ハラビロカマキリ
2014.8.12
キョウチクトウの葉で。
眼光鋭いですねぇ。ぞくぞくする。
カマキリ大好き夫婦です。
庭で配偶者が見つかって、増えてくれると嬉しいんだけどなぁ。
子らが小学生の頃は家の近辺でもずいぶん見かけたものですが。
近年、減ってしまいました。
★ところで、このカマキリたちの視覚について面白い話をご紹介しましょう。
動物の多様な生き方2「動物の生き残り術 行動とそのしくみ」
日本比較生理学会編、共立出版、2009年5月25日 初版1刷発行
という本から。適宜書き抜いたものです。中略とか、そういうのは書き込んでません。
{私がなにか書き込みたいときは行頭と行末に「★」をつけます。}
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カマキリは特に視覚が発達した待ち伏せ型の捕食者で・・・
カマキリは基本的に動く物体を餌として認識する。このときサイズはとても重要で、ちょうど鎌にはさまる程度の物体に捕獲行動を示すことが多い。
視覚によって物体の見かけの大きさが測定できても、その物体までの距離がわからなければ、物体の実際のサイズは知ることができない。
カマキリは実際のサイズに関係なく、ある一定の見かけの大きさの物体に捕獲行動を示す。しかし、捕獲行動は鎌の届く範囲に物体があるときに限られる。つまり、距離を限定することでサイズも限定される。これにより、実際には鎌で挟めないような大きい物体を捕獲しようとする事態は避けられる。
となると、次はカマキリがどうやって距離を測るのかが問題になる。・・・・プリズムを使った明快な実験で、カマキリも両眼視差を手がかりに距離を測ることが明らかになっている。プリズムを使うと光の屈折により、光線の方向を曲げることができる。これにより、実際には遠くにある物体を近くにあると勘違いしてカマキリは捕獲しようとするのだ。
(★スキャナーでファイル化することができないので、写真でお目にかけます。★)
図3 カマキリによる距離測定:両眼視差の利用
カマキリが捕獲行動を起こしたときの、両眼視差と餌までの距離の関係。両眼視差は左右の眼で見た餌の水平位置の違いとして角度で表し(d)、それを縦軸に示した。横軸はそのときの餌までの距離を示す。両眼視差(d)は餌が無限に遠いときゼロになり、餌が近いほど大きい値をとる。
(a)は通常の場合を示し、両眼視差が10~13°のときに捕獲行動が起きる。そのときの餌距離は25mm前後である。
(b)は、60~80mmの距離に餌があるが(●)、プリズムを使って両眼視差dが見かけ上10~13°になるように調整した場合。プリズムの屈折の効果で、光線は(b)左図の実線のように曲げられる。その結果、カマキリには破線のとおりに光線がくるように見え、○の距離に餌があると錯覚して捕獲行動を起こす。
・・・
★カマキリにプリズム(眼鏡)かけさせますか、すごい発想ですね。もちろん、カマキリの頭部を固定して、目の前に小さなプリズムをセットし、鎌を伸ばすかどうか調べるのでしょうが。
なんだかこう、「眼鏡をかけたカマキリ」のイメージが脳裏に走って、最初読んだときは笑ってしまいましたっけ。{サングラスをかけたオオカマキリに「何か用か?」とにらまれたら、こわいな~。}★
運動視差
両眼視差は左右の眼の位置の違いによって生じるが、自分自身が移動して別の位置へ移動してもはじめとは異なる光景を得ることができる。このように運動によって得られる光景の変化を運動視差(motion parallax)とよぶ。たとえば、電車に乗って風景を眺めていると、遠くの山はあまり動いて見えないが、線路際の電柱などは高速で視野を横切っていく。つまり運動中には、遠い背景はゆっくり動き、近い物体は早く動いて見える。このため、運動視差は背景から物体を区別するのに役立つほか、距離の推定にも利用することができる。
実際に運動視差を利用して距離を測る動物の例として、バッタやカマキリがあげられる。たとえばm左の図のように離れ小島にカマキリを置くと、近くにある物体に対してジャンプして飛び移る。このジャンプの直前にカマキリは頭部を左右に揺らす動作を行い、それによって生じる運動視差で距離を測ると考えられている。このことは、ちょっとしたイタズラで証明できる。真ん中の図のように、カマキリが頭部を動かすのと逆方向に物体を動かしてみせると、物体が通常より速く動いてにえる。速い動きは物体が近くにあることを意味するので、カマキリは距離を少なめに見積もってしまう。その結果、ジャンプしても物体に届かずに落ちるはめになる。一方、右の図のようにカマキリ頭部の動きと同じ方向へ物体を動かすと、物体の動きは通常より遅く見える。このことは物体が遠くにあることを意味するので、今度は飛びすぎてしまう。
