天津での爆発
★この事故でいろいろな化合物名が出てきています。
・炭化カルシウム
・硝酸アンモニウム
・硝酸カリウム
・シアン化ナトリウム
など。と思っていたら今度は「ナトリウム」という記述も出てきました。
危険物質、天津に不安 「神経ガス」報道も 爆発1週間
2015年8月20日05時00分
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硝酸アンモニウムや硝酸カリウムなどの酸化物が約1300トン、ナトリウムやマグネシウムなどの可燃性の高い物質が約500トン、シアン化ナトリウムなどの毒物が約700トンあると明らかにした。
・・・
報道の「化学レベル」を考えると、「ナトリウム」という記述をそのまま「ナトリウム単体=金属ナトリウム」と考えていいかどうかはわかりませんが、もしそうなら、水をかけたら確実に爆発します。トホ、なんてこった。
★さて
1:炭化カルシウムは「カルシウム・カーバイド(calcium carbide)」です。
現在あまり知られていないかもしれませんが、私たちの世代なら「カーバイド」として知っているものです。
縁日の「カーバイドランプ」とかで知っているのです。
カーバイドは水と反応して可燃性のアセチレンを発生します。
「化学辞典」森北出版
アセチレン
爆発範囲(空気中,1atm) 2.5~80.5 vol%
アセチレンは酸素で燃焼させると3,000℃をこす炎を形成できるので、溶断用に使用されている。吸熱化合物であって、圧縮すると分解・爆発を起こし易い。
高校の有機化学でもよく実験に使います。固い炭化カルシウムを砕いて、水と反応させて、アセチレンを水上置換で捕集し、燃焼特性などの実験をします。
爆発しやすいので、取り扱いには十分な注意が必要。
こんなものが大量に保管されていて、消火活動の水をかけられたらひとたまりもないですね。化学屋の想像を絶します。
2:硝酸アンモニウムは、「硝安」という名で、窒素肥料になります。
衝撃に対して比較的安定な爆薬にも使います。高温で爆発的に分解して、窒素、酸素、水などを生じて猛烈な体積増加を起こして激しい爆発になります。
有名なのは「テキサスシティ大災害」というもので、1947年、貨物船の積み荷の硝酸アンモニウムが大爆発を起こした事故です。
3:硝酸カリウムは、いわゆる「硝石」ですね。硫黄、炭と混合して「黒色火薬」、昔から知られる火薬です。
4:シアン化ナトリウムは、「青酸ナトリウム(青酸ソーダ)」ですね。
「青酸カリ」というと普通の人もご存知でしょうけど、青酸カリの正式名はシアン化カリウム、です。
メルク・インデクスという辞典によりますと
MERCK INDEX 12th ed.
KCN LD50 orally in rats : 10 mg/kg
NaCN LD50 orally in rats : 15 mg/kg
「LD50」は「半数致死量(体重1kgあたりの量)」です。
「ラットにおける経口摂取の場合の半数致死量は」と読んでください。
シアン化カリウムもシアン化ナトリウムも、大差ない毒物です。
「青酸カリ」が有名ですが、シアン化カリウムよりシアン化ナトリウムの方が安価ですし、性質は似ていますので、工業的にはシアン化ナトリウムは大量に使われているとは思います。
とはいえ「トン」単位、というのは、元化学教師には想像もつきません。
5:「ナトリウム」が金属のナトリウムであるとしたら、水は絶対的な禁忌。
高校化学で、米粒程度の大きさの金属ナトリウムを水と反応させて発火させる実験を、見たりやったりした方は多いと思いますが。
爆発する実験は、絶対にスケールアップしてはいけません。
1cm角のサイコロ状に切って水に入れただけで、確実に爆発します。初めは何ともないので、大丈夫かなと覗き込む頃に爆発します。
消火活動で知らずに水をかけたりしたらもう、致命的ですね。
新しい報道に接するたびにため息をつく、元高校化学教師です。
★ついでに、言っちゃおうかな。
朝日新聞8月10日付の連載漫画「ののちゃん」で、おばあさんが家庭で楽しむ玩具花火をバケツにまとめて入れて点火する、という内容で「笑いを取る」ということをやっていました。
これだけは許せません。
絶対やってはいけないことです。禁忌です。
それを題材にして笑いを取るなんて、「絶対にやってはいけないこと」です。
愚劣なマンガですね。
何年か前にも似たような内容の作品がありました。
公共の新聞が掲載する内容ではない、と私は思います。
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