中学の理科実験
★事故が多発していますね。
何をやっているかというと、混合と化合の違いを知るためなのです。
5月、理科の化学的な分野で、化合を学ぶ時期ですね。
鉄と硫黄と硫化鉄。
鉄は磁石につき、塩酸と反応して水素を発生する。
硫黄は黄色い物質で磁石にはつかず、塩酸と反応しない。
双方の粉末を混合しても、鉄も硫黄もその性質が変わったわけではない。
ところが、混合した粉末を加熱すると、強く発熱して、真っ赤に光りながら何かが起きている。
反応終了後の物質は鉄でもなく硫黄でもない。それを確認するために塩酸と反応させてみる。そうすると硫化水素という「腐卵臭」と呼ばれる、悪臭のある有毒ガスが発生する。
鉄でも硫黄でもない硫化鉄という別の物質ができたのだ、これを「化合」という、と導くわけです。
★こういうストーリーを理解したうえで、事故の記事を読んでください。
中学の理科実験で体調不調(朝日新聞デジタル 2017年5月10日14時24分)
10日午前11時40分ごろ、大阪府泉佐野市日根野の市立日根野中学校で、男性教頭から「実験で生徒の気分が悪くなった」と119番通報があった。生徒8人が病院に搬送された。府警などによると、意識はあり命に別条はないという。
同市教委と泉佐野署によると、午前9時10分ごろ、中学2年生が硫化水素を発生させる理科の実験をして、生徒20人以上が気分が悪くなったと訴えたという。
この事故の読売新聞の記事では
「理科の授業で鉄と硫黄などを混ぜて硫化水素を発生させる実験をしていた」
と表現されています。
硫化水素の発生はこの実験の主たる目的ではない。鉄でも硫黄でもない物質ができたことを確認すればよいのですから、デモ実験で十分なのです。鉄と硫黄の反応は生徒が各班毎におこなってよい。びっくりしますよ、激しい反応ですから。
反応生成物を回収して、教師が教卓で
「君たちが作ったこの黒い物質だがね。塩酸と反応させてみよう。」といって試験管に微量の反応生成物をとって、塩酸を入れればよいのです。「臭いよ、先生、臭いよ」と騒ぐはずですから、「これを卵の腐ったような臭いという。温泉や火山でこのにおいをかいだことのある人もいるだろ」「知ってる知ってる」「でもたくさん吸うと有毒だから、『さあ、全員で実験室の窓を開けろ!』」でいいのです。
もちろん体質的に過敏な生徒がいることもありますので、十分な注意は必要です。
「先生が毒ガスを俺たちに吸わせた!」という生徒もいるかもしれません。「俺なんか毎年これだぜ、でも生きてらぁ」くらい言ってやればいいのです。注意すれば大丈夫。むしろこの臭気を感じたら毒ガスなんだから用心しなくちゃいけない、という、命を守る大切な勉強をしたんだぞ、忘れるなよ。とかね。
生徒との交流が十分にできていれば問題になるほどのことはないはずです。
各班で硫化水素を発生させるのはやめたほうがいいでしょう。
★事故が続いてしまって
理科実験中に体調不良、生徒12人搬送 長野(朝日新聞デジタル 2017年5月25日20時07分)
長野県岡谷市湊2丁目の同市立岡谷南部中学校で25日、理科の実験中に生徒が体調不良になり、2年生の男女12人が、救急車で同市と諏訪市の病院に搬送された。いずれも軽症とみられる。
記者会見した岡谷市教委の説明によると、授業は5時限目で、鉄と硫黄をアルミホイルに包んで加熱、硫化鉄を生成させる実験をしていた。36人が参加したが、実験途中でせき込む生徒が出た。
病院に搬送された女子生徒の母親は「午後3時ごろ、『子どもが救急車で病院に運ばれる』と学校から電話があり驚いた。病院で娘は『(実験中に)煙が出て吸い込み、せきが出た』と話し、乾いた感じのせきをしていた」と語った。
ここで起こった事故は、硫化水素によるものではないだろうと推測します。
硫黄が燃えたんですよ。そのため二酸化硫黄が生成した。硫黄が燃えても薄い青い炎なので燃えていることに気付かないことも多い。二酸化硫黄は別名「亜硫酸ガス」、吸いこむと窒息感があって(息がつまるような感じ、ですね)、強く咳が出ます。そのくらいは理科教師は知ってなきゃね。ニュースの文でも「乾いた感じのせきをしていた」とありますね。痰がからんでゴホゴホと湿った咳が出たのではなく、息がつまって咳き込んだという状況が読み取れます。
ところが、この事故のNHKのニュースでは
・・・
岡谷南部中学校の小松亨校長は「安全には万全を期していたが、このようなことになってしまい、体調を悪くした生徒には申し訳なく思っている。決められた手順に従って実験を行ったと聞いていて、現段階では、なぜ煙が出たのかわからない」と話しています。
分かっていらっしゃらない。トホ。理科教師から硫黄が燃えて二酸化硫黄が発生してしまいました、というような報告はなかったんですかねぇ。
★25日にはもう一件、同じ実験による硫化水素の事故も起きています。
理科の実験でのどの痛み 5人搬送 埼玉 川口(NHK 5月25日 20時13分)
25日午後、埼玉県川口市の中学校で、理科の授業の実験中に2年生の男女5人がのどの痛みなどを訴え病院に運ばれました。いずれも症状は軽いということで、警察が当時の状況を詳しく調べています。
25日午後4時前、川口市立戸塚西中学校から「理科の実験中に生徒が体調不良を訴えた」と消防に通報がありました。2年生の男子生徒と女子生徒、合わせて5人がのどの痛みや頭痛などを訴え、病院に搬送されたということです。
・・・
5人は同じクラスの生徒で、6時間目の理科の授業で、鉄と硫黄を混ぜて加熱したものに塩酸を加えて、硫化水素を発生させる実験をしていたということです。警察が学校から話を聞くなどして当時の状況を調べています。
なんだかなぁ。私はもう年だから講習会などやる力はなくって教えて差し上げられませんが、でも、悲しいですね、もっと勉強しましょうよ、先生方も。
毎年やる実験であっても、必ず予備実験をおこなって、生徒の動き、自分の動きなど1時間分のイメージを作りましょう。
やれるだけのことは充分にやった上で、さあ、実験の授業は「臨機応変」に。生徒というものは「ミスやエラーや失敗」の専門家です。かならず予想外のことをやってくれます。ですからどんな事態にも対応できるようにしておかなければなりません。
私は現役時代こういって笑いましたっけ。
「人事を尽くして出たとこ勝負」
自分でいうのもなんですが、実験でそれなりに有名だった私ですが、ほぼ大過なく教師生活を終えた、といえます。
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