バッタやカマキリなどの昆虫に運動視差の利用がみられる理由は、その体の小ささにある。たとえば、カマキリは両眼視差によって距離を測ることができるのだが、両眼間の距離が短いのと眼の解像度があまり高くないため、その測定可能な距離は数cm以内のごく近傍に限られる。そのため、遠くまでの距離を測るには運動視差を利用すると考えられる。
↓★上の文中の「ちょっとしたイタズラ」の図です。★
★しかしまぁ、よくこういう実験を思いつきますね。カマキリが好きなんだよなぁ、でなけりゃこんなこと根気よくやってられませんよね。
あは、しくじってら、とか笑いながら、いやごめんごめん、とか声かけながら、実験したんじゃないですか。しくじったのは君のせいじゃない、ボクが悪いんだ、って謝りながら、とか。しかめっ面でやる実験ではないような気がする。★
カエルは餌が動かなくなると反応しなくなる。しかし、カマキリは自分自身が動くことで餌の検出を試みるようだ。餌が動かなくなると、しばしばカマキリは左右前後に頭部を移動させる動作を行う。この動作はピーリング(peering)と呼ばれ、動作中は異なる位置から背景や餌を見ることができる。この自身の運動による光景の変化を運動視差(motion parallax)と呼ぶ。ピーリング動作中、遠くの背景は見かけ上あまり動かず、近くの餌は早く動いて見えるため、運動視差は餌を検出する手助けとなると考えられる。実際、ピーリング動作の後に捕獲行動がしばしば観察される。
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★カマキリを飼育していると、この動作をよく見ます。
ハエを入れてやって、ハエが歩いたり飛んだりしていると、間合いを測って鎌を伸ばす。
ところが、ハエが壁面で止まってしまうと、それまでカマキリはじっと目で追っていたのが、ハエが止まってしまったので、自分の体を左右に揺らして距離を測っている、ということは長い飼育経験でわかってはいました。この動作、なんというか迫力があるんですよね、カマキリファンとしてはぞくぞくします。
実際そのことを本に書いてもらえたので嬉しくて仕方ないわけです。
★確信は持てませんが、このカマキリの視覚についての記述を読んでいて思い当ったことがありますので、書いておきます。
オオカマキリの飼育中。
私たち家族の管理下での交尾。
大型水槽に、足場としての木の枝を入れ、蓋は滑らないようにざらざらの木の板を用います。
まず、オスを入れて新しい環境に慣れるようにしばらく時間を置きます。
オスが落ち着いたら、メスを入れます。
メスは新しい環境に移されて、状況を調べようと歩き回ります。
オスはメスの動きを察知し、遠くにメスがいるとわかります。
ある時、メスの真正面からオスが近づいていきました。
ドキッ。
鎌の射程に入ったら、オスは捕獲されてしまうのではないか。
すると、メスの射程より少し遠めの位置で、オスが腹部を左右に振りました。
翅の下から左右にかなりはみ出させて大きく振りました。
次の瞬間、オスはぱっと走ってメスに接近し背後に回り、交尾姿勢に入りました。
この動作を見て、その当時、オスが腹を振る動作は、自分が同種のオスであることをメスに知らせるコミュニケーションなのではないか、と思いました。
で、30年近くも隔ててこの本に出合いまして。思ったこと。
「あ、そうか。立体視による遠近感を利用して、鎌の射程内にはいないぞ、とメスに思わせておいて飛び乗ったのではないか」
オオカマキリは大きいですからね。頭から腹端部まで10cm近くあります。
腹端部を振ればメスはその動きを見て、まだ10cm以上離れていて射程内にはいない、と判断するでしょう。
その虚を衝いて、オスはメスの鎌が動かないうちに飛び乗ってしまう。
ということだったのではないでしょうか。
メスに捕獲されないための動作ではあるのですが、多分そういうことだ、と思っています。
★追記。
カマキリのメスがオスを食べる、ということについて。
6年間の飼育下で、そのようなことは起こりませんでした。
交尾は何時間か続きますが、終わるとオスはぱっとメスの背中から飛び降ります。
飼育ケースの床に下りてしまいます。
飼育ケースの広さだと、メスに見つかって捕獲されかねませんから、それを見たら瞬時に家族の誰かが手を出してオスを掴み出します。野外だったら、変な枝にでも引っかからない限り、オスは1m以上は一挙に遠ざかることができるはずです。
交尾中に食べるということもまったくありませんでした。
交尾後はちゃんと逃げます。
シーズンの終わり、動きが鈍くなってしまったらメスに捕獲されることはあるかもしれませんが、稀なこと。
カマキリのメスはオスを食う、と、やたらと宣伝されますけど、オスだってそうやすやすとは食べられたりしません。たまにそういうこともあるかもしれませんけどね。常にではない。
飼育者として、経験上得た知識です。
誤解を解いてください。
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