マラソンの暑さ対策
★8月7日付の朝日新聞のコラム「天声人語」を読んでいましたら、ウェザーニューズがマラソンコースの気象状況を調べているのだそうです。来年の東京オリンピックで、マラソンは8月9日の7時スタートの予定だったのが、猛暑を懸念して6時に繰り上げたとのこと。で、オリンピックの前の年の今年、マラソンコースの気象状況を調べているということです。
選手も朝っぱらから大変ですよね。睡眠・食事・ウォームアップなど、どういうペースで進めるのでしょう。
★さて、このコラムで、ウェザーニューズの方の言葉が紹介されていて
「1時間前倒しすることによって気温はたしかに下がりますが、反比例して湿度は高くなります」
とのこと。
ここで私はちょっとコツンとくるんですね。
この言葉をちょっと分解して
「1時間前倒しすることによって気温はたしかに下がりますが、湿度は高くなります」
これなら素直に受け取れるのです。どういうことかといいますと。
2019.8.9
今年の8月9日の気温と、蒸気圧と、湿度のグラフです。
湿度は右目盛りで読みます。(%)
気温と蒸気圧は左目盛りですが、
気温は℃
蒸気圧はhPa
で読みます。
ここでの蒸気圧というのは水蒸気圧のことです。空気中に存在する水蒸気量と考えてください。
ちょっと下がった時もありますが、大体一日中30hPaちょいのあたりでした。
湿度というのはこの場合、相対湿度です。相対湿度というのは
相対湿度(%)=((その空気の水蒸気圧)/(その気温での飽和水蒸気圧))×100
です。
そうすると、その空気の水蒸気圧がほぼ一定である場合、飽和水蒸気圧が大きい方が相対湿度は低くなります。
気温が高くなると飽和水蒸気圧も高くなりますので、気温が高くなると相対湿度は下がり、逆に気温が低くなれば相対湿度は高くなります。
グラフを見ると、その関係がはっきりわかりますね。
ですから、「1時間前倒しすることによって気温はたしかに下がりますが、湿度は高くなります」という発言は素直にそのまま受け入れられます。
★4時から9時までの具体的数値
気温 蒸気圧 湿度
4 26.4 31.3 91
5 26.9 31.9 90
6 27.5 31.6 86
7 29.0 32.9 82
8 30.5 32.8 75
9 32.0 32.8 69
(今年の8月9日でみると)
朝7時スタートだと、その時点でもう29.0℃。約2時間後の9時には32.0℃ですよ。これはきつい
朝6時スタートだと、27.5℃でスタートして、30.5℃でゴール。少しは楽になるということですね。
ところが、湿度の方は7時スタートなら82%から69%へ、ですが。
6時スタートだと86%でスタートして、ゴール時75%。逆に汗は乾きにくくなるわけです。
★さて、天声人語に書かれていた言葉の「反比例して」という部分に引っかかりがあるのです。
y=1/x なら「yはxに反比例する」でいい。
例えば、万有引力の式だと、万有引力は「距離の自乗に反比例」します。{煩雑なので式そのものは書きませんが}
飽和水蒸気圧は温度によって変化しますが、すなおな「反比例」ではないんですね。
これもまた煩雑ですので書きませんが、ややこしい近似式があります。
「温度の値が大きくなると相対湿度の値は小さくなる」という関係を「反比例」と表現なさったのでしょうけれど、あまりいい気分ではありません。「反比例」という言葉抜きで表現した方がいいと思います。
★とにかく過酷なレース環境にはなるでしょうね。選手の健康を祈るばかりです。
{ちなみに、私はオリンピックにもパラリンピックにも、全く関心がありません。「競う」という価値観から自分を引っぺがして生きてきた男ですので。}
↓わかりやすい解説です。読んでみてください。このページの下の方に、気温と飽和水蒸気圧の式もあります。
https://www.s-yamaga.jp/nanimono/taikitoumi/kukichunosuijoki.htm
第6章 空気中の水蒸気
1.空気が含むことができる水蒸気
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