書籍「温度をはかる」から
「温度をはかる 温度計の発明発見物語」 板倉聖宜 著、仮説社、2002年8月4日発行
こういう本がありまして、そこから、部分引用します。
なお{ }内はブログ筆者の書き込みです。
★112ページ
ファーレンハイトは「<この世で一番冷たい温度>を温度計の0度に決めたい」と思いました。・・・そのころ<一番冷たいもの>というと、<雪(氷)と塩を混ぜて融けた寒剤が一番冷たいもの>と思われていました。そこで、その温度を0度にしたらいい、と考えました。
・・・彼は「氷と塩の寒剤の温度を0度とすると、<人間の体温>は、<氷の融ける温度>のちょうど3倍ほどになっている」ことに気付きました。彼は「これは面白い」と思ったのでしょう。
「<氷の融点>を32度として、<人間の標準体温>をその3倍の96度としよう」
と考えました。
・・・私たち日本人は10とか100という数字が好き・・・欧米人は10より12、100より60を好む傾向があります。1ダースというのは12個のことだし、1時間は60分、1分は60秒、角度も一回りが360度=60度×6です。また、長い間、英国の貨幣の単位1シリングは12ペンスでした。
じつは、ある長さの直線を10分割するのは難しいのです。最初2つに分けても、そのあと5つに分割するのが大変なのです。ところが、12分割だと、最初3等分すれば、あとは半分にすると1/6になり、さらに半分にすると1/12になるではありませんか。いや、それより32分割の方が簡単です。
32=2×2×2×2×2
ですから、その長さを半分、半分、半分、半分、半分と5回続ければ1/32に分割できるからです。温度目盛りを刻みこむ業者としては、「100等分よりも32等分のほうがずっとやりやすい」ということは明らかです。
この温度目盛りだあと、水の沸点は212度になります。
・・・
{オランダのファーレンハイトさんは、温度計の製造で有名になった人だそうです。のちにイギリスの王立協会の会員に推薦されましたが、もとは温度計を作る人だったのですね。ですから、32等分はやりやすい、という感覚が強くあったのかもしれません。}
★119ページ以降から引用
日本での温度計のはじまり
日本ではじめて温度計を作ったのは、平賀源内(1729-1779)です。・・・1768年になって、ついにその試作に成功・・・
そのとき彼は、すぐに『日本創製寒熱昇降記』という説明書を書いて、試作した温度計とともに仲間に配りました。おそらく彼は、その中に「薬水」としてアルコールを入れたのでしょう。
平賀源内の弟子の司馬江漢という絵描きさんがいますが、司馬江漢は自分で温度計をもっていて、日々の気温をはかって記録したりしています。
{図があって、その中に「寒暖計」という表記があり「タルモメーテル」と振り仮名がついています}
蚕の飼育のために量産された温度計
日本で最初に温度計を大量生産した中村善右衛門という人はとても研究熱心な養蚕農家でした。
・・・
{善右衛門さんが病気をして医者にかかった時に}
善右衛門さんはその先生のところで素晴らしいものを見ました。「まずこれを脇の下に挟んで、しばらく静かにしていてください」と、先生に差し出された体温計です。・・・「これは長崎渡りのもので、身体の温度=体温を計る道具だ」と説明してくれました。善右衛門さんは、その説明を聞いてすぐ、「もしかすると」と考えました。
カイコの飼育をする農家は、「蚕室、つまりカイコを飼う部屋が寒すぎないか、暖かすぎないか」と、いつも気にしていたのです。けれども、それまでの農家では、部屋の温度はみな農家の人の肌の感じだけに頼っていたので、ときどき養蚕に失敗することがあったのでした。そこで善右衛門さんは「蚕室にこんな道具があったら、一人ひとりの感じだけに頼らなくてすむだろう」と思ったのです。
・・・
そして、その研究が一通り完成すると、その温度計に「蚕当計(さんとうけい)」と名付けました。「カイコ(蚕)の飼育で当たる(成功する)計(はかり)」というわけです。『蚕当計秘訣』という説明書をつけた彼の温度計が売り出されたのは、1849年のことです。
さいわい、その温度計=蚕当計はよく売れました。
・・・
★というわけです。私、多少、科学史に首を突っ込んだことがあるものですから、いろいろそんなことも調べる習性がありまして。
お楽しみください。
★欧米人は10より12、100より60を好む傾向があります。という記述で思い出しました。
ファーレンハイトより前に結構使われていたという「レーマー度」というのがあります。
「塩水の凝固点を0度、水の沸点を60度として、その間を60等分した」のです。なるほど、「60」ですね。
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