集中治療室で火事
↓下のような記事がありました。
病院の集中治療室で火事 新型コロナ患者10人死亡(NHK 2020年12月20日 6時27分)
トルコ南東部の病院の集中治療室で火事があり、新型コロナウイルスの患者10人が死亡しました。地元の自治体によりますと、患者の酸素吸入のための機器から火が出たということで、当局が原因を調べています。
・・・
自治体によりますと、患者の酸素吸入のために使用されていた機器から火が出て爆発が起きたということで、当局が当時の状況や火が出た原因を詳しく調べています。
・・・
これを読んでいて、ふと思ったのですが、「爆発」ですか?「爆発的燃焼」ではなかったでしょうか?
「酸素吸入のための機器」でしょ。そこから酸素が漏れて酸素濃度が高くなっていたとか。
患者さんの呼吸量を超えた酸素が流出して付近の酸素濃度が高くなっていたとか。
そんなことはなかったのでしょうか。
空気中に約20%含まれていて、生命の維持に不可欠な気体ですが、助燃性がありますので、濃度が高いと通常では考えられないような燃焼が起こり得ます。普段燃えるとは考えていないようなものが、爆発的に燃えたりするのです。
↓都立荏原病院。高気圧酸素治療について。
http://www.ebara-hp.ota.tokyo.jp/bumon/koukiatusannso.html
治療には酸素を使用しています。事故防止のため、以下のものは持ち込み禁止です
機械類
補聴器・携帯電話・携帯用音楽プレーヤー・携帯用ゲーム機など全て(本・雑誌は持ち込み可)
白金カイロ・使い捨てカイロ
マッチ・ライター等発火物
コンタクトレンズ(めがねは持ち込み可)
使い捨てカイロは、鉄粉の酸化熱を利用するものです。通常の空気中で鉄粉が酸化して60℃程度の温度を維持するのかな。それが高濃度酸素下では爆発的に「燃える」のです。
↓事例
http://www.sydrose.com/case100/113/
山梨厚生病院で高気圧酸素治療装置のタンク爆発
【事例発生日付】1996年2月21日
【事例発生場所】山梨県山梨市
【事例概要】山梨厚生病院2号館4階の高気圧酸素治療室で、高気圧酸素治療装置のタンクが爆発。患者ら5人死傷した。患者が持ち込んだ使い捨てカイロの発熱が原因であった。
・・・
【原因】
1.患者が使い捨てカイロを身に付けているのを見逃した・・・・・マニュアル(手順)無視
病院の内規では、同室にはカイロや静電気を起こす化学繊維の持ち込みを禁止し、患者 は専用衣服に着替え、治療にあたる臨床工学技師がボディチェックを行なうことを、定 めていたが、事故当時、技師によるボディチェックは行なわれなかった。 また、患者は、中が寒いため(推定)、普段着ている肌着にアクリル製毛布を着用して 入っていた。2.装置のタンク材料の選択誤り・・・・・設計の仮想演習不足
患者が持ち込んだ使い捨てカイロが装置内で異常発熱して内部の温度が上昇し、装置のタンクを覆うアクリル樹脂が 溶けてガス化、爆発した。ガス化しない材料を選択していれば、これほど被害は大きくならなかった。タンクの胴体は、 外から患者の様子が見えるように、透明のアクリル樹脂が使われ、2重構造になっていた。
使い捨てカイロは酸化の速度が猛烈に上がるということで危険。衣服の静電気の放電も危険なんです。
普段意識しないことなので危険はさらに増します。
↓厚生労働省の報道発表資料です。
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000003m15_1.html
在宅酸素療法における火気の取扱いについて
しかしながら、酸素濃縮装置等を使用中の患者が、喫煙等が原因と考えられる火災により死亡するなどの事故が繰り返し発生しているため、改めて注意喚起を実施するものです。
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11125000-Iyakushokuhinkyoku-Anzentaisakuka/2r98520000003m2n.pdf
・酸素吸入中は、絶対にたばこを吸わないでください。
・装置の使用中は、周囲2m以内に火気を置かないでください。
在宅酸素療法でも危険がある。2m以内に火気を近づけないとあります。
今回、集中治療室の酸素吸入のための機器が「爆発」したというのは、高濃度酸素の状況下で、何か火花が飛んだとか、そんなことがあったりはしなかったか、と私などは考えてしまうのでした。
COVID-19の大流行の中で、「酸素吸入」はどこでも行われている。充分な注意が必要だと思うのです。乾燥した空気中ですから、衣服のこすれだって危ない。
誰か、声を大きくして警告してくれないかなぁ。
★思い出すのはアポロ1号の事故。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%9D%E3%83%AD1%E5%8F%B7
アポロ1号
アポロ1号は、アメリカ合衆国のアポロ計画において、1967年2月21日の発射を目指して準備が進められていた最初の有人宇宙飛行計画である。AS-204(アポロ-サターン204)の指定番号が与えられている。同年1月27日、ケープ・カナベラル空軍基地34番発射台上で発射の予行演習を行っていた際に発生した火災により、船長ガス・グリソム (Virgil I. "Gus" Grissom)、副操縦士エドワード・ホワイト (Edward H. White)、飛行士ロジャー・チャフィー (Roger B. Chaffee) の3名が犠牲になり、司令船も焼失した。
この時は、宇宙船内の呼吸気体が高圧の純粋な酸素だったのです。そのなかで、電気的な火花かなんかが飛んだのではないかといわれていますが、確定はできませんでした。逃げることのできない瞬間的な火災だったのです。この事故を契機にして、呼吸用気体の成分が変更されました。現在はほぼ地上の空気と同じ組成になっているはずです。
酸素は怖い気体なのです。
« 英語感覚について。いくつか(また) | トップページ | 物理的な距離(?) »
「理科おじさん」カテゴリの記事
- 化学の日(2022.10.26)
- 秒速→時速(2022.09.01)
- 風速75メートル(2022.08.31)
- 「ウクライナで生まれた科学者たち」(2022.05.31)
- 反射光(2022.05.09)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント