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2018年2月20日 (火)

酸化チタンの性質

前の記事で、チタンとその酸化膜のお話をしました。
普通に「酸化チタン」というと「二酸化チタン」(公式には「酸化チタン(Ⅳ)」)です。SiO2 ですね。
で、その二酸化チタンの中には、結晶構造の異なるものが3種類ありまして。
   鋭錐石(anatase)、金紅石(rutile、ルチル)、板チタン石(brookite)
これからお話をするのは金紅石(rutile、ルチル)です。
0121_13tio2_1 1.21
きれいでしょ。
0121_13tio2_2
通称「チタニア・ダイヤ」と呼ばれます。ブリリアントカット、なのかな。

★文系3年生の選択化学で「生活化学」をやっていた時のこと。
 色・色素・顔料などの一連の授業を構築しました。「白・黒・そして色」というようなタイトルをつけて授業を展開しました。
水彩絵の具は「色素」が多いですね。
油絵の具は油(液体)に「顔料(固体)」を練りこんだものです。
白い油絵具は、油に何を練りこんであるのでしょう?
白色顔料としては炭酸カルシウム(胡粉)や酸化亜鉛(亜鉛華、亜鉛白)、塩基性炭酸鉛(鉛白、胡粉)などが知られていますが、鉛は有毒なので授業からは除外。
胡粉は貝殻を焼いて作ったりしますが、日本画ならいいとして、油絵具として油に練りこむと「白く」なくなってしまうんです。半透明のような感じ。で、油絵具で白といえば、普通は亜鉛華でしたね、ジンク・ホワイト(zinc white)です。
その「差」はなんなのでしょう?

結晶の屈折率なのです。

液体に固体粉末を練りこむ場合、双方の屈折率が近いと粉末表面での反射率が下がってしまい、顔料としての性能が低くなるのです。ですから、顔料としては、なるべく屈折率の大きな物質を使うのが望ましい。
屈折率について 胡粉<亜鉛華 ですので、油に練りこむには胡粉より亜鉛華の方がいい。

・実験:
ガラスを乳鉢で粉末にします→白い粉ができる、
そのガラス粉末を試験管に取り水を注ぐ→白さが消えて、ほとんど透明になってしまう。
ガラスの屈折率は大雑把に1.5程度。水の屈折率は1.33くらい。
屈折率が近いので、ガラス粉末は水中では反射率が低くほとんど透明になるのです。
(スリガラスのスリ面にセロテープをはったり、水で濡らしたりすると半透明になりますね。あれも同じ。)
(白砂糖が白いのは、透明な結晶を粉末にしたからです。決して「漂白剤」で白くしたものではありません。そんな風説を流した人がいて、砂糖メーカーは大困惑だったようですよ。三温糖の薄い色はカラメルの色です。何度も熱しているうちにカラメルの色が薄っすらついただけ。味気ない言葉で表現すれば「ちょっと焦げた」というようなものです。)

・演示実験:
太い試験管に水を入れその上にベンゼンを入れます。2層になります。その試験管にゴム栓をするのですが、穴を開けて太めのガラス棒を通して、試験管の底付近まで届くくらいにしておきます。
さて、これを持って机間を歩きます。
下の水層ではガラス棒がなんとか見えますが、上のベンゼン層ではガラス棒が「消滅」したような感じ。ガラスとベンゼンの屈折率が近いせいです。
さらにひとこと。水もベンゼンもガラス棒も「無色透明」なのに「どうして見えるんだ?」
屈折率のかわる部分で境界を見分けられるんですね。

・経験:
買い物をしたときの白いレジ袋。ポリエチレンに白色顔料が練りこんであるのですが、何でしょう?
以前は半透明な袋でした。で「買い物のプライバシー」というような言葉で、白い非常に不透明なポリ袋が宣伝されるようになりました。亜鉛華かな?いえ、違うんです。
ポリエチレンに練りこまれているのは二酸化チタンの粉末なのです。

