面積マジック:1
★朝日新聞の連載数学コラムです。
(坪田耕三の切ってはって算数力)面積マジック(朝日新聞 2015年6月25日)
今回は面積のマジックです。まず、厚紙で8センチ×8センチの正方形を作ってください。面積は、8×8で、64平方センチですね。この正方形を、図1のように四つに切って、図2のような長方形に並べ替えます。できた長方形の面積は? 5×13で65平方センチ。おやっ? 並べ替えただけなのに、面積が1平方センチ増えてしまいました。
図3を見てください。(1)の斜辺と(2)の斜辺の傾きがぴったり一緒であれば、直線になっているはずですね。
斜辺の傾きを表す数値は、高さと底辺の比で表します。(1)の場合は、3:8なので、傾きは8分の3。(2)の方は、2:5なので、傾きは5分の2。分母をそろえると、(1)は40分の15、(2)は40分の16で、わずか40分の1ですが、二つの直角三角形の傾きは違っているのです。あまりにも小さな違いなので、一直線に見えていたのですね。本当はこの斜辺には、大げさに描くと、図4の斜線部分のように、わずかに隙間ができています。それが1平方センチというわけです。
では、次に13センチ四方の正方形を図5のように切って並べ替え、8センチ×21センチの長方形を作ってみましょう。正方形の時は13×13で169平方センチの面積ですが、長方形では8×21で168平方センチ。あれっ、今度は1平方センチ減ってしまいました。先ほどと同じように(1)と(2)の傾きを計算すると、秘密が解けますよ。
この図に出てきた数は、1、1、2、3、5……といった、前の二つの数を足すと次の数になる「フィボナッチ数列」の数ですよ。
★さてこれ、結構有名な問題なのです。面積が1消滅したり生まれたり。
そしてこれがフィボナッチ数列と関係があるらしいことも、まあ必ず付け加えられるのかな。
ところが、フィボナッチ数列と、この面積マジックがどう結びついているのかを、陽にというかexplicitに解説してあることは少ないような気がします。
坪田さんのコラムでは、スペースが狭いので、これ以上の説明は無理だろうとは思います。
で、出しゃばって、私が説明を試みようと思うのです。
★この問題を、大きく二つの部分に分けて考えましょう。
1:正方形をばらして長方形にしたときに、「二つの直角三角形の傾きは違っているのです。あまりにも小さな違いなので、一直線に見えていたのですね。」という部分、そしてそれらの傾きは長方形の対角線の傾きともわずかに違っていることの意味。
2:「1」という面積が増えたり減ったりする、という部分。それはいつでも「1」なのか、「1」以外のことはないのか。増減にはどういう規則性があるのか?
★まず基本の確認。
●フィボナッチ数列とは何か。
第1項と第2項を1とし、第3項以降は前2つの項の和、という定義を採用します。
1,1,2,3,5,8,13・・・
ですね。
{第1項を0、第2項を1とする定義法もありますが、私の個人的な感覚では気持ちよくないので採用しません。}
1,1から始まる数列を基礎として認めるところから出発します。
----------------------------------------
★では始めましょう。
1:正方形をばらして長方形にしたときに、
「二つの直角三角形の傾きは違っているのです。あまりにも小さな違いなので、一直線に見えていたのですね。」
という部分、そしてそれらの傾きは長方形の対角線の傾きともわずかに違っていることの意味。
●坪田さんのコラムでは、正方形をばらして長方形に並べ替えたときに横長の長方形にしてあります。そして「傾き」の議論をするときに「短い辺/長い辺」で1より小さい傾きで扱っています。数学的に何も問題はないのですが、フィボナッチ数列の持つ性質と対応づけるときに、黄金比 Φ=1.618033988749・・・を使いたいので、長方形の向きを変えることにします。
長方形を縦長に描き、傾きは「長い辺/短い辺」で扱うことにします。
どういうことか先取りして言ってしまうと
3/8=15/40
2/5=16/40
5/13=40/104
3/8 =39/104
↑これが坪田さん流の「傾き」です。
↓これをひっくり返して計算すると
8/3=2.67
5/2=2.5
13/5=2.6
この数字自体には見覚えはないかもしれませんが、1を引くと
1.67、 1.5、 1.6
なんだろなぁ。
実はこの数値、黄金比の近似値なんです。
黄金比Φ=1.618033988749・・・
★えぇ?どうしてぇ?
