蔵王山の状況について
★10日の朝日新聞のサイトに
「宮城・山形県境にある蔵王山で、火口湖の白濁や火山性微動が確認されるなど、活動が高まっている」という記事が出ていました。
http://www.asahi.com/articles/ASGB95GKGGB9UNHB01D.html?iref=comtop_6_03
蔵王山、火口湖に白濁 気象台「ガス噴出の恐れも」(2014年10月10日07時22分)
宮城・山形県境にある蔵王山で、火口湖の白濁や火山性微動が確認されるなど、活動が高まっているとして、仙台管区気象台は9日、宮城県や地元自治体などに注意を呼びかける「解説情報」を出した。今後、新たな噴気孔ができたり、火山ガスや泥が噴出したりする恐れもあるとしている。
気象台によると、地下で熱水などが動くことで起きる火山性微動が、9月30日以降の10日間で計3回観測された。地下に埋めた傾斜計からは、この間に山頂付近が2ミリ程度盛り上がったことを示唆するデータが得られた。
・・・
会見した気象台の巻和男・火山防災情報調整官によると、・・・「危機感を持っている。何もない正常な状態ではない。突発的な水蒸気噴火が起きる可能性もまったくないとはいえない」と話した。
蔵王山は秋の観光シーズンで、県危機対策課は「入山規制までは考えていない」としながらも、登山客に注意を呼びかける看板を立てることなどを検討しているという。
■研究者「噴火リスク上昇か」
・・・
地殻変動にくわしい東北大の三浦哲教授は、山のふくらみを示唆する傾斜計のデータについて「地すべりなどによって同じようなデータになることもある」としながらも、もし本当にふくらんでいるとすれば「地下水が熱せられて一部が水蒸気になり、周りの岩盤を押しているのだろう」と推測する。「火山性微動が起きても圧力が下がっていないのなら、噴火のリスクは上がっていると言える」
★1:「地下で熱水などが動くことで起きる火山性微動」について。
この表現は実は、9月28日の、御嶽山の火山活動に関する火山噴火予知連絡会の記者会見でしたか、NHKの中継を見ていて、あの時に「地下でガスや熱水などの流体が動くことで起きる火山性微動」が観測されていたという発言を聞き取りました。
その時、そうだったんだ、おそらく過熱水の減圧で爆発的な気化が起こったんだな、と私は理解しました。
ですが、NHKでも、普段読んでいる朝日新聞でもそのことにはほとんど触れませんでした。
↓この資料に、噴火前の火山性微動の推移のグラフがあります。
http://www.jma.go.jp/jma/press/1409/28a/yochiren20140928-2.pdf
火山噴火予知連絡会拡大幹事会(平成26年9月28日)
ここで、黒い棒は「A型地震」という、マグマの動きで岩盤に破壊が起こる時の振動です。
灰色と白の棒は「B型地震」といって、「地下で熱水などが動くことで起きる火山性微動」です。LとかHとかは振動数による分類ですので、ここでは立ち入りません。
9月10日頃からA型地震が発生していますが、素人の私の見るところ、その後の推移は「減衰」ですね。
指数関数的に回数が減っているように見えます。
私は自分のHPの下のページで「地震のエネルギーと余震」について議論したことがあります。
http://homepage3.nifty.com/kuebiko/essay/yoshin.htm
おそらく専門家の方々も、このグラフの推移をみれば、御嶽山の地下で、マグマの動きは続いているけれども、落ち着いてきている、と判断したのではないでしょうか。
ところが実際には9月27日、噴火が起こってしまったのでした。
また、27日以前のグラフでも、灰色や白の部分=B型地震が少しありますが、ほとんど目立たない。
27日にはB型地震が非常に多い。
このことを記者会見で触れていたのだと思います。
ですが、あまり注目はされなかったようですね。
読売新聞のサイトが9月29日に報道しています。
御嶽山での火山性地震に水蒸気爆発のシグナル(2014年09月29日 17時37分)