実は二酸化チタン・ルチルの屈折率は非常に大きい。

ルチル 2.62
ダイヤモンド 2.42
あられ石(炭酸カルシウム) 1.69
ポリスチレン 1.59
ベンゼン 1.50
ガラス 1.46
水 1.33
氷 1.31

なんと、ルチルはダイヤモンドよりも屈折率が大きいのです。
ですから、ルチル粉末は、水でも油でも、ポリエチレンでも漆でも、ほとんどオールマイティの白色顔料になるのですね。
油絵具としては「チタニウム・ホワイト」とかがあるはず。白さが際立つ。
ポリ袋に練り込めば、不透明になる。
化粧品に使うと、地肌を覆い隠す「隠ぺい力」が高い。紫外線をほとんど反射する。
漆製品で白があったら、それはルチル顔料。
{つぶやき:人工ダイヤモンドの粉末を練りこんだ化粧品は当然のことながら地肌の隠ぺい力が強いはず。「ダイヤモンドでお肌を美しく!」とか宣伝したら売れないかな。}
というわけです。
そこで、また、柄にもなく化粧品コーナーへ行ってルチルが使われていそうな安い化粧品を買いましたね。不審な中年男性だったかも。

さらに、ルチルの結晶はチタニアダイヤといって、ダイヤモンドフェイクとして使われていると聞き込みました。
ダイヤモンドの指輪とか買ったけど、日常に身につけるのは怖い、なくしたりぶつけたりしたら大変。(ダイヤモンドは硬いですが、もろいですから、強くぶつけると割れますよ、ご注意ください。)
で、普段はフェイクの方を使って、いざという時に本物を使うということなんですね。
で、宝石店へ行きましたよ。ルチルの結晶ください、と。
そうしたら、ルチルだけをお売りするわけにはいかない、悪用されるとまずいので、と断られてしまいました。仕方ない。
この話を授業でしたんですね。そうしたら、前に金箔と洋金箔の違いを教えてくださった生徒のお父さんが、先生なら信用できる、とルチルの結晶、ブリリアントカットしたもの、を商売抜きで譲ってくださったのです。
それが冒頭の写真。
屈折率の高い結晶ほど輝きも強い。ですからこの写真の結晶、ダイヤモンドより輝いているかもしれません。
惜しむらくはルチルの結晶はほんのわずかに黄色味を帯びている。プロなら見破るかも。素人は騙されるかも。
硬度もダイヤモンドの方が高い。素人はそんなことわからない。
というわけで、チタニアダイヤだけを「購入する」ことはできなかったのでしたが、またしても、生徒の親御さんに授業を助けていただいたのでした。

★透明な物体の表面に空気中で光が垂直に入射したときの反射率をグラフ化しました。
0212hansharitu
屈折率はダイヤモンドが2.4、ルチルが2.6。反射率を読み取ってください。
水は1.3ですから反射率が低い。

0212sotaikusseturitu
グラフを描くのに使ったのは上の式です。細かいことを言うと煩雑になりますので、ざっくりとこんなもんだとご了解ください。
下の式は「媒質ⅡのⅠに対する屈折率」の式です。
相対屈折率ですね。
水の屈折率1.3、ベンゼン1.5、ガラス1.5とすると
水(Ⅱ)のガラス(Ⅰ)に対する屈折率は約1.2
ベンゼン(Ⅱ)のガラス(Ⅰ)に対する屈折率は約1.0ですね。
ベンゼン中のガラスは、ほとんど表面からの反射光がない、ということですね。
水中のガラスは、空気中よりも反射光が減り見づらくなるわけです。

余談:透明人間が実在するとして、その透明人間の視覚について論ぜよ。
無色透明で境界面からの反射がないとすれば、透明人間を構成する物質は空気と同じ屈折率である。そんな物質で生命体を構成するのは無理だろう。百歩譲って、透明人間が存在しえたとして、もし視覚があるならそこで光の屈折・吸収が起きるので、屈折の界面が外から識別できるだろうし、光が吸収されればそこは黒く見えるはずだ。完璧な透明人間には少なくとも可視光による視覚はないと考えられる。

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