ボタン型電池の誤飲
★NHKのニュースです。
ボタン型電池 子ども誤飲し大けが相次ぐ(6月18日 18時21分)
おもちゃや家電製品のリモコンなどに使われるボタン型の電池を、子どもが誤って飲み込み、大けがに至る事故が相次いでいるとして、消費者庁が注意を呼びかけています。
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ボタン型の電池は、飲みこむと消化管で放電を始め、電気分解によってできるアルカリ性の液体で、食道に穴が開くなどの大けがをすることが多いということです。
しかし、こうした危険について理解している人は多くなく、消費者庁が乳幼児の保護者、3200人を調査したところ、およそ6割がボタン電池を飲み込むと重症化するおそれがあることを知らなかったということです。
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電池誤飲・1歳児のケース
東京都内の30代の母親の家庭では、去年8月、1歳2か月だった次男がボタン型のリチウム電池を誤って飲み込みました。
母親が目を離した隙に引き出しの中にあったLEDライトのついた耳かきを手にとり、中から電池を取り出して飲み込んだとみられています。
次男は泣きながら、泡を吹いて苦しそうにしていて、母親が呼んだ救急車で病院に搬送されました。しかし、電池が放電することでできた液体によって食道の壁が溶け、電池がめり込んでしまったために処置は難航し、口から取り出すまでに8時間がかかりました。
結局、次男の食道と気管には穴が開いてしまい、その後、2か月間、入院を余儀なくされました。
その間、口からものを食べることはできず、鼻からチューブで栄養を取る状態が続いたといいます。そして、およそ10か月がたった今も後遺症のために、肉や繊維質の多い食べ物は、のどにつまらせてしまうということです。
母親は「電池を飲んだ当初は、便とともに出てくると簡単に考えていて、これほど大変なことになるとは想像していなかった。場所が少し違えば動脈を傷つけて死亡するケースもあると聞き、恐ろしい気持ちになった。今はボタン型電池を使った製品は子どもの手が届かない所に保管するよう気をつけている」と話していました。
★化学教師だったころ、電気分解のところで必ず「食塩水の電気分解」をデモンストレーション実験を教室でやっていました。
教室に、50mLか100mL程度のビーカーと、純水、食塩、新品のボタン型電池、フェノールフタレインを持っていきます。
ビーカーに適当な濃度の食塩水を作ります。あまり濃くなくていいです。
そこへフェノールフタレンを2,3滴たらします。
ちょっと白濁する程度かな。
そこへ、ボタン型電池を放り込みます。
すると、ボタン型電池から泡が立ち、食塩水はみるみる赤くなっていきます。
フェノールフタレインが赤くなる→アルカリ性になったんだね。と。
さて、ビーカーを胸のあたりに持って話します。
これ私の食道の中だと思ってくれ。体内環境だからね、薄い食塩はあるだろう。そこへ電池を飲み込んでしまった。みるみる食道の中はアルカリ性になっていく。以前にも話したように、たんぱく質はアルカリに非常に弱い、加水分解してしまう、ということは、食道に穴が開く。
食道を通り抜けても、胃や腸で同じことが起これば、穴が開く。幼い子の胃や腸の壁なんて紙みたいに薄いんだよ。
とんでもなく危険なことなので、もし、自分の子がボタン型電池を誤飲してしまったら、急いで救急車を呼んで医療機関に行ってほしい。そして、ボタン型電池を飲んだこと、その電池が新品だったか古かったか、そういう情報を医者に伝えてほしい。
つまみ出せるものならつまみ出すし、だめなら緊急手術かもしれない。ことはそのくらい重大だ、ということを、そう遠くない将来に親になるかもしれない君たちはよく知っておいてほしい。
親指と人差し指でOKマークを作ってごらん。指で作ったこの「輪」を潜り抜けるくらいの大きさのものは、子どもが誤って飲み込むことができる大きさなんだ。親になったら、子の周囲からそういう大きさのものをすべて排除しよう。大人は大きいんだから、ちょっとくらい不便でも、危ないものは高いところ、見えないところに置くべきなんだよ。
これ、私の授業の一部です。こういう授業を受けた人は、桁としては1000の桁の人数に届いたのではないでしょうか。微力でしたが、化学教師としては避けて通れない話でした。
★食塩水中にはナトリウムイオンと塩化物イオン、そして水分子があります。
電池の正極(+)に水分子、ナトリウムイオン、塩化物イオンが衝突した時
電子を渡すことができるのは塩化物イオンです。そうして気体の塩素が発生します。
電池の負極(-)に水分子、ナトリウムイオン、塩化物イオンが衝突した時
電子を受け取れるのはこの場合ナトリウムイオンではなく、水分子です。
H2Oの水分子から、H2が気体として発生すると、残りは水酸化物イオンになります。
