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2014年10月16日 (木)

化学反応と熱

★困ったことです。

捨てた鉄粉と硫黄化学反応、理科室ごみ箱から炎(YOMIURI ONLINE 2014年10月09日 12時58分)
 8日午前9時40分頃、三重県名張市丸之内の市立中学校2階の理科室で、プラスチック製のごみ箱が燃えているのを、理科担当の男性教諭(42)が見つけた。
 ・・・
 名張署や同中学などによると、男性教諭が、午前10時から始まる2時限目の授業の準備で、午前9時20分頃、前日の授業で行った硫化鉄を作る実験の後片付けをし、試験管約10本に残っていた鉄粉と硫黄計約50グラムを集めてごみ箱に捨てた。男性教諭は鍵を閉めて理科室を出たが、約20分後に理科室の火災警報器が鳴ったため、確認に行ったところ、ごみ箱から炎が上がり、室内に煙が充満しているのを発見。近くにあった消火器で消したという。
 同署は、鉄粉と硫黄が何らかの原因で化学反応を起こして発熱、ごみ箱に入っていた紙くずやほこりなどが燃えたとみている。
 校長によると、男性教諭は、既に化学反応は終了しているものと思い、そのまま集めてごみ箱に捨てたという。校長は「危機管理に対する配慮が欠けていた。今後、マニュアルを作るなどしていきたい」と話していた。

知らないのかなぁ。
鉄粉と硫黄粉を混ぜ合わせて、水を少し加えて練って団子にします。
すると、授業時間内にもう熱くなって湯気を上げたりするんですよ。
温度計を突っ込んでおけばどんどん上がっていくのが見えます。
結構有名な事実だと思うんだけど、元高校化学教師としては。
Fe+S → FeS
です。そのまんま。
試験管に混合物を入れて底を熱して、反応を開始させ、赤く光る部分が上へあがっていくのを見る実験だったのでしょうね。
熱するのは、この反応を加速して、派手に温度を上げるためなのであって、反応自体は常温でも十分に進むのです。

前日も実験をして、試験管にそのまま残してあったんですね。
残っていた鉄と硫黄は反応を続けていたのですが、混合物の体積に対して、表面積が大きくて熱が逃げていって、高温にはならなかっただけなのです。
それを、まとめてゴミ箱に入れたものだから、体積に対して表面積が相対的に小さくなり内部に熱が溜まったんですよ。ゴミ箱の中だから更に熱は逃げにくいでしょう、紙とかに周囲を包まれてね。
そうすれば、反応が加速する、反応が加速すればさらに熱が出る、熱が出れば反応が加速する・・・正のフィードバックがかかってもう止まりません。
火事になります。
化学教師としては当たり前のできごとです。
「鉄粉と硫黄が何らかの原因で化学反応を起こして発熱」なんて、笑えます。
鉄粉と硫黄粉が共存すれば反応は起こるのです。自明。
もう少し化学知識を高めてほしいなぁ。先生方も報道記者も。

★通常は速度が遅くて気づいていない化学反応も、熱が蓄積しやすい条件にしてやれば、正のフィードバックがかかって蓄熱・反応速度上昇・蓄熱・・・となり、発火するという出来事はいろいろあるんです。

・天ぷら油を拭き取った紙を丸めてゴミ箱に突っ込んでおくと、火事になりますよ。
これは「油の酸化」という反応が加速していって火事になる例です。
天かす(揚げ玉)を積み上げておくのも、ダメ。熱が溜まる。

・エステサロンで、アロマオイルがしみ込んだタオルが発火した事故もありましたっけ。
常温でも油の酸化は進行し、熱が出ているのです。その熱が逃げられない条件にすれば、火事。ですね。

http://www.isad.or.jp/cgi-bin/hp/index.cgi?ac1=IB17&ac2=85summer&ac3=4442&Page=hpd_view
・これは「住宅用床ワックスの染み込んだ布からの火災」です。

★今年の9月3日に、愛知県東海市の新日鉄住金名古屋製鉄所で爆発事故が起きました。
これは貯蔵されていた石炭の自然発火です。
C+O2→CO2
この反応が常温でも起きているなんてあまり考えないでしょうね。でも起きているのです。
通常は1日くらいしか貯蔵しないものを、その時は3日間貯蔵したそうです。
内部に熱がこもって、反応が加速し、また熱が発生し、加速し・・・
だったのですよ。
化学を知っていればそのくらいは「ほぼ常識」だと思うんだけどなぁ。

★かかし先生の「抜き打ちテスト!」
:石炭を大量に積み上げておくと発熱して自然発火にいたることがある。なぜそうなるのか考察を求める。

Nさんの答え:石炭には自然に発熱する性質があるから。

かかし先生の採点:「×」 {コメント:同義反復は解答にならない。}

製鉄所爆発 石炭3日間保管し蓄熱か(NHK 9月5日 4時11分)
 ・・・
 会社側によりますと、石炭には自然に発熱する性質があることから、通常よりも長時間保管されたことで、より高い熱が蓄えられて爆発に結びついた可能性があるということです。
 ・・・

間違っていてもいいから自分で考えたのなら、部分点=「書き賃」をだします。
同義反復は「0」です。同義反復、トートロジーは何も言っていないことと同じです。

★試験管に6M位の塩酸を2~3mL入れます。
アルミフォイル5cm四方くらいのものを、くしゃくしゃに丸めて試験管に放り込みます。
で、試験管立てに立てて、放置。
目の前の生徒に、実況中継を頼んで授業を進めます。
最初、目立ったことはおきませんが、そのうち泡がアルミにくっつき、泡が立ち上るようになり、白濁し、「噴きあがり」始めます。最盛期、試験管の口から噴出するくらいになりますから、下に雑巾を置いておかないと危険。
激しく反応している時に試験管の口にマッチの炎を近づけると、円錐形の水素の炎が見えます。
炎自体は青くて見えづらいのですが、泡が弾けて熱されて見えるようになります。
やがて落ち着きますが、反応液は「まっ黒」。微細なアルミニウム粒子のせいです。
{ちなみに、しばらくすると、この黒は消え無色透明になります。完全に反応が終わって、微粒子が消えた証拠です。}
説明はもう『お分かりと思います。
アルミフォイルを入れたときから反応は始まっていたが、非常にゆっくりだった。
反応が起きると熱が出る。塩酸やフォイルの温度が上がる。反応が速くなる、熱が溜まって反応は更に速くなる・・・。
実際に目で見た生徒は納得します。
演示実験でもいいし。3年生くらいなら生徒実験でもやれます。

ご自分で繰り返し予備実験を行ってから生徒に見せてあげてください。

★関連
http://yamada-kuebiko.cocolog-nifty.com/blog/2014/08/post-b99f.html
2014年8月27日 (水)「スクラップ置き場で火災」
↑この記事の最後にボタ山火災のことをちょっと書いておきました。

★昔、炭鉱のそばで「ボタ山」火災というのが時々起りました。
あれは、石炭の炭素が、ものすごく遅い反応とはいえ自然に酸化を受けて、わずかな発熱をする。その熱がボタ山の内部に蓄積してしまって温度が徐々に上がっていき、ついには発火に至る、という火災でした。

石炭を大量に積み上げてはいけないのです。昔っから知られていたことでした。

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