水の状態図・超臨界
水の状態図というものです。
「蒸気圧」のところで説明した蒸気圧曲線は、この図のTからCの部分です。
液体と気体の境目の話しでした。
BからTの部分で固体と気体が境を接しているということは、固体から気体へ、気体から固体への変化がありうるということですね。これが「昇華」です。
氷から直接水蒸気も出るのです。
水蒸気が直接氷になることもできる。これは雲の中で起こる出来事。そうやって雲の中では氷晶が成長します。
「物質の三態変化」として学んだことがこのグラフに集約されています。
★さて不思議なことに、蒸気圧曲線はC点で終わってしまうのです。
水の場合、218気圧、374℃というところがこの曲線の「終点」なのです。
こういう「あるところを境にして出来事の性質が全く変わってしまう」というところを「臨界点(the critical point)」といいます。
では、臨界点を超えて圧力・温度が上がったらどうなるのでしょう?
この状態を「超臨界」といいますが。
超臨界状態では、液体と気体が区別できなくなってしまいます。
↓参考サイト
http://www.youtube.com/watch?v=bE5l8c6PF9M
http://www.toyokoatsu.co.jp/high_tech02.html
http://www2.scej.org/scfdiv/scf.html
まあ「ものすごい状態」だと思ってください。
「2500mの海底に火山がある」といった状況を考えてください。
圧力が250気圧ですから、臨界点を超えています。
マグマの熱で海水が熱されると超臨界水になります。すると岩石中の金属成分なども溶け込んでしまいます。普通の状態の水には溶けないものが溶けたりするんですね。そういう超臨界水が噴出して溶けていた鉱物を析出させると「熱水鉱床」ができたりするんですね。
これは化学の授業でよく話したことです。
また実際にプラント化されたかどうかよく知りませんが、PCBを処理するのに超臨界水内での酸化反応を使うというのがありました。
「超臨界って恐ろしい」とは思わないでください。
身近なところで二酸化炭素の超臨界状態を利用しています。
二酸化炭素の臨界点は72.8気圧、31.0℃です。
水に比べれば随分穏やかな条件です。
超臨界二酸化炭素で、花や食品の香り成分を抽出して、圧力を下げると、「沸騰という激しい出来事」を経ずに「比較的低温で」二酸化炭素は気体になって抜けますので、複雑な天然の香料などを変性させずに取り出すことができるのです。
http://www.chorinkai.co.jp/older/chorinkai2.html
★さて、水蒸気爆発について、検索して調べていましたら。
これは特許関連のサイトです↓
http://www.xtokkyo.com/3T/2011094601.html
爆発行程を有する蒸気タービン製造方法
【課題を解決するための手段】
既存の蒸気タービンは高温高圧の水蒸気(過熱蒸気)をタービン室内に噴射し、水蒸気の膨張圧力エネルギーを利用する。しかし、本蒸気タービンは高温高圧の過熱蒸気の代わりに、100℃以上の高温高気圧水を、一気に飽和圧力点(沸点)を越える減圧、または大気圧内に噴射し、このことに因り、高温高圧の水は高圧から一瞬に解放され、沸点が急激に下がることに因り(図2b)、一瞬に沸騰し、体積が約1600-1700倍の水蒸気になることにより水蒸気爆発を起こす。例えば図2bの点Aは200℃/20気圧から一気に大気圧の点Bに解放された状況を示してある。沸点が100℃の大気圧内で、200℃の水は存在することが出来ず、一瞬に沸騰し水蒸気へと相が転移し、水蒸気爆発を起こす。
「高温高圧の水は高圧から一瞬に解放され、沸点が急激に下がることに因り、一瞬に沸騰し、体積が約1600-1700倍の水蒸気になることにより水蒸気爆発を起こす。」
こういう記述があります。
私が理解している水蒸気爆発と同じですね。その「爆発」をタービンに使おうという特許のようです。
超臨界の話ではありませんが、私の理解しているような水蒸気爆発という概念がやはりちゃんとあるのだ、ということがわかって嬉しく思いました。
★続いて超臨界の話。
