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2015年1月27日 (火)

太陽関係の話を二つほど。その2:太陽風・音波

★金星の周回軌道に入り損ねた「あかつき」です。再チャレンジを狙っていますが、途中で思わぬ成果をあげました。

「あかつき」太陽風とらえた 金星軌道入れず周回中(朝日新聞 2014年12月20日14時59分)
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)や東京大学などの研究チームは18日、金星探査機「あかつき」を使った観測で、太陽から吹き出している「太陽風」は、太陽半径(約70万キロ)の5倍ほどの距離から急激に加速していることがわかったと発表した。研究成果が米専門紙に掲載された。
 太陽風は、太陽から吹き出す電気を帯びたガス(プラズマ)の流れ。2011年6、7月に、あかつきと太陽、地球がほぼ一直線で結ばれる位置になったため、あかつきから電波を発信し、太陽近くを通ったものを地球で受信する観測を計16回行った。
 その結果、太陽近くの風速は秒速30キロから60キロで、太陽半径の5倍にあたる約350万キロの距離から急激に加速することがわかった。太陽から約1400万キロ離れると秒速400キロほどに達しており、太陽から1億5千万キロ離れている地球周辺での速度とほぼ同じになっていた。こうした観測は世界で初めて。
 さらに、今回の観測で、太陽表面から磁力線の振動として伝わる波は外側に広がって音波になり、太陽半径の数倍の距離でガスに熱を加えて太陽風の加速が起きることもわかったという。
 あかつきは、2010年に打ち上げられ、同年末に金星近くに着いたが、狙いの軌道投入に失敗し太陽の周りを回っている。軌道を計算したところ、太陽をはさんで地球とあかつきが一直線になることがわかったため、太陽風の観測にいかしたという。あかつきは、15年度中に再度、金星周回軌道への投入が目指されている。

★あかつき出した電波が、太陽のそばを通って地球に到達するわけです。
電波は電磁波ですから、電界と磁界の波です。プラズマは電気的な流体です。ですから相互作用してしまいます。あかつきが出す電波がきちっとわかっていれば、プラズマとどのような相互作用があったかがわかるわけです。

★ビッグバンから38万年ぐらいは、温度が高くて中性の原子が存在せず、電気的なプラズマ状態だったんですね。太陽風などよりずっと密度の濃い。そのために電磁波の一種である光はプラズマと相互作用してしまって、まっすぐ進めなかった。宇宙の温度が下がってきて、電気蹄な中性原子ができると、光との相互作用が消えて光が直進できるようになりました。これを「宇宙の晴れ上がり」といいますが。
今回のあかつきの電波の観測は、スケールが小さいしな、太陽付近の「プラズマの陽炎」の観測とでも言いましょうかね。

★「太陽表面から磁力線の振動として伝わる波は外側に広がって音波になり」って、宇宙で「音が聞ける」の?
音って空気の振動なので、真空中では音は伝わらない。というような実験を見たことないですか?
ガラスの鉢の中に目覚まし時計とかラジオとか入れて、真空にして鳴らすと音が聞こえない。
音は空気の振動なのだ、とね。
ガンダムが宇宙空間で戦っても「無音」なんですよね。空気がないから。

★なのに!「音波が広がり」ってなによ。なんなのさ。じゃないでしょうか。
これね、「プラズマの密度波」のことなんですよ。

音はですね、空気の「疎密波」なんですね。
空気が圧縮されたところは密度が高く「密」で、膨張させられたところは密度が低く「疎」なのですね。
で「疎密波」なんです。

プラズマというのは、電子やら荷電粒子の「電気的な」ガスなんです。
で、太陽から出る磁力線が振動すると、磁界と電界は相互作用しますんでね、プラズマに振動を惹き起こすんですね。
それがプラズマの「疎・密」を生み出すのでしょう。
で「疎密波が生じた→音波が生じた」こういっているのです。

★サイエンスポータルというサイトです↓
http://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2014/12/20141218_02.html

あかつきがけがの功名、太陽風の謎解明(掲載日:2014年12月18日)
(前略)
 約6000℃の太陽表面の周りには、100万℃にも達する高温のプラズマのコロナが広がっている。この高温のコロナが太陽風を作りだしていると考えられる。しかし、探査機が直接近づいて観測するには温度が高すぎ、望遠鏡で調べるにはプラズマが薄くて暗すぎるため、プラズマの希薄なガスがどのように加速されるか、観測する手段はなかった。一度は失敗した「あかつき」が生き続けて、その千載一遇のチャンスをもたらした。
 地球から見て太陽の反対側を通過する「あかつき」で発信された周波数の極めて安定した電波が太陽近傍の太陽風を横切って地球に届くのを、臼田宇宙空間観測所(長野県)で受信した。この観測期間の太陽の活動を監視するため、太陽観測衛星「ひので」で同時に太陽を観測した。太陽から吹きだす太陽風を通過してきた「あかつき」の電波観測データを詳しく解析して、太陽近くの太陽風の実体に迫った。
 その結果、太陽風の秒速は太陽近くで30~60kmと比較的遅いが、太陽半径の5倍あたりから急加速して400kmに達することを突き止めた。さらに太陽風の中に、周期1分~数十分の低周波の音波とみられる周期的な密度変動も見つけた。この音波の振幅はかなり大きくてエネルギーが高く、太陽半径の5~10倍の距離で最大となることを明らかにした。
 研究チームは「太陽表面で作られたアルベーン波(プラズマ中で磁力線の振動として伝わる波動)が太陽から離れて不安定となり、それで生じた音波が衝撃波を生成してプラズマを加熱して、太陽風を加速する」というシナリオを描いた。このシナリオは、最近のコンピューターによる計算結果ともよくあっている。
(後略)

「太陽風の中に、周期1分~数十分の低周波の音波とみられる周期的な密度変動も見つけた。この音波の振幅は・・・」
ね、密度変動=疎密が伝わっているので「音波」なのです。
このページの下の方に
「あかつき」の観測に基づく太陽風加速のイメージというイラストがあります。ぜひご覧ください。

★JAXAのページ。こちらが本当はオリジナルで、それをサイエンスポータルで紹介しているのです。
http://www.jaxa.jp/press/2014/12/20141218_akatsuki_j.html

太陽風はどう作られるのか?
~金星探査機「あかつき」が明らかにした太陽風加速~

一連の観測によって、
    1. 太陽風の速度が太陽の近くでは30〜60km/s(時速10〜20万km)とかなり遅いこと
    2. 太陽半径の5倍程度の距離から急激に加速して400km/s(時速150万km)に達すること
    3. 太陽風の中に低周波の音波(周期1分〜数十分)と思われる周期的な密度変動があること
    4. この音波のエネルギーが太陽半径の5〜10倍という距離において最大となること
    5. 音波の振幅はかなり大きく、高いエネルギーを持っていること
が明らかになりました。

「3. 太陽風の中に低周波の音波(周期1分〜数十分)と思われる周期的な密度変動があること」
というわけです。

太陽風の中に生じる「音波」は人間の耳が聞くような「音」ではありません。
プラズマという電気的な流体の疎密波が聞けるような生物がいたら、「太陽の歌」が聞けるのかもしれませんね。

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