水酸化物イオンができたら、それはアルカリ性ですね。フェノールフタレインが赤くなったのは、このせいです。
★NHKのニュースで「電気分解によってできるアルカリ性の液体で」としているのはこういうことです。
他方、同じ内容の朝日新聞のニュースでは
ボタン電池、誤飲に注意 乳幼児、気管や食道に穴(朝日新聞 2014年6月19日)
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1歳前後の子がボタン電池を飲み込むと、食道に引っかかることが多い。粘膜に触れると電流が流れ、アルカリ性の液体が外に流れだす。すると食道の壁に潰瘍(かいよう)ができたり穴が開いたりする恐れがある。「潰瘍はわずか1時間でできる」(同庁)という。
同庁には2010年12月~14年3月に93件のボタン電池誤飲に関する情報が寄せられた。うち91件は3歳以下の例で、10件で入院をした。04年には1歳3カ月の男児が誤飲1日後に摘出をしたが、2週間後に合併症を引き起こし死亡した例がある。アメリカでは09年までの19年間で5万人が緊急診療を受け、うち35人が死亡したという。
消費者庁は3月、0~3歳児の母親3248人にインターネットを通じて調査をしたところ、ボタン電池を誤飲し食道にとどまると重症にいたるケースがあることを「知っている」と答えた人は38%にとどまったという。
「アルカリ性の液体が外に流れだす」といっています。
アルカリマンガン電池の場合(円柱型でもボタン型でも)確かに電池内部では非常に濃い水酸化カリウム水溶液を使っています。
電池に穴が開いてその水酸化カリウムが「外に流れ出す」という意味だろうと受け取れます。
私が教室で実験をした経験では、授業の冒頭で実験を開始して、50分後に電池に穴が開いていたことはありませんでした。
翌日、気体の発生が止まった電池を取り出して洗ってみても、穴が開いているようには見えませんでした。
ですから、電池内部のアルカリ性水溶液が流出することはあり得ないとは言いませんが、あまり大きな可能性ではないように感じました。
やはり、電気分解でアルカリ性溶液ができる、と考えるべきでしょう。
生徒には、ボタン型電池を使った器具の電池交換の時が危ないよ、といいました。
新しい電池を用意して並べて置き、古い電池をはずして新しいのをいれますね。
新しい電池に子どもが触れる機会になっています。
古い電池でも、電気分解は起こります。完全放電した電池、ということは少ないですからね。
でも、反応の激しさの桁が違う。やはり新品の電池に注意してください。
この件に関する消費者庁の文書です。ぜひお読みください。
http://www.caa.go.jp/safety/pdf/140618kouhyou_1.pdf
★もう一つ気になることがあります。
NHKのニュースで、「ボタン型の電池は、飲みこむと消化管で放電を始め」というところで、テレビ画面に「電池の放電のイメージ図」が出たのです。
(著作権の問題もあると思うので)モノクロームに変換して、一部分だけトリミングしました。
ナント電池から「火花」が出ていました!
これはないよな。NHKの科学記事レベルもそう高くはないなぁ。
冬場、静電気でパチパチ火花が飛んで、ちくっと痛いですね。あれは火花放電。
乾燥空気中で1cmくらいの火花が飛んだら、目安1万ボルトくらい。
先日久しぶりに停電を発生させた「雷」も大規模な火花放電です。
でもねぇ、飲み込んだボタン型電池から「火花」は飛ばないんですよ。
その位は常識として知っていてほしかったなぁ。
電池では、電気を外部の回路へ流し出すことを「放電」といい、外部から電圧をかけて電池内部に化学変化を起こして使用可能な状態に戻すことを「充電」というのですね。
ボタン電池を飲み込むと、イオン水溶液で囲まれて電池外部に回路が成立し、電流を流すわけです。これが放電であって、それによって電気分解が起きたのですね。
記者の皆さん、高校化学を思い出してくださいね。
★別件
http://www.huffingtonpost.jp/2014/07/04/lightning-strikes-in-new-york-city-amid-severe-thunderstorms-in-the-northeast_n_5557014.html
マンハッタンに落雷した戦慄の瞬間(画像集)
The Huffington Post | 執筆者: Ed Mazza
投稿日: 2014年07月04日 15時00分 JST 更新: 2014年07月04日 15時03分 JST
↑ここで、ものすごい「稲妻」の写真が見られます。いつまでリンクが保たれるのか知りませんので、悪しからず。
このページを少し下へ見ていくと、
地上から雷雲へ向けて上へ放電する稲妻だろうという写真もありまして、
これは見ものです。
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