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2016年10月11日 (火)

団栗のスタビリチー

0921_15donguri 2016.9.21
妻が拾ってきたドングリ。
我が家近辺でドングリというのは比較的珍しいことです。
これを見て、私の頭に浮かんだのが
「団栗のスタビリチーを論じて併せて天体の運行に及ぶ」
というフレーズ。
なんだかわかりますか?
夏目漱石の「吾輩は猫である」に出てくるフレーズです。
朝日新聞で夏目漱石の「吾輩は猫である」を連載していますが、その49にこんな記述がありました。

・・・
「そうですな、先達て団栗のスタビリチーを論じて併せて天体の運行に及ぶという論文を書いた事があります」「団栗(どんぐり)なんぞでも大学校で勉強するものでしょうか」「さあ僕も素人(しろうと)だからよく分らんが、何しろ、寒月君がやる位なんだから、研究する価値があると見えますな」
・・・

「団栗のスタビリチーを論じて併せて天体の運行に及ぶ」
「スタビリチー」はもちろん「stability」「安定性」のことですね。
いろいろ頭に浮かぶのですが、今回は、「団栗のスタビリチー」と「天体の運行」の2点について少しだけ書いてみましょう。

★ドングリの安定性
1008_1donguri2
あら、このドングリ立ってますね。
1008_1donguri1
ドングリの「帽子」というのか「袴(はかま)」というのか、正式には「殻斗(かくと)」を取り除くと、ドングリのお尻がこうなっていました。ここから栄養をもらったのですね。
で、なんとなく平らなものですから、立てれば立つ。
指先でそっと触ると、揺れます。揺れるけどまだ倒れません。
触れる力を大きくすると、倒れます。

★さて問題:このドングリが立った状態を「安定」といいますか?「不安定」といいますか?
この「安定」と「不安定」という言葉は、一般的な感覚と、科学で使う定義とがずれる言葉なんですね。

ふ‐あんてい【不安定】
安定しないこと。おちつかないさま。

あん‐てい【安定】
①物事が落ち着いていて、激しい変化のないこと。「物価の―」「天気が―する」
②〔理〕物体のつり合いや運動の状態がわずかな乱れを与えられた時に、元の状態へ戻ろうとする性質を持つこと。「この壺は―が悪い」
③〔化〕物質が分解・反応・壊変しにくいこと。
広辞苑第六版より引用

広辞苑の「安定」の②が科学というか理学での用法。
倒れた状態のドングリは「安定」な状態です。
それに対して、今回お目にかけた「立ったドングリ」は、わずかな力に対しては元の状態に戻ろうとしますが、大きな力では戻れないので「準安定」といいます。
本当の安定状態ではないが、わずかな擾乱に対しては安定だ、ということです。

Stability
昔の私のHPの図を載せます。
机の上に直方体が載っている図と考えてください。{立ったドングリも同じことです}

上段
 左:静止状態:直方体に働く力は、重力と、机が直方体を押し返す力、の2つ。大きさが同じで向きが反対。で釣り合っていて動かない。
 中:少し傾けたところ。直方体の重心が机との接点の内側にあり、この場合は重力によって反時計回りの動きを生じて元に戻ろうとします。
 右:重心の位置が、机との接点の外に出ました。すると、時計回りの動きになって、直方体は倒れます。

下段
 この図では、赤い線が重心の高さを示しています。重心は低くなろうとします。
上段の「中」、復元できる場合の真下を見てください。重心の高さの「山」の中央にくぼみがありますね。
ちょっと傾いたくらいだと、この山の上のくぼみに向かって重心が下がりますので復元できるわけです。
ところが、山の縁を越えると、より重心の低い位置へ向かって動くのですね。
で、倒れる。

ということですから、この図で立った直方体は、立ったドングリと同じく、準安定状態です。

別の例ですと、山の上の貯水ダムを思い浮かべてください。
このダムの水を落としてそのエネルギーで発電できます。
ところが、ダムで遮られていますので、さしあたって流れ落ちることはない。
ダムに溜まった水は「準安定」状態ですね。

★まあ、「団栗のスタビリチー」というのは、こういう内容だろうと想像されます。

★さて「天体の運行」のほうですが。
これは科学史の話に絡みます。
ニュートン力学では、2つの物体の間に万有引力が働き、その引力のみで2つの物体が運動する時の出来事は正確に解けるのです。ケプラーの法則は、その解の表現になりますね。
ところが、3つの物体になるともういけない。特殊な初期条件の場合以外は、一般的に3体の運動をきちんと解くことができないのです。
太陽系は、太陽を中心として複数の惑星が回っていますから、3体の問題を超えています。
惑星の運動を考える時、太陽の質量が圧倒的に大きいので、他の惑星が及ぼしてくる影響は無視して考えられますが、本当はその影響はゼロではない。そういう微小な影響が、ず~っと続いたらどうなるのか。あるいは、太陽系外からちょっとした質量の天体が侵入してきて重力的な擾乱をもたらしたらどうなるか。
太陽系は安定な系だろうか?
ニュートン自身は解決をつけられなかった。で、「神の介入」を考えたようです。時計職人が時計を修理するように、神が時々太陽系に介入して「修理」して、太陽系を安定に保っているのではないか、ということですね。

さて、結果はどうなのか。どう思います?
私が書くとかえってごちゃごちゃしますから、引用をお読みください。
[太陽系の安定性]で検索すると、いろいろなサイトがヒットします。
↓これが最新かな
https://www.rikanenpyo.jp/kaisetsu/tenmon/tenmon_003.html
わが惑星系の安定性

最新の理解
 水 ・ 金 ・ 地 ・ 火 ・ 木 ・ 土 ・ 天 ・ 海 ・ 冥の 9 惑星(2006 年 8 月 24 日以来、冥王星は惑星でなくなってしまった )と太陽からなる惑星系における惑星の運動は過去 40 億年間安定であったし、将来少なくとも 50 億年ほどは安定に推移する。これが最新の数値計算による結論である。

よかったですねぇ。当分の間(50億年ほど)は安定だそうです。アンシン。
話のスケールがぶっ飛んでますけど。まあいいでしょう。

http://blog.goo.ne.jp/kameichi1/e/e8b61496b18bb392c0c9e8df295fb77c

・・・つまりニュートンにとっては「この太陽・惑星・彗星の壮麗きわまりない体系」は「神の深慮と支配」によるものであり、それがいかにして形成されたのか、あるいはそれが安定であるかの否かは、力学が証明しうる範囲を越えた問題であった。この点である。・・・
・・・ニュートンにとって太陽系の秩序は「神の万能」の証拠であったが、ラプラスとその後の人々にとってそれは「力学と重力理論の万能」を証拠づけるものであった。もはや神を必要としなくなったのだ。

★「天体の運行」については、こんなところでいかがでしょう。
「安定」「不安定」というキーワードでドングリと天体が結びついたのでした。

★オマケ:土星の輪の安定性というのもあるんですよ。
なんであんな薄いリングが安定的に存在できるのか。
「羊飼い」衛星とかね。
もうここではこれ以上扱いませんが、あれも不思議なものなのです。

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