記事中でチラッと指摘してあるように
「1、1、2、3、5……といった、前の二つの数を足すと次の数になる『フィボナッチ数列』の数」
これが問題なのですね。フィボナッチ数列をもう少し長く書くと
1,1,2,3,5,8,13,21,34,55・・・
この中で、2と5、3と8、5と13は隣り合う項ではなく、一つ間を開けた項同士なんですね。
それを一般的に書くと、図中最初の式①のようになります。
そして、この式の両辺ををFn-2で割ると②になります。
左辺は一つ間を開けた項の比、右辺第1項は隣り合う項の比になります。
ここでnを大きくすると、フィボナッチ数列の隣り合う項の比は黄金比Φに近づきますので
左辺の一つ間を開けた項の比は1+Φに近づくことになるのですね。
参考↓
http://yamada-kuebiko.cocolog-nifty.com/blog/2015/01/post-7ac9.html
2015年1月21日 (水)「フィボナッチ数列と黄金数の関連」
ここでは隣り合う項の比がΦに近づく話をしました。
★坪田さんが示したのは直角三角形の斜辺の傾きなのですが、もう一つ、長方形の対角線の傾きも考えましょう。
図3を見てください。但し長方形を縦長に置いて話を進めます。
①が8/3
②が5/2
長方形の対角線は13/5
ですね。
ここでは最初は3,5,8という3つのフィボナッチ数列の数から始まったのですが。
長方形に並べ替えたときに5+8=13という8に続くフィボナッチ数列の次の項が必要になりました。
また、②の傾きを計算するために、5-3=2で2が必要になりましたが
2+3=5ですから、この2はフィボナッチ数列で3の前の項ということです。
★ここで話を一般化して
フィボナッチ数列の5つの続く項を、a,b,c,d,e としましょう。
a,b, c,d, e
2,3,5,8,13
「一辺がd の長さの正方形を、b,cを使って分割し長方形に組み替えます。」
これが面積マジックの一般形です。
こうすると長方形の長辺はe、短辺はcになります。
坪田さんの図3の②の「2」に相当するのがaとなります。
こうですね。
そうすると3つの傾き
c/a
d/b
e/c
が問題になるわけです。
いずれもフィボナッチ数列において間をひとつ開けた項の比ですね。
ですから、これらは1+Φの近似値なのです。
そして、フィボナッチ数列の大きな方の数でこの面積マジックを構成すると、これは1+Φにいくらでも近づいていくのです。
数列の大きい方の値を使えば使うほど、この3つの傾きはどれも限りなく「1+Φ」に近づいていき、ほとんど差がなくなってしまうのです。
もちろん、一致はしませんけどね。
試しに、フィボナッチ数列の21番目~25番目の項を使って計算してみましょう。(ウィンドウズの電卓です)
21: a=10946
22: b=17711
23: c=28657
24: d=46368
25: e=75025
c/a = 28657/10946 = 2.6180339850173579389731408733784
d/b = 46368/17711 = 2.6180339901755970865563773925809
e/c = 75025/28657 = 2.6180339882053250514708448197648
見てください。小数点以下7桁目まで一致してしまいました。
どうやったって「傾きの違い」を図示することはできませんね。
でも
c/a < e/c < d/b
です。
つまり対角線の傾きより小さく出て、後半で対角線の傾きより大きくなる。
つまりへこんでいるわけです。
ですから、「すきま」ができるはずですね。
傾きを人間が識別することは難しいけれど、すきまは数学的には厳然として存在していて、組み替えて作った長方形の面積は元の正方形の面積プラス「細長い隙間」=「1」だけ大きいのです。
★すきまがやたらと細長いだけなんです、っ。って、ほんとかよ~。
というのを次回考えましょう。
« モンシロチョウ | トップページ | 面積マジック:2 »
「理科おじさん」カテゴリの記事
- 化学の日(2022.10.26)
- 秒速→時速(2022.09.01)
- 風速75メートル(2022.08.31)
- 「ウクライナで生まれた科学者たち」(2022.05.31)
- 反射光(2022.05.09)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント