その花
朝日新聞のコラムです。
(日曜に想う)満開の桜と城山さんの気骨 編集委員・福島申二(朝日新聞デジタル 2017年3月26日05時00分)
演歌のいいところは、同調を強要しないことだろう。例外もあるかもしれないが演歌に斉唱は似合わない。
#お酒はぬるめの燗(かん)がいい 肴(さかな)はあぶったイカでいい……。たとえば八代亜紀さんの「舟唄」など、独りの低唱こそ似つかわしい。国歌や社歌のように人を束ねる作用はないし、軍歌のように拳(こぶし)を振って士気を鼓舞する曲でもない。
「個」を消してしまうような歌は苦手だと言いながら、カラオケに誘われると軍歌を歌っていたのが作家の故・城山三郎さんだった。すすんでではない。ほかに知らなかったからだ。歌いながら、若くして死んでいった者への哀惜にぽろぽろ涙をこぼしたという。城山さん自身も海軍の特攻要員だった。
忘れ得ぬ体験を文学の原点として、戦争と人間を見つめた気骨の作家が世を去って、この22日で10年がたった。
一度だけ話をうかがう機会に恵まれたのは、亡くなる前年の早春のことだ。桜の季節を前に「散華の花」への思いなどをお聞きした。かつて、ある絶対的な価値観を伴って日本人を束ねたその花について、城山さんは「いまだに気楽に眺められない。満開の横を通るときはつい早足になってしまう」と訥々(とつとつ)と話した。
そんな城山さんから、桜への思いに通じるところがあると言って教えられたのが「旗」と題するご自身の詩である。
*
旗振るな/旗振らすな/旗伏せよ/旗たため
社旗も 校旗も/国々の旗も/国策なる旗も/運動という名の旗も
ひとみなひとり/ひとりには/ひとつの命……
(中略)
今年も桜の季節が巡ってきた。
桜ほど日本人から様々な思念やイデオロギーを託された花はない。国家主義的な哲学者で戦前の東大教授だった井上哲次郎は大意こんなふうに述べている。
「一つの花より一枝の花の集合体、一枝よりは一樹、一樹よりは全山の花の集合体の方が美しい。これは日本民族の長所が個人主義にあるのではなく、団体的活動にあるのを表現して余りある」。このくだりは教科書にも載っていた。
(後略)
私はベクトルが全く逆向きですね。
「全山の花の集合体よりは一樹、一樹よりは一枝、一枝の花の集合体よりは一つの花」を愛でたい。
花の中にオシベ・メシベがあり、メシベの基には子房があり、子房は命を宿し、生命の流れを形成していく。
個々が生きることによって全体は成立しうるのです。それが美しい。逆は成り立たない。
そう、ソメイヨシノは自家不和合性が強くて結実しない。一代限りの樹。
全国のソメイヨシノは皆クローン。だからこそ「開花前線」などというものが生じる。
生き物って、みんな個性があって、てんでんばらばらだからいいのです。
「一斉に」「揃って」というのは生命としては悲しいことなんです。
人類が絶滅したら、ソメイヨシノもすぐに絶滅します。人類に依存しない生物たちは生き延びていくでしょうけれど。
この季節、見渡す限りの菜の花畑とか、水仙畑とかいうのをTVで見ますね。
あれって、私にとっては「異様な光景」と思えるんですよ。
ふと思ったんですがね。
「桜の樹の下には」という梶井基次郎の作品がありますね。出だしが強烈。
桜の樹の下には屍体が埋まっている!
これは信じていいことなんだよ。何故って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だった。しかしいま、やっとわかるときが来た。桜の樹の下には屍体が埋まっている。これは信じていいことだ。
これを読んで、納得してしまった。あれは高校生の頃だったかなぁ。
梶井基次郎の全集も買って読みましたっけ。
この作品は1928年初出ですから、直接に「ある絶対的な価値観を伴って日本人を束ねたその花」ではないのかもしれませんが、今回「日曜に想う」の文章を読んで、どうしても思い出さずにはいられませんでした。
「桜の樹の下に埋まっている屍体」とはすべての戦争に於いて死んでいったすべての国の人々ではないのか。
「その花」はそこまで背負わなければならないのだろうか。
哀しいことです。
個々の花に罪はない。一つ一つの花に、きれいだね、と声をかけてあげてください。
↓参考
http://ameblo.jp/lovemedo36/entry-11949954302.html
個人ブログです。
城山三郎さんの「旗」が読めます。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000074/files/427_19793.html
「桜の樹の下には」梶井基次郎
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AB%BB%E3%81%AE%E6%A8%B9%E3%81%AE%E4%B8%8B%E3%81%AB%E3%81%AF
★昨日2日、都心の桜は満開だ、と宣言がありました。標本木ではね。
まだ夜は寒い。下手に酔っぱらわないでくださいよ。酔うと体温のコントロール能力が下がる。真冬じゃないから凍死ということもないでしょうけれど、体調を崩しかねません。どうぞ皆さん、ご自愛くださいますように。
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