「10月23日は・・・の日」
恥ずかしながら私、知りませんでした。化学教師でしたのにね。
と、この一行を読んで、「ひょっとして・・・」と思われた方は化学系の「鋭い」かたですね、きっと。
何の日であるかを知った記事を引用します↓
化学 Vol.69 No.10(2014){化学同人}
巻頭エッセイ カガクへの視点
「10月23日は化学の日」瀬田 博
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昨年10月日本化学会、化学工業会、日本化学工業協会、新化学技術推進協会の共同提案で、10月23日を「化学の日」、その比を含む1週間を「化学週間」と制定した。10.23は1mol中に含まれる分子や粒子の数を示すアボガドロ数6.02×10^23に由来する。アメリカではすでに10月23日を”Mole Day”(モルの日)と定め、Moleの別の意味である「モグラ」のキャラクターデザインコンテストや、学校でパーティーを開催するなどおおいに織り上がっている。・・・
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ノーベル化学賞の受賞には沸くものの、新聞記事やニュースでは「化学物質」という表現は事故や汚染などネガティブな事象に使用されることが多い、革新的材料や製品では「画期的な新素材・新材料」、「夢の新薬」などと「化学」が冠につくことはまれである。同じ化学物質(ニュートラルにいえば物質)なのに。つまりネガティブな事象には「○○という化学物質が……」と使うと一般の方々がわかりやすい。これが大問題なのである。本来楽しいはずの化学、社会と経済、豊かな生活に役立っている化学、イノベーションを起こす可能性を秘めている化学が、真っ当に理解されていないのが現状といってよい。
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{すべての物質は「化学物質」です。これは私も昔から言ってきたことです。}
さて、これです。「6掛ける10の23乗」ですね。
きっと、この10の23乗に悩まされた方は多いんだろうなぁ。
元化学教師として、ご同情申し上げます。
厳密さをあまり追求しなければ(特に高校化学レベルでは)「『個数』である」という理解でいいんですけどね。
少しだけ書いておきます。
★モルってなんでしょう?
「モル」は高校化学の「躓きの石」なんですよね。
「物質量」なんていわれたら「引く」でしょう、きっと、多くの人が。
「ものの量」として幼いころから感覚的に養われてきたのは。
「体積(かさ)」「質量(おもさ)」があります。
飲み物を買う時は「1L」とか「500mL」とか「体積」で買います。
肉を買う時は「200g」とか「500g」とか「質量」で買います。
ところが、化学でたとえば
水素1Lと酸素1Lを混ぜて爆発させると、爆発後に酸素が余って残っているのです。
水素10gと酸素10gを混ぜて爆発させると、今度は爆発後に水素が余って残っているのです。
同じ体積や同じ質量では「つりあわない」のですね。余りが出てしまう。
爆発後に水素が残っているなどというのは、初めての時は不思議であるらしい。
生徒の目の前で、デモ実験を行って、ほら水素が余ってる、と示すと驚きますね。
中学校で学ぶことですが
2H2+O2→2H2O
です。
水素分子2個と酸素分子1個であまりなく反応します。
水素ガスと酸素ガスは、体積比2:1で余りなく反応します。
水素ガスと酸素ガスは、質量比1:8で余りなく反応します。
「つりあう」といっても、いろいろな考え方がありうるわけですね。
化学では、反応に与る原子・分子の個数が問題になることが多いのです。
そこで、「ものの量」として「個数」を導入すると便利なのですね。
ただ、実際に実験をするときは、物質を体積や質量で測って使いますので、個数とそれらを結びつけることが必要になり、そのあたりで混乱してしまうのではないでしょうか。
<私がよく使った譬え話。>
ある幼稚園でお相撲さんを呼んで園児とペアでダンスを踊ってもらうことを考えた。
園児の体重は1人20kgで、30人いる。
で、相撲部屋に依頼してお相撲さんを派遣してもらいました。
相撲部屋の方では
20kgで30人か、600kgだな。
体重150kgの関取を4人派遣すれば「つりあう」な。
当日、お相撲さんが4人来たのですが。
体重は釣り合ったのですが。
1対1で手をつないで踊ろうとしたら、26人の園児は相手がいなくって、大泣きに泣いてしまったのでした。
