お歯黒の話の追記
★実は、お歯黒の原理が万年筆のブルーブラック・インクの原理でもあるのです。
単純化すると、硫酸鉄(Ⅱ)とタンニンと青の染料が主成分。
タンニンと鉄(Ⅱ)は反応していますが、水溶性です。ただ、そのままだとインク瓶のふたを開けるたびに新鮮な空気に触れて鉄の酸化が起きてしまいます。で、かなり強めの酸性にしてあります。そうすると、酸化されにくくなるのです。
タンニンと鉄(Ⅱ)だけだと、色が薄くって、紙に書いてもくっきりしませんので、青の染料を入れておくわけですね。
で、最初は「青」。
紙に文字として載ると、酸化されて鉄が3価になって、黒い水に不溶の沈澱になリます。
で「黒」。
そのため、「ブルー」→「ブラック」の変化が起きるわけです。
ですから、ブルーブラック・インク。
参考資料
http://www.osaka-c.ed.jp/karinavi/teacher/mycole/mycole-sakuhin/pdf/14.pdf
万年筆ブルーブラックインクの教材化
★昔、銅を中心として、酸化・還元や酸・塩基など、化学の基本概念を学ぶ1学期分の授業を構築したことがあります。
その時に、銅粉末をバーナーで焼いて、黒い酸化銅(Ⅱ)にして、「酸化」。
酸化銅を硫酸で溶かして、青い硫酸銅を作って「塩」。
硫酸銅にスチールウールを入れて、赤い銅を析出させて「還元」。
生徒実験でいろいろ学べるようにしたのです。
{全部お話するととんでもない事になりますのでやめときます}
私は、銅粉末を加熱・酸化して、できた酸化銅を硫酸で溶かすように実験を組みました。
同じ授業を一緒にやっていた同僚が、うっかり塩酸を使ったのです。そうしたら、妙な具合に白く濁ってしまってうまく溶けなかった。
なぜだ?と相談を受けたのです。
私もその時は知らなかったのですが、分析化学の本を調べたら
金属銅の存在下に酸化銅(Ⅱ)を塩酸に溶解すると塩化銅(Ⅰ)が生成する。
とあったのですね。
銅粉末を焼けば、あんな小さい粉末、中まで酸化されると思っていたのが間違い。
中心部に金属が残っていたのです。
金属の銅が残っているものを塩酸で溶かすと、塩化銅(Ⅰ)になってしまうのでした。
塩化銅(Ⅰ)は白色の個体で、沈澱になります。
「金属の存在下」というのは大きな影響があるものだということを知りました。
質問!硫酸で溶かした時に、硫酸銅(Ⅰ)はできないのですか?
答:硫酸銅(Ⅰ)が単独で存在することはない、ようです。1価の銅イオンと、硫酸イオン、水酸化物イオンなどがごちゃごちゃになったような状況下で、一応、硫酸銅(Ⅰ)のような組成の部分もあるらしいです。でも、硫酸過剰で水酸化物イオンなどが消滅すれば、全部、硫酸銅(Ⅱ)になってしまうようです。
★ある時、鉄と塩酸の反応を生徒にやらせて、実験後に回収して、大型のシャーレに入れて放置したのです。
そうしたら、反応しきらなかった金属の鉄の存在下に、薄緑色の塩化鉄(Ⅱ)の結晶ができてしまった。
こういう、失敗やら、ずぼらからいろいろなことを学んだのでした。
物質というものは面白くも恐ろしいものです。
化学の根底には「もののことはものにきけ」というのがありますね。
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