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2014年4月21日 (月)

お歯黒

★朝日新聞に「GLOBE」という別刷りがあります。
2014.4.6号の特集は「化粧」でした。
そこに「お歯黒」の話が載っていました。

[Part3]黒い歯っていいな
 ・・・
 お歯黒液は材料に鉄を混ぜるため、「かね水」とも呼ばれていた。くず鉄と米のとぎ汁などを熟成させ、さびたら温めて、タンニンを主成分とする五倍子粉(ふしこ)を加える。これを鳥の羽根の筆で何度も歯の表面に重ね塗りして、黒く色づけるのだ。味はかなり渋かったようだ。
 ポーラ文化研究所が数年前に試作した熟成液を見せてもらった。ヘドロのような液体に鼻先を近づけると、獣医師の取材をしたときにかいだ牛ふんのにおいを思い出した。記者(鈴木)の歯に塗らせてほしいと頼んだが、「口がかぶれることがある」と断られてしまった。
 ・・・

引っかかる点が2か所。
●「かね水」

かね【鉄漿】
おはぐろの液。平家物語[9]「みかたには―つけたる人はない物を、平家の君達でおはするにこそ」 →おはぐろ
広辞苑第六版より引用

「みず」の部分は不要(あってもいいけど、「水」といわなくて十分です。)
「かね(鉄漿)」でいいですよ。
鉄=かね
漿=とろっとした液体
です。

●「タンニンを主成分とする五倍子粉を加える」

お歯黒を化学的に見ると、鉄(Ⅲ)イオンとタンニンの反応で水に不溶の黒いタンニン鉄をつくるということです。
「鉄漿」に含まれる酢酸鉄(Ⅱ){水溶性です}と「五倍子粉」に含まれるタンニンの反応で、水に不溶な黒いタンニン鉄をつくっていると思います。この時、空気中の酸素の作用で鉄(Ⅱ)イオンが鉄(Ⅲ)イオンに変わることが必要です。
ですから、歯に塗る前に混ぜてしまったらまずいです。先に不溶性の沈澱になってしまったら、歯に塗っても定着しません。
歯に鉄漿を塗り、しみこませてから、五倍子粉を塗り、ある程度呼吸で乾いてから、また鉄漿を塗り五倍子粉を塗る、と交互に何回か塗り重ねていくのではないかな。

お‐はぐろ【御歯黒・鉄漿】
(女房詞)歯を黒く染めること。鉄片を茶の汁または酢の中に浸して酸化させた褐色・悪臭の液(かね)に、五倍子ふしの粉をつけて歯につける。古く上流の女性の間に起こり、平安中~後期頃から公卿など男子も行い、のち民間にも流行して、室町時代には女子9歳の頃これを成年の印とした。江戸時代には結婚した女性はすべて行なった。かねつけ。はぐろめ。日葡辞書「ヲハグロスル」。「―始」
広辞苑第六版より引用

●化学に知識のある方は、鉄(Ⅱ)イオンは水溶液中でも、空気中の酸素のせいで、すぐに3価の鉄(Ⅲ)イオンになってしまうのではないか、と考えることでしょう。
高校化学の実験で、鉄の2価イオンは空気との接触で3価になってしまうから、注意するようにという指示を受けたこともあるでしょう。
あるいは、鉄と酸の反応で、水素が発生している間は鉄は2価イオンのままでいられる、という話も聞いたことがあるかもしれません。ところが、意外と知られていないことがあるのです。

シャーレに釘など入れておき、濃い目の塩酸を注ぎます。
反応して水素の泡が出ます。
で、そのまま放置。
何日かして、水がかなり蒸発したところを見ると、薄緑の塩化鉄(Ⅱ)の結晶が生成するんですね。
水素の発生はとっくに終わっているのに、どうして?3価にならないの?
金属の鉄の還元力です。
鉄2価イオンは金属の鉄の存在下で、安定的に存在しうるのです。

さて、鉄漿の話。
容器に、米のとぎ汁やらなにやらと屑鉄を入れておきますと、おそらく有機物が発酵して、酢酸を生じる。
強い酸ではないけれど、鉄と酢酸が反応します。ゆっくりと。
金属の鉄の存在下に酢酸鉄が生ずるのなら、おそらく酢酸鉄(Ⅱ)の状態でいられるはずです。
雑多な発酵産物もあって、臭いのでしょうが、それは仕方ない。
ということで、水溶性の鉄(Ⅱ)イオンが得られるので、タンニンと交互に歯に塗って、歯の表面上で不溶性の沈澱を生成すればいい。
おそらくこういうことなのだろうと考えています。

★参考

https://www.jda.or.jp/park/knowledge/index04_03.html
お歯黒の化学
 日本での材料はタンニンを主成分とする「ふし粉」と酢酸第一鉄を主成分とする「鉄漿水」(かねみず)と呼ぶ溶液からなり、お歯黒筆あるいは房楊枝を用いて交互に塗布していた。タンニンは、歯のタンパク質に作用してこれを固定し、細菌による溶解を防ぎ、第一鉄はリン酸カルシウム作用してその耐酸性をあげていた。さらに、空気で酸化されて生成された第二鉄はタンニンと結合してタンニン酸第二鉄の緻密な膜となり表面を覆い細菌から歯を保護していた。すなわち、お歯黒は歯の無機質および有機質との両面から歯質を強化し、かつ表面を緻密な膜で覆い歯を保護していた。

ふし【付子・附子・五倍子】
ヌルデの若芽・若葉などに生じた瘤状の虫ちゅうえい。タンニン材として女性が歯を黒く染めることや、薬用・染織用・インク製造などに供した。生五倍子。秋。 →ふしかね
広辞苑第六版より引用

ヌルデ
葉にヌルデシロアブラムシが寄生すると、大きな虫癭(ちゅうえい)を作る。虫癭には黒紫色のアブラムシが多数詰まっている。この虫癭はタンニンが豊富に含まれており、皮なめしに用いられたり、黒色染料の原料になる。染め物では空五倍子色とよばれる伝統的な色をつくりだす。インキや白髪染の原料になるほか、かつては既婚女性、および18歳以上の未婚女性の習慣であったお歯黒にも用いられた。

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