お相撲さんが30人来てくれなければ「つりあわない」のですね。体重とは無関係に。
と、こんな話。人数が大事なのでした。
化学で相手にしているのは原子分子です。
水素原子の重さを1とすると、酸素原子の重さは16もあるんです。
重さが釣り合ってもだめなんですね。
しかも、原子分子はとんでもなく軽い。
水素原子1個の質量なんて
0.00000000000000000000000167g
くらいです。
「センセー、ゼロ何個あるの?」「小数点以下にゼロを23個書いて、24桁目から167だよ」
「めんどくさいだろ。だからこれを1.67×10^(-23)gって書くんだよ。」
人間にとって取り扱いやすい質量と言えば、g単位ですね。kgだとちょっと重いし、t(トン)単位じゃ実験なんかできはしない。
水素原子をね、これだけ集めると1gになるんだよ、といってから、黙って下のように書きます。
600000000000000000000000個
ノートを取っていた生徒は、センセー、ゼロいくつ~?と聞いてきますから
ゼロは23個。これを6×10^(23)と書くんだね。
「冪」とかいって悩まない、要するに桁数を簡単に書いてあるだけさ。
これだけの個数の水素原子で、「水素原子一山(ひとやま)1g」というわけだ。
「酸素原子一山」なら16gになる。
「一山」なんてのは日本語だし、「molecule = 分子」からとか、「ラテン語の moles = 英語の pile」とかが由来ときくけど、要するにこの一山のまとまりを「モル」ということになったんだね。
ま、こんなところですか。
とんでもなく小さな原子分子の世界を扱うために考案された、「大集団の名前」と割り切ってしまえばよいのです。
★参考
日本化学会のサイトです。
http://www.chemistry.or.jp/news/information/post-71.html
「化学の日」制定について
日本化学会、化学工学会、新化学技術推進協会、日本化学工業協会(以下、共同提案団体)は10月23日を「化学の日」、10月23日を含む週(月曜日~日曜日)を「化学週間」と制定いたしました。(アボガドロ定数:1molの物質中に存在する粒子の数=6.02×10の23乗に由来)
今後、「化学の日」「化学週間」について広く市民、社会に広報・周知を図り、化学への理解増進・啓発活動に取り組んでまいります。
社会の持続的発展をはじめ市民生活において、化学の果たす役割は広くかつ大きなものがあります。しかし、学問としての化学への親しみやすさ、化学製品の役割への理解は十分なものではありません。
共同提案団体は化学および化学産業の社会への貢献を理解していただくことを目的として、1993年から「夢・化学-21」委員会を創設し、夏休み子ども化学実験ショー、化学グランプリ・国際化学オリンピック、化学実験教室など未来を担う子どもへの化学に対する理解増進・啓発活動に取り組んでまいりました。
また、全国の大学・研究所や企業でも一日体験入学や工場・研究所見学、実験教室など化学や化学産業についての地道な理解増進・啓発活動を続けてきております。
この取り組みの一環として、今般共同提案団体は「化学の日」「化学週間」を制定する運びとなりました。
今後、化学にかかわる様々な団体、企業に呼びかけ「化学の日」、「化学週間」を起点とした市民と化学との接点を広げてまいります。
記
1.毎年10月23日を「化学の日」に制定する。
2.毎年10月23日を含む週(月曜日~日曜日)を「化学週間」とする。
3.共同提案団体
公益社団法人日本化学会
公益社団法人化学工学会
公益社団法人新化学技術推進協会
一般社団法人日本化学工業協会
http://www.kagaku21.net/index.php?mode=event_detail&seq=11
こんなところもいいかと思います。どうぞ。
http://www.jsac.or.jp/bunseki/pdf/bunseki2005/kougi02.pdf
「アボガドロ定数はどこまで求まっているか」
これは詳しいです。興味がありましたらどうぞお読みください。
アボガドロ定数の現在の測定精度は約7桁であるが,あと一桁向上すれば,国際キログラム原器という分銅で定義されている現在の質量の単位を再定義し,原子の数を基本とする新しい定義である原子質量標準へと移行することが可能となる。つまり,原子の数を基本として質量の単位を決めることができるわけである。
こんな話もあるんですよ。