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2020年3月25日 (水)

諏訪兼位先生を悼む

22日の日曜日、朝日新聞の朝日歌壇に掲載された短歌。
朝日歌壇(2020.3.22)

高野公彦選
「わすれても大丈夫、僕が覚えておくよ」日福大生の認知症カルタ:(名古屋市)諏訪兼位

評:一首目、日本福祉大学の女子学生たちが作ったカルタ。どの札も優しさに満ちているのだろう。なお、諏訪氏は3月15日逝去。

あれっと思ったんですよ。3月15日に亡くなられた諏訪先生の短歌です。先生の生涯の歌集が編まれたら詳細がわかるかもしれませんが、思うに、この一首は諏訪先生のほぼ最後の歌なのではないでしょうか。
カルタを手にして、若い女性の優しくしなやかな感性を感じとり包まれて、穏やかな心持になられたのではないか。
ご自身の意識は明晰であられる。こういう「別れ」にあこがれてしまいます。
自分は今、去っていくのだ、ということを明晰に意識しながら去っていきたいな。わたくしも、かくありたい。
ずしん、と心に響きました。

★諏訪先生は「岩石学者」であられました。そして朝日歌壇の常連でもあられました。
何百首も掲載されたのではないかな。
科学者であり、歌人である。
朝日歌壇の選者でもある永田和宏さんも同様に科学者であって歌人であられる。
こういう「境界を超える人」を私は尊敬します。
永田さんは私と同世代なので「さん」と呼ばせていただきますが、諏訪先生は20歳ほど年上ですので、やはり「先生」です。

諏訪先生の著書では

  諏訪兼位 『科学を短歌によむ』 岩波書店〈岩波科学ライブラリー〉、2007年。
  諏訪兼位 『岩石はどうしてできたか』 岩波書店〈岩波科学ライブラリー〉、2018年。

この2冊を読みました。大事な読書、です。

★「岩石はどうしてできたか」の第2章9節は「月の岩石学事始め」です。

 人類初の月面着陸と船外活動が行われたのは1969年7月のことであった。アポロ11号は、静かの海に着陸し、ソイルと岩石試料が採取された。
 アポロ11号が持ち帰った試料を、久城育夫はヒューストンのNASAで同年10月3日に受け取った。
 久城と中村保夫、原村寛の三人は、早速分析にとりかかった。初めて月の岩石を顕微鏡の下で見た時、彼らは感動した。
(後略)

ご自分が分析にあたったわけではありませんが、おそらく興奮し感動しながらその報告に接されたと思います。
地球上の岩石学が月を見たのですから。人類初の研究だったのです。

★更に、思い出すのは、小惑星探査機「はやぶさ」が帰還した時に諏訪先生が朝日歌壇に投稿なさった歌。

朝日歌壇(2010/12/12)
佐佐木幸綱選
イトカワの石採り帰りし「はやぶさ」よ決め手となりしか単硫化鉄:(名古屋市)諏訪兼位

さすがですね。
地球の岩石を深く探求されて、ついに宇宙の石を見るに至った。おそらく大いに喜ばれたことだったでしょう。
深く感じ入りました。
諏訪先生は、地球に還られた。地球に遍在となられた。いえ、宇宙に遍在となられた、と感じます。
「君、石ころはかわいいよ」とか言われそうな気がします。

★話がそれます。
●永田和宏さんの、『知の体力』新潮新書 2018年、という本をお勧めします。短歌の本ではありません。
私は読書していて、気に入ったところがあるとページの端を折る「ドッグ・イヤー」にする癖があるのですが、この本はほとんどすべてのページをドッグ・イヤードにしてしまいました。すごい著作です。

●短歌とは関係ないのですが、大学院時代に友人だった野家啓一さんも、境界をまたぐ人だったな。
東北大学では物理を専攻して、東大の大学院で科学史・科学基礎論を修め、日本哲学会の会長もなさった方です。
巨人ですね。すごい人はすごいのです。
{すごくない私はすごくないのです}


↓諏訪先生の訃報

諏訪兼位さん死去(朝日新聞デジタル 2020年3月18日 5時00分)
 諏訪兼位さん(すわ・かねのり=元名古屋大理学部長・地質学、元日本福祉大学長、歌人)15日、上腸間膜動脈塞栓(そくせん)症で死去、91歳。葬儀は近親者らで行った。喪主は妻佳子(よしこ)さん。
 岩石、鉱物学を研究した。戦争体験や時事、日常を詠み、92年と09年に朝日歌壇賞を受賞。

 

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