東京大学の報告です↓
http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/YOTIKYO/OpenReport/H22/html/2911/
課題番号:2911
平成22年度年次報告
{前略}
(6)本課題の5か年計画の概要
火道内マグマの後退期に起きる水蒸気爆発はその発生頻度が低くマグマ噴火に比べて未解明な点が多い噴火様式である。磐梯山の1888年水蒸気爆発は世界的に最大規模の現象であるが今日でも山体崩壊やブラストを伴った発生メカニズムは分かっていない。噴火予知の視点からも大災害に繋がる水蒸気爆発のメカニズムの解明は必須の案件である。水蒸気爆発のメカニズムとして従来から2液相の接触・混合を想定した捉え方が伝統的であったが、我々はまったく新しい視点から水の相転移図をもとに超臨界状態の水がある温度・圧力状況下で急激な体積変化を起こすことに着目した。この相転移が火山の水蒸気爆発の発生要因になることを1888年磐梯山噴火に適用し噴火時系列やエネルギーの観点から新しいモデルを提案する。大規模な水蒸気爆発に伴う山体崩壊は広域的な火山災害に発展する可能性を秘めており、そのメカニズムの解明は噴火予測研究にとって優先的な課題であり、火山体浅部の流体の挙動の解明にも資する所が大きい。(7)平成22年度成果の概要
{前略}
(1)当時の資料並びに古文書の再検討
{略}
(2)前兆現象の解明
1888年の噴火の約1週間前から前兆現象として地中から遠雷に似た発信音に続き顕著な地震活動が続発したことが知られているが,これまで定量的な検討は皆無であった.そこで地中の遠雷の起源をNatural Explosive Noisesとみなし,火山直下の超臨界水中での均質発泡と気泡成長に伴う音波発生のモデル化を試みた.その結果,超臨界水の温度が0.9 Tc(Tc:臨界点温度)以上で直径0.5~1.5 m前後の気泡の振動から雷の音響的特徴30~70 Hzが説明できることが明らかになった.遠雷の音を引き起こす気泡の生成・膨張は間隙圧を増大させ,割れ目の生成・成長を促進する.その結果,割れ目が地表に達してVapor Explosionが起こり,水蒸気とともに熱水や泥が水烟の形で放出される.この水烟の噴出は甲殻構造の内部に貯留された超臨界状態にある過熱水に1 MPa程度圧力低下をもたらす.この圧力変化に誘因され爆発的体積増加が貯留層で起り,1888年磐梯山噴火の山体崩壊を引き起こした「最後ノ一発ノミ北ニ向ヒテ横ニ抜ケタ」大規模な水蒸気爆発の発生メカニズムであると解釈した.
以上の結果は大規模水蒸気爆発が超臨界水に密接に関係した臨界異常現象であることを示唆し,磐梯山水蒸気爆発の物理的背景の解明につながる成果である.
磐梯山の爆発は有名ですし、水蒸気爆発だったと私も学びました。でも、ちゃんとしたメカニズムの研究はまだだったんですね。
ここでは「超臨界状態の水がある温度・圧力状況下で急激な体積変化を起こす」という観点の分析です。
「水蒸気爆発のメカニズムとして従来から2液相の接触・混合を想定した捉え方が伝統的であった」というのは、液体の水に高温の溶岩が接触して大量の水蒸気が「爆発的に生成する」という、水蒸気爆発の解説によく使われるメカニズムのことでしょう。
そうではなく、過熱水あるいは超臨界状態の水が一挙に気体になってしまうというメカニズムを提案しているようですね。
●今年の、今回の御嶽山の爆発はおそらく「超臨界状態」からの圧力減少ではなく、100℃を超えた過熱水の減圧による爆発だろうと、私は推測しています。
★以前私が書いた理科おじさんの部屋↓
http://homepage3.nifty.com/kuebiko/essay/Jiko.htm
関西電力美浜原子力発電所3号機の水蒸気噴出事故に思う
ここで水蒸気爆発の話も扱っています。
★日常生活で「水が沸騰する」のは1気圧で100℃。
それを超えた条件下での水の挙動について、少し知識を持っていただけると、火山や熱水鉱床など、いろいろな現象が理解できるようになると思い、ご紹介しました。
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