可燃物容器は空っぽの方が危険なのです。
★5月29日に、兵庫県姫路港沖で原油のタンカーが爆発するという事故がありました。
ちょっとコメントしたいなと思いつつ、放置していたのですが、そのタンカーを引き上げるというニュースがあって、思い出しました。
NHK(7月23日 14時46分)
爆発で沈没のタンカー 2か月ぶり海上に
ことし5月、兵庫県の姫路港の沖合でタンカーが爆発、炎上し、船長が死亡、乗組員4人がけがをした事故で、海底に沈んだタンカーがおよそ2か月ぶりに引き揚げられ、海上保安部は爆発の詳しい状況を調べることにしています。
・・・
この事故について海上保安部は、タンク付近でのさびを落とす作業中に火花がタンク内のガスに引火して爆発したとみて業務上過失致死傷の疑いで捜査を進めていて、タンカーが港に到着するのを待って爆発の詳しい状況を調べることにしています。
●「聖幸丸は22日、広島県江田島市から原油約2千キロリットルを積んで出港。23日に兵庫県相生市の関西電力相生発電所でおろし、姫路港沖の播磨灘で停船していた。」
●「事故の前、乗組員がデッキ上で研磨機を使って船のサビを落とす作業をしていたという。船内に残った原油から発生したガスに引火し爆発した疑いがある。」
●「国交省令では、引火性の液体を積んだ石油タンカーやケミカルタンカーで工事や清掃をする場合、事前にガスの有無を検知して、火災の恐れがないことを確認するよう義務づけている。太田昭宏国交相は30日の閣議後会見で「さびを落とす作業中に火花が散ったのが原因とみられる」と明らかにした。」
●社長はこの日午後、姫路海上保安部を訪れ、報道陣に「原油タンク内からガスを抜く作業が十分ではなかったのかもしれない。(積んでいた)重油は約40度で固まる。今日は暑かったから(空の)タンクに残っていた原油が気化した可能性もある」と話した。
上は大体、新聞メディアからの引用で、出来事を書いてみました。
NHKで同じニュースを聞いていたら
●タンカーでは爆発の前、乗組員が原油を抜いたタンク付近の甲板でグラインダーという道具を使ってさびを落とす作業をしていたということで、海上保安本部は作業中に何らかの可燃性のガスに引火して爆発が起きた可能性が高いとみて原因を調べています。
こうなんですけれど、「危険な液体を下ろしてタンク内はほぼ空なのになんで爆発したのだろう」というニュアンスが聞き取れました。
で、私としては「空の方が危険なんですよ」と言いたかったのです。
原油は可燃物ですが、マッチ一本やグラインダーの火花で火が着くような代物じゃない。
原油がタンクいっぱいに入っていれば、上の空間も狭いし、そこに空気がたくさん入ることはない。
ところが、原油を下ろすと出ていった原油の分、空間ができて、そこには空気が入る。その空気の中に残留原油から低沸点の気体が蒸発すれば、可燃性気体と空気の混合物ができます。するとこれは爆発の危険性をはらむ。
原油を下ろしたからこそ爆発の危険性が増したのです。
ガソリンも火をつければ激しく燃えますが、炎をあげて燃える。燃えている間に消火活動ができる可能性はある。
ところが、ガソリンのタンクからガソリンを抜いた後の「空タンク」は危ない。瞬間的に爆発します。
自動車のエンジンがわずか1L程度の容量で1tもある車を高速で走らせることができるのはガソリンを爆発させているからですね。
小学校でも使うアルコールランプ。あまりにも口いっぱいに燃料を入れれば、そこに火が着いてしまう可能性があるから、ある程度液面を下げる必要はあります。しかし、アルコールの残量がものすごく減ったアルコールランプを児童に渡して火をつけさせるのは危ない。爆発して芯がふっとんだという事故は実際に起こっています。
アルコール残量のチェックはこまめにしなければいけません。
1L位の大きなガラス瓶にエタノールがわずかに残っていた。栓を開けて中味を足そうとしたら、スリがくっついて栓が抜けない。瓶を胸に抱えて頑張って栓を抜いたら、栓が抜けた瞬間に衣服から静電気の火花が飛んで爆発し、ガラス瓶が割れ、大けがをしたという事例を知っています。
可燃物の容器は、可燃物がほとんどなくなってほぼ空になった時こそ爆発の可能性が生じて危険なのです。
空だから大丈夫、とは絶対に考えないでください。
元化学教師からのアドバイスです。
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