面、性質の一部を抽出して行うものですね。
ところが、一旦名前が付いてしまうと、人はその名前に引きずられる。まるでその名前が対象のすべてを表しているような気になってしまうことも。
「立春」という名前は、太陽の位置について冬至と春分の中間点だからという命名です。
でも「立春」という名前から、あたかもこの日から春が始まるんじゃないか、という解釈が生まれてしまう。
旧暦なんだから、昔の人はきっとそう考えたのに違いない。となりがちなのですね。
「昔の人」というのをある種「遅れた人」のように考えがち。でもね、暦というのは政治権力の証でもあるので、古代からものすごく精密な天文観測が行われていたんですよ。日食が約18年の周期で起きるというサロス周期は、紀元前のアッシリアの時代には知られていたといいます。
名前というものには注意深く接することが必要です。そうしないと、同じ「名前」の下で違うものを指していたりして、議論がかみ合わなくなってしまいます。どうぞ、要注意。
詩の世界などでは言葉のもつ意味の広さ、ある種のあいまいさ、意味の重なり、そういったものが重要ですが、自然科学では、名前は「定義用語」であって、その定義を逸脱した意味で使うことはできません。
私はどうも詩人ではないので、こんなことを書きたくなるのでしょうね。
★もういっちょ
今年は節分が一日早かった、ということが話題になりましたね。
で、手元というか足元というかにあった理科年表を何冊か調べてみました。
2018年 2/4 06:28
2019年 2/4 12:14
2020年 2/4 18:03
2021年 2/3 23:59
2022年 2/4 05:51(国立天文台のサイトから)
約6時間ずつずれるんですね。
1年の長さが約365.2422日だということの影響ですね。
私は小学校の先生に教わった「5時間48分46秒」というのをいまだに覚えてますよ。
「こんよはよむ:今夜は読む」というような語呂合わせでね。
つまり閏年が必要になるのと、節分・立春がずれるのは同じ理由なんです。
↓素晴らしい解説です
https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/topics/html/topics2021_2.html
節分の日が動き出す
豆まきなどの行事でおなじみの節分,節分はいつかと聞かれたら2月3日と答える人も多いだろう.しかし,この日付は固定ではなく,令和3年(2021)には2月2日となる.3日でなくなるのは昭和59年(1984)2月4日以来37年ぶり,2日になるのは明治30年(1897)2月2日以来124年ぶりのことである.どうしてこのようになるのか,簡単にまとめておこう.
節分は季節を分けるという意味の雑節で,本来は各季節の始まりである立春・立夏・立秋・立冬の前日それぞれを指すはずだが,そのうち立春の前日だけが残ったものとされている 1).つまり,立春が定まれば節分もその前日として定まるわけだ.
図1:立春の推移(予測を含む)
では立春はというと,春分や秋分と同じく二十四節気の1つであるから,2012年のトピックスで説明した秋分と同じ理屈で同じように変動する.すなわち,1年ごとでは1太陽年 365.2422日と1年 365日の差~約6時間ずつ遅くなる一方,うるう年には4年前より少し早くなる,というパターンだ (図1).
こうして,しばらく2月4日の中に納まっていた立春の日が令和3年には2月3日へ移り,その前日たる節分も連動して2月2日へ移ったという次第である.
備考
1) これは立春が太陰太陽暦の正月に近く,年の変わり目の意味合いが強いからと言われる. → 本文(1)に戻る
ここにある図1というのが最高。是非ご覧ください。
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