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2014年3月20日 (木)

グルーミング行動

★現代化学という雑誌を読んでいましたら、実に面白い話に出会いました。
↓こういう記事です。
「接着と剥離」――材料開発のヒントを生物に求めて――  細田奈麻絵(現代化学 2014年1月号 東京化学同人)

強力な接着剤はありますが、接着してしまうと今度は剥がすのが大変。破壊的なことになりがちです。
ですから、古い文化財の修復でも、後の世の修復技術でまた修復できるように、単に強力な接着剤を使えばいいというものではない、というのは常識です。

ハエを思い浮かべてください。
垂直なガラス窓を平気で歩いていたり、天井を逆さまになって歩いている。
脚は面にくっついて、体を支える十分強い接着をしている。しかも、簡単にはがれるので、すたすた歩ける。
ハエが脚を引きはがすのに、よっこいしょ、と努力している姿なんて見たことない。
すぐれた接着性と剥離性ですね。

で、細田さんの研究材料はハムシだったそうですが。

 紅葉した葉はやがて地面に落ちる。「剥離」という現象は自然界でよく見かける現象だ。ハエやヤモリが壁を伝うのも、接着と剥離の繰返しと考えることができる。材料に「剥がす」という視点を入れたとき、自然界にヒントがあると考えた無機材料研究者が、実際に生物学とコラボレーションした様子を紹介。
(前略)
・・・
ハエやハムシ、ヤモリなどの身近な生き物は、壁や天井など自由に歩き回っている。この見慣れた風景の中に、素晴らしい接着のヒントがある。壁や天井などを「歩く」という行為は、足の裏の「接着と剥離」の繰返しなのだ。しかも、彼らは汚れた表面や複雑な形状の表面でも平然と歩いている。
・・・
 ハムシの足の接着性が高いのはガラスのように平らな表面である。ナノスケールの表面凹凸を用意して接着限界を調査すると、表面粗さが大きくなるにしたがい接着性が下がり、100nm程度の表面粗さですべって歩けなくなることを発見した。表面粗さが大きくなると、表面とムシの足の摩擦が下がるのだ。
・・・
 この実験の最中にハムシの奇妙な行動が気になった。特定の試験基板の上でいつも足を擦り始めるのだ。それは、すべってしまう表面の試験基板だった。そこで、すべての条件の試験基板にハムシを置いて、足を擦り始めるかを観察した。統計を取ると、すべりにくい表面ではほとんど足を擦らないのに対し、滑りやすい表面では足を擦る頻度が高くなった。
 この観察をゴルブ博士に話すと彼は目を丸くして驚いていた。この行動はグルーミングとよばれ、足が汚れたときに足の汚れを落とす行為としてよく知られていたのだという。しかし、昆虫がどのように足の汚れを知るのか、行為を始めるトリガーが何かはこれまで知られていなかったのだ。上述の観察は、虫が足の汚れを摩擦の変化で判断していることと、ナノサイズの表面粗さの違いについても違いを判断していることを明らかにした。材料学者の成果が生物学者を驚かせたのだ。・・・
(後略)

やれ打つな蠅が手を摺足をする (小林一茶)

この句の意味は
おっとぉ、脚が滑りやすくなったぞ、きれいにしなくっちゃ。
だったんですね。

カマキリは食後に複眼や触角や鎌の掃除をします。これは汚れ取り。
ミツバチは体についた花粉を集めて団子にするために体を櫛状の毛で漉き取ります。

今度ハエやアブが脚を擦っていたら、滑らないようにね、と声をかけてあげてください。
きっと「ありがと、だいじょうぶだよ」と返事をしてくれるでしょう。

★参考

細田 奈麻絵 氏(物質・材料研究機構 環境・エネルギー材料部門 ハイブリッド材料ユニット インターコネクト・デザイングループ グループリーダー)
バイオミメティクス・市民セミナー「虫・ヤモリ・植物から学ぶ:接合技術」
(2012年6月2日、北海道大学総合博物館・バイオミメティクス研究会共催)から

・・・
 人工的な接着では表面を平坦にしたが、生物の場合は、どうしても表面に凹凸がある。むしろ接触面の分割によって表面積が拡大することで、弱い力でも総体的に結合力が増す。これを「ファンデルワールス力」という。いま、ヤモリやクモのような生き物の足に着目して研究開発をしている。天井や壁を自在に歩ける機能は、付いたり外したりを繰り返す能力ともいえる。現代はさまざまな機器が小型化、軽量化の一途であり、接着部分は非常に細密になっている。そこでサイズ的にも参考になる。
 ニホンヤモリの足を電子顕微鏡で拡大すると、先がピラピラと枝分かれした毛が密生している。毛の素材は「ベーターケラチン」という、蟹の甲羅のような非常に硬い物質だ。ところが毛が傾いていて、先端がピラピラ薄いので、柔軟でしなやか、変形しやすい。つまり先端の精密な構造によって接着面が増え、さらに毛の角度を変えることで、巧みに密着性を制御している。
 ・・・
 ハムシ類は足の裏にある分泌液を介して接着する。8ミリメートルほどの甲虫で、日本ではスカンポという野草にいる。オスだけ足の裏の毛が吸盤風の形で、メスと見分けられる。大事なことは、葉の表面は凸凹しているので、接触する足の毛の方が葉の形状よりも細密であることだ。技術的な興味から、歩く面の粗さが変わるとどうなるか、テストした。
 アルミニウムを真空中で蒸発させて温度を変え、数十から300ナノメートルくらいまで、葉の表面のサンプルをたくさん作った。ハムシの体に、虫自身の力を測ることのできるセンサーを人間の金髪で結んで、引かせた。さまざまな糸で試したが、虫が引ける力は弱くて、金髪だけが軽くて適していた。結果として、表面の凸凹が低ければ虫が引く力は非常に強い。凹凸を100ナノメートルくらいに拡大すると、足の毛がフィットできず滑って歩けなくなってしまった。将来、殺虫剤を使わない虫除けに応用できればと思う。
 餌を食べるために葉の表面を歩くには、足がきれいなことも重要なので、汚れに対する反応も実験で調べた。塵(ちり)の代わりに1-100マイクロメートルくらいの大きさのガラスビーズを用意して、虫の足を汚してみた。ビーズがなくて足がきれいだと吸着力が強く、ビーズが付着していると弱まる。そしてハムシの足には櫛(くし)のような構造があり、足をこすって塵を落とす。すると元のように歩けた。どうして、足が汚れていると気づくのだろう。摩擦が関係すると思って、滑りやすい表面で試した。するとグルーミングの頻度が非常に高い。この実験から、ハムシは摩擦の違いで足の汚れを認識していることが証明できた。・・・

http://sc-smn.jst.go.jp/playprg/index/5642
↑ここに細田さんご自身が語る動画があります。(リンクは切れてないはずですが。)
4分50秒ほどの動画です。
虫が滑ってしまう表面粗さの基盤をシリコーンにうつしとって、そこではテントウムシが滑ってしまうシーンもあります。
テントウムシさんかわいそう。
この技術で、精密機器の中に踏み込む虫の防除ができるという応用もあるそうです。

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