御嶽山で9月に入って起きた火山性の地震に、低周波の地震が含まれていたことが気象庁の解析でわかった。
専門家は「水蒸気爆発が起きるシグナルの一つで、今回のデータを今後の噴火予知に生かしていく必要がある」と指摘している。
火山は、噴火の前兆として、地震が増えることが多い。地下でマグマが上昇する時、岩盤が壊れて起きる地震は「A型」と呼ばれ、地震の波形は普通の地震と似ている。御嶽山では今月10日に火山性の地震が52回、11日に85回観測されたが、いずれもA型だった。
地震の総数は12日以降に減少したが、14日に2回の「B型」と呼ばれる低周波の地震が発生し、26日までに計13回を記録した。
B型は、浅い地下で水や火山ガスなどが動いて起きる地震。地下の水蒸気やガスが増えて圧力が上昇したことの目安となる地震で、火山特有の波形を持ち、水蒸気爆発の前に増える傾向がある。ただ気象庁は、A型の地震については震源の深さに大きな変化がなく、B型の回数も少なかったため、噴火警戒レベルの引き上げを見送っていた。
28日の火山噴火予知連絡会の記者会見で、藤井敏嗣会長は「これ(低周波地震)が出始めたら、(噴火と)関係しているかもしれないと思って注目する一つの指標になり得る」と指摘した。
2014年09月29日 17時37分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
やはり重要な指摘だと思います。
報道に携わる記者さん方の基本的な「科学リテラシー・レベル」が問われるところです。
知識があるかないかではなく、記者会見を取材しながら、ん?今の発言は何かな、気になる、というような「科学的感性」というようなものでしょうか。わからなければ質問すればいいのです。重要な質問ならきちんとした回答が得られるでしょう。そういう回答を引き出す「レベル」が欲しいのです、報道者に。
★2:「火山性微動が起きても圧力が下がっていないのなら、噴火のリスクは上がっていると言える」
蔵王では今、B型の火山性微動が観測されているようですね
蔵王についての今日の報道の最後のところに注目してください。
山のふくらみを示唆する傾斜計のデータについて「地すべりなどによって同じようなデータになることもある」としながらも、もし本当にふくらんでいるとすれば「地下水が熱せられて一部が水蒸気になり、周りの岩盤を押しているのだろう」と推測する。「火山性微動が起きても圧力が下がっていないのなら、噴火のリスクは上がっていると言える」
山体のふくらみは、水蒸気圧の上昇によるかもしれません。圧力が上がっているなら、100℃を超えた過熱水が生じていると思います。
周囲の岩盤がギシギシと壊れて、火山性微動を起こしていて、その破壊によって過熱水が外気圧と通導すれば、沸騰して水蒸気を噴出するという形になるでしょう。圧力が穏やかに抜けるケース。
ところが、岩盤の破壊は起こってはいるが、圧力が抜けていないなら、過熱水の温度はさらに上がり、圧力も増大し、限界が来たところで一挙に破壊が起これば「爆発的な気化」が起こりうることになり、「噴火のリスクは上がっていると言える」ということになるのです。
私のこの文章、多少の解説になっているでしょうか、自信はありません。
ただ、蔵王について、登山者も警戒の度合いを高めてください。警戒しすぎるということはないでしょう。
★譬え話をちょっと。
頑丈な煎餅を両手に持って、力を込めて割るとしましょう。
力を増していけば、最終的に必ず100%割れるということは保証できます。
では、どのくらいの力を加えたときに、いつ、煎餅のどこからひびが入って、真っ二つに割れるのか、多数に砕けるのか。
これは予測は難しい。
豆腐に板をのせて上に錘を置く。
錘を増やしていけば、最終的に必ず豆腐はつぶれる。
でも、いつつぶれはじめるのか、どういうつぶれ方をするかについては、予測は難しい。
地震とか噴火とかいうことには必ずこういうことがつきまとうのです。
そのことを理解したうえで、リスクと付き合うしかないのです。
リスクはゼロにはなりません。
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