second 秒
★朝日新聞の「折々のことば」で面白い表現を知りました。
折々のことば:265 鷲田清一(2015年12月29日05時00分)
Two seconds.
(英語の慣用句)
◇
「天使の歌声」とたたえられる、今注目の若手歌手サム・スミスは、日本人記者が電話インタビューしたときに、電話に出るなりこう言ったという。“One moment, please”でも“Just a minute”でもなく「2秒待って」。待たせたくないけどちょっぴり時間がかかるかも、だったらごめんね、といったこまやかな心遣いが短いことばにこもっている。このさりげない一言は癖になりそう。
面白い表現ですね。Just a moment. という言い回しは知っていましたが。
「2秒(待ってください)」ですって。
1秒でもなく3秒でもない、ところが絶妙な感覚ですね。(間隔というべきか)
★で、これで思い出したのですが。
second って基本的には序数の「2番目の」ですよね。なんでそれが「秒」になるのでしょう。
「化学」という雑誌の記事をご紹介します。
「化学」Vol.70 No.9(2015) p.22 より
「山崎昶先生の 単位トリビアル」 秒
(前略)
もちろん機械式の時計が製造されるようになるよりも以前から、ヨーロッパでは現在の"second"と同程度のわずかな時間を意味する言葉はあった。もともと「分」は1時間の1/60にあたり、さらにこの1/60が「2番目の『分』」で、さらに60分割を続けた「3番目の『分』」や「4番目の『分』」も考えられていた(英語式の表現であればそれぞれ prime minute, second minute, third minute, fourth minute ということになる)。
この考え方を最初に提案したのは、イスラム世界において「古今百般に通じた大学者」として高名なアル・ビールーニーだといわれている。西暦1000年ごろのことである。これが西ヨーロッパに伝わり、1267年にはイングランドの聖職者で大哲学者のロジャー・ベーコンが、満月の日の正午を基準に「時(horae)」,「分(minuta)」,「秒(secunda)」さらに細かな"tertia"と"quarta"へ分けた、13世紀のことであるから、これらの名称にはラテン語が用いられているが、このときから minuta prima →minuta, minuta secunda → secunda のような省略形が定着するようになったと考えられる。
(後略)
ナルホドねぇ。1時間の「第一の細分(minute)」が「分(minute)」なのですね。
その「分(minute)」の「第二の細分」が「秒(second)」なんだ。
そういえば、minute を「マイニュート、ミニュート」と発音する時は「微細な」という意味ですし「ミニット」と発音する時は「分」なんですよね。そういうものなんだと、私共は覚えたわけですが。
英語の辞書を引くと
second(1)
►a 《略 2d, 2nd》第二の,二番目の;二等の;次位の;〈…に〉次ぐ,劣って〈to〉;年下の,若いほうの;[a ~] もうひとつの (another),別の;一つおきの;付加の,補助の,副の,代わりの;〔楽〕 副次的な,〈音・声の〉高度の低い;〔車〕 〈ギアが〉第二速の,セカンドの;〔文法〕 二人称の
・・・
[OF<L secundus (sequor : to follow)]
リーダーズ英和辞典第3版より引用
これは序数の方の意味。ここでもナルホドネがありまして。
second はラテン語の sequor に由来する、と。sequor は「続くもの」なんですねぇ。
「第一(最初)」というものがあって、それに「続くもの」が「第二」なんだ。ナルホドねぇ。
ややこしい話は避けますが自然数に関するペアノの公理というものがありまして
1がある。それに続くもの(後者)がある。
という風に始めて公理を構成するんですね。思い出してしまった。
手の指を開いて、親指を指して「1」と唱え、「その隣り」の人差し指を指して「2」と唱え、「その隣り」を指して「3」と唱え・・・もう誰にも止められません。で、自然数ができます。
second(2)
►n
1 a 秒,1 秒時《略 s., sec.;記号 ″》.
b 秒,秒角 (=arc second, of árc) 《角度の単位:=1/60 minute;記号 ″》.
2 《口》 瞬間,瞬時,ちょっとの間 (moment)
・Just a second. ちょっとお待ちください
・Wait a second. ちょっと待った;待って,あれっ,おや.
・・・
[OF<L (pars minuta) secunda the second (small part) (↑);‘第 1 の細分の “分” に対して第 2’ の意]
リーダーズ英和辞典第3版より引用
こちらが「秒」のほう。
[‘第 1 の細分の “分” に対して第 2’ の意]
なるほどですね。
ネイティブの人はおそらく言語習得過程の中で、こういうセンスも一緒に身につけているんだろうなぁ。ラテン語感覚があるんですよね、もともと。
第2の細分=second minute なんだなぁ。
いや、勉強しました。
ちなみに日本語の「秒」は
びょう【秒】「稲の穂先の毛。のぎ。きわめて微細なものの意」
広辞苑第六版より引用
微細なものなのです。
★「続くもの」ということで思い出したのが「successor」。
successor
►n 後任,後釜(あとがま),後継者,継承者;相続人,承継者 (opp. predecessor);取って代わるもの〈to〉.
successoral ~・al a
[OF<L;⇒SUCCEED]
リーダーズ英和辞典第3版より引用
ニクラウス・ヴィルト (Niklaus Wirth)が作ったプログラミング言語 Pascal を勉強していたら
Pred(x) xの前者の値を返す
Succ(x) xの後者の値を返す
こういう関数(概念)があったのです。
Predはpredecessorですし、Succはsuccessorですね。
さすが論理性の高い言語だ、と感動しましたっけ。当時の他の言語にはこういう概念はなかったものですから。
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