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2017年11月27日 (月)

スピードスケート

★スピードスケートの高木美帆さんの言葉が物理的に「素敵」。

高木美V、イメージ通り 女子1500 小平10連勝 スピードスケート・W杯(朝日新聞デジタル 2017年11月12日05時00分)
・・・
この日は「氷からの反力を感じながらコーナーで加速。直線ではスピードを維持することを考えた」。
・・・

脚で氷を「蹴る」というか「押す」と、その「反力を感じ」ているのですね。手応えというのも妙かな、脚応えを感じていらっしゃる。氷が脚を押し返してくる、と。作用反作用ですね。
で、その反力がコーナーを回る円運動の「向心力」になっているわけです。
「直線からコーナーを抜けるには、強く外へ蹴出して強い向心力を得ないと回り切れなくなる」のですね。
「直線からコーナーへ入ると遠心力が働くので、ちゃんと踏ん張らないとはじき出されてコースアウトする」というような言い回しの方が普通でしょうね。
どうも一般的に向心力というのはポピュラーではなくて、遠心力の方が有名だ。でもね、物理的にはできるだけ遠心力という概念は避けて、向心力で出来事を考えるのがよいのです。

★さて、9月29日の朝日新聞デジタルでこんな記事がありました↓

インかアウトか、どちらが有利? スピードスケート、500メートルのスタート(2017年9月29日05時00分)
・・・
 ■異なる技術必要
 実際にカーブではどれほどの速度が出ているのか。同連盟の分析では、昨季ワールドカップ長野大会に出場した33秒98の男子世界記録保持者、クリズニコフ(ロシア)は、時速約50キロでインレーンの第1カーブに突入。直線の250メートル付近で最速約60キロに到達し、それに近い速さでアウトの第2カーブに入った。
 この速度でのクリズニコフの遠心力は80キロ近くになる。インの方がより強い遠心力に耐えるため体を内側に傾斜しなければならず、「技術的にも難度が高く、ミスのリスクも高い」(湯田強化部長)。
・・・

1:「クリズニコフの遠心力は80キロ近くになる。インの方がより強い遠心力に耐えるため体を内側に傾斜しなければならず」って、ほらね、遠心力でおいでなさった。
「強い遠心力に耐えるため体を内側に傾斜」させるんじゃないんですよ。
「強い向心力を生み出すために体を内側に傾斜」させるんです。っ。

2:どのくらいの向心力が必要なのか、具体的な数値が出ていますね。「80キロ」という表現はやめてほしい。
「キロ」は「1000」を表す接頭語なので、km、kg、kLなどいろんな単位につけて用いるんです。
ここではキログラム=kgのつもりでしょ。でもkgは質量の単位なので
kgw、とかkgfとして、力を表すようにしなくてはなりません。私はkgfをよく使います。fはforceのfです。
SIとの換算は、1kgf=9.8N です。

上の記事には図がありまして。
「日本スケート連盟の資料から」とありますので、まあいいかな、とここに引用させてもらいます。
As20170928002337_comm
カーブの
インの半径は 26m
アウトの半径は30m

体重70kgの選手が16m/sで滑走した場合
アウトレーンでは597N
インレーンでは 689N

とありますね。
「1N」の説明がありますが、これは定義なので、これではどの程度の力かわからない。
上に私が書きましたように、「9.8Nが1kgw(kgf)となる」と書いた方が親切だ。

さて、やっと準備が整った。高校で物理を選択した方は勉強したはずですが、等速円運動の半径rと接線速度vと向心力Fの関係は
Tousokuenundou
こうなります。
mとvが一定ならFはrに反比例する。これがインコースではより強い外への蹴りだしによって強い向心力を生み出さなければならないことの理由です。
体重mでいえば、体重の大きな人の方が体重に比例した大きな向心力が必要になります。
コーナーへの進入速度の方は、自乗で効いてくる。これは大きな効果ですね。
さて。この式へ
m=70kg、v=16m/s で①r=26mの場合と②r=30mの場合を計算してみましょう。
①ではF=689N
②ではF=597N
こうなると思います。
記事中の図にある数値と同じになりました。
これをkgfにしてみましょう。
①では689/9.8≒70kgf
②では597/9.8≒61kgf
ざっと、自分の体重程度の大きさの力を必要とするようですね。
ということは、クリズニコフさんの体重はおよそ80kgと見積もってもいいでしょうね。

簡単な計算をしてみましょう
「クリズニコフ(ロシア)は、時速約50キロでインレーンの第1カーブに突入。直線の250メートル付近で最速約60キロに到達し、それに近い速さでアウトの第2カーブに入った。この速度でのクリズニコフの遠心力は80キロ近くになる。」

v=60km/h=(60/3.6)m/s≒17m/s
F=80kgf=(80×9.8)N≒780N
r=30m
m=(F×r)/(v×v)=(780×30)/(17×17)=81
ハイ、クリズニコフさんの体重は約80kgでほぼいいようですね。

★ついでに物理の話をもう一つ。
11月18日の朝日新聞デジタルから引用

しなやか小平、W杯11連勝 女子500 スピードスケート・W杯
・・・
速く滑るには、より大きな力で長く氷を押せるかが重要で、その分だけ加速を生むことができる。
 このレースでも、左右の足の瞬間的な切り返しの中で、ブレード(刃)を着氷させたらすぐに氷を押した。一瞬のパワーでは小平を上回る海外スプリンターはいるが、小平ほど氷を長く押せている選手は数少ない。「しなやかな滑り」の神髄はここにある。
・・・

ここではちらっと「力積」の概念が顔を出しています。
ニュートンの運動の第二法則は
F=ma
ですが、力を加える時間を考慮して両辺にtを掛けますと
Ft=mat
となりますが、加速度(1秒あたりでどれだけ速さが変化するか)に時間をかければ、速度の変化量になりますね。
ですから
Ft=mat=mv
こうなるのです。
Ft=mv
「Ft」のことを日本語では「力積」と呼んでいますが、私はいい訳だとは思いません。
「力の効果」とでもしたいですね。そうすると
力の効果は運動量の変化として現れる。
こうなるんです。
小平さんは「弱い力で長時間押し」て、「短時間ではもっと強い力の出せる」選手と対抗できるのでしょうね。

{野球のボールを素手で受けると痛いでしょ、短時間で停止させるからです。分厚いグローブで受ければ痛くない。停止までの時間が長くなって止める力が小さくて済むからです。}

★ところで力積の英語は「impulse」なんですよ。
英語圏の学生は有利だよな、変な言葉で習わずに済む。

化学の方でこういうのの一例は「励起」かな。英語では「excitation」なんです。
励起状態は excited state です。興奮してるんですからして、エネルギーを放出させれば落ち着いて「基底状態 = ground state」になる。

りき‐せき【力積】
〔理〕(impulse)力とその力が働いた時間との積。運動量の変化量に等しく、瞬間的な力の働きの大きさを表すのに用いる。
広辞苑第六版より引用

impulse
►n 衝撃,推進力;衝動,(起動)刺激,はずみ,できごころ;誘因,動機;性癖,癖;〔力〕 瞬間力,力積《力と時間との積》,衝撃量;〔電〕 衝撃,インパルス;〔生理〕 衝撃,インパルス
リーダーズ英和辞典第3版より引用

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