先日↓こういう記事を書きました。
2018年12月 4日 (火) 英語のオノマトペ
今回は、「英語のオノマトペ:チューチュー」です。
★読書から。引用します。
「科学者の目、科学の芽」岩波書店編集部 編、岩波科学ライブラリー 248
汽車の汽笛は本当にポッポーか?
―――オノマトペと「世界を認知する網」
下條信輔
あるとき、当時保育園児だった息子と先生(保育士)の会話を何気なく聞いていて、仰天したことがある。記者の汽笛の音を真似して戯れていたのだが、その音を先生が「チューチュー」と発音したからだ。
・・・もちろんこちらが驚いたのは、汽笛の音の表現だ。「汽車の汽笛はポッポーで、逆立ちしてもチューチューとは聞こえないぞ」と。
・・・「科学」2014年11月号
「汽笛」じゃないと思うんですよ、いくら何でも。走行音でしょう、おそらく。
この息子さんは米国生まれの米国育ち。保育園では英語、家庭では日本語という生活をしていたのだそうです。
さて、この文章を読んで私は「アッ」と思いました。古い記憶、ニール・セダカの「恋の片道切符」です。1959年だったそうです。
小学校の上級生くらいのころに流行った歌。「チューチュー・トレン、チャギダンザトラック」←小学生が耳で聞きとってカタカナ化したもの。
英語の歌詞↓
Neil Sedaka – One Way Ticket
Choo choo train
a-chuggin’ down the track
Gatta travel on,
never comin’ back woo ooo
Got a one way ticket to the blues
「ネバカミバック、ウウウウ~、ガタワンウェイチケトザブルー」とまぁ、お恥ずかしい。ラジオで聞いて耳で覚えたのでした。意味なんかまったく分かってなかった。
で、本題。「チューチュートレイン」の「チューチュー」は「しゅっしゅっ」と同じようですね。機関車の走行音の擬音ですよね。この歳になって初めて知ったのでした。
https://ejje.weblio.jp/content/%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%83
シュッシュッの英語
choo-choo; chug-chug; chuff-chuff; hiss-hiss
「汽車ポッポ」という歌の「シュッポ シュッポ シュッポッポ」というのはちょっと疑問。
このあたりが、日本人の擬音認識の「型枠」になってませんか?
擬音が先行して、実際の音をそのように聞いてしまっているような気がします。
「汽車ぽっぽ」の歌詞
お山の中行く 汽車ぽっぽ
ぽっぽ ぽっぽ 黒い煙を出し
しゅしゅしゅしゅ 白い湯気ふいて
この方がまだ実際の音に近いのではないかと感じますが。
湯気を噴く走行音は「しゅしゅしゅしゅ」であって、「choo-choo」と似てますよね。
煙を出す様子を音というよりは視覚的な擬音で「ぽっぽ」と表現したような気もします。
https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/2655_30646.html
宮沢賢治の「シグナルとシグナレス」に「ガタンコガタンコ、シュウフッフッ」という表現があります。
この「シュウフッフッ」という擬音はなかなかいいと私は思います。
★脱線ですが、「シグナレス」ってナンダ?とわからなかった。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%B0%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%81%A8%E3%82%B7%E3%82%B0%E3%83%8A%E3%83%AC%E3%82%B9
本線の信号機シグナルと、軽便鉄道の小さな腕木式信号機シグナレスの、淡く切ない恋物語。賢治独特の暖かいユーモアに満ち溢れた作品である。シグナルは東北本線の信号機が擬人化された男性のキャラクターで、シグナレスは釜石線(当時は岩手軽便鉄道)の信号機が擬人化された女性のキャラクターである。賢治が居住していた岩手県花巻市の花巻駅にはこのふたつの路線が乗り入れており、そこから着想を得た、と言われている。
はあ、-essをつけて女性名詞化したんですか。宮沢賢治さんの創作ですよね。ちょっと私にはいただけない造語です。
-ess []
{接尾語}女性名詞を作る.
パーソナル英和辞典より引用
★さて、「choo-choo」に戻りますが。
「いたずらきかんしゃちゅうちゅう」という絵本がありますよね。まったく意識していなかったのですけれど、今回これはchoo-chooなんだと気づいた次第です。そうだったのか。
https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=3
いたずらきかんしゃちゅうちゅう
バージニア・リー・バートン 文・絵 / 村岡 花子 訳
初版年月日 : 1961年08月01日(原作は1937年)
バートンさんの最初の絵本だそうですが、現在も親しまれている息の長い作品です。
★また脱線するのですが、バートンさんというと「ちいさいおうち」「せいめいのれきし」なども思い出します。
岩波科学ライブラリー260 「深読み!絵本 せいめいのれきし」真鍋 真 著という本を読んで、またびっくり。
「せいめいのれきし」の改訂版を出版する際に、国立科学博物館の真鍋 真さんに監修してもらったのだそうです。
その「コラム1 『せいめいのれきし』と改訂版について」という岩波書店児童書編集部の文章から引用します。
『せいめいのれきし』は、地球の誕生から、今この瞬間まで続く命のリレーを、5幕34場のお芝居に見立てて描いた絵物語です。アメリカの絵本作家バージニア・リー・バートンが、アメリカ自然史博物館に通ってスケッチをしたり勉強したりしながら、8年もの歳月と情熱をかけて1962年に完成させた傑作です。・・・
そうだったのか!
幼い人にこそ本物を
幼い人向けの本だからといって、簡単に流したりレベルを下げたりしてはいけないのです。むしろ、幼い人向けであるからこそ、本物を提示しなければなりません。
美術、音楽など芸術分野でそういう主張を聴くことがありますが、自然科学分野だって同じこと。一切の容赦なし、本物と衝突するのがよい。その経験が将来の理解を支えるのです。もちろん、学術書そのものでいいといってはいません。優しい言葉で、本質を外さず、媚びず、まっすぐに。
実はこれ、私、教師としての自分への戒めだったんです。一切の容赦はしない、手抜きしない、妥協しない、本質を貫く授業をしたい。とね。無謀な教師だったかも。
バートンさんがこの絵本をつくるのに8年もかけた、ということ。本物の作家が全力でつくった本物の絵本だからこそ、長く愛され続けるのです。
手抜きして安直にコピペで済ませるなよ。警鐘!