NAS電池
★朝日新聞の1面の小さな広告
日本ガイシ(1/22)
大規模電力貯蔵システム
[NAS電池]
気まぐれな太陽光や風力の発電とコラボレーションして、再生可能エネルギーの安定供給をセラミックスでお手伝い。「電気はためられない」という常識をくつがえした、メガワット級の蓄電池です。
NAS電池という名前は一般的にはポピュラーではないかもしれませんね。
NASって何の頭文字だろう?とか思いませんか?
実は、化学屋的にはこれは「NaS」なのです。
つまり「ナトリウム‐硫黄電池」なのですね。
「NAS」は日本ガイシの登録商標だそうです。
負極では:ナトリウムが電子を出してナトリウムイオンになる。
正極では:外部回路を通って仕事をしてきた電子が入ってきて、硫黄に渡されて硫化物イオンを生じる。
{硫黄の数が不定なので「多硫化ナトリウム」としておきます。}
ナトリウムも硫黄も溶融状態で使用します。運転時の温度は約300℃です。
ところで、電子が外を回ってくれなければ電池としての意味がないですね。
また、溶融した硫黄とナトリウムが直接接触したらその場で電子の受け渡しの反応を起こしてしまいます。爆発的に。
ですから、電池内部で電子が直接ナトリウムから硫黄に渡されてしまわないように「仕切り」が必要です。
電池内部でショートしないように、といってもいいです。
「仕切り」ですからセパレーターといいます。
ところで、マイナスの電気を持った電子が、負極から正極へ移動したら、その分、電池内部ではイオンが移動して、全体の電気的中性を保たなければなりません。
そこで、セパレーターは電池内部のショートを防ぐと共に、イオンの移動を可能にしなければなりません。
電池の外部では電子が電流を運び、電池内部ではイオンが同じ量の電気を運ばなければいけないのです。
NAS電池では、ナトリウムイオンが負極側から正極側へセパレーターを通って移動します。
セパレーターというのは、強度とイオン透過性の両方を持たねばならないという、厳しい条件を課せられた電池の重要な構成部分ですが、高校化学などではほとんど注目されません。変な話だと思って、私の授業ではセパレーターもちゃんと話しました。
さて、きちんとこの電池を記述すると
負極活物質はナトリウム
正極活物質は硫黄
セパレーターはβ-アルミナのセラミックスです
となります。
活物質の直接の接触を断ちながらイオンの移動を許す、という条件を満たすのがβ-アルミナというセラミックスなのですが、高校までの化学では固体でありながらイオンを透過させるという物質は学びませんので、戸惑うかもしれません。そういう物質もあるのだという結果を受け入れてください。
「日本ガイシ」が登場する必然性は、このセラミックス技術があったからなのです。
ガイシは碍子
がい‐し【碍子】(insulator)電線を絶縁し支持するために鉄塔や電柱などに取り付ける器具。一般に陶磁器またはプラスチック製の絶縁体と鋳鉄製の金具より成る。{広辞苑第六版より引用}
もともと「焼き物」=セラミックスの技術を持つ企業なんですね。
で、NAS電池のセパレーターは、「β‐アルミナ」といって、固体でありながらナトリウムイオンが透過できるセラミックスなのです。
●というわけで、日本ガイシとNAS電池のつながりがわかりました。
★NAS電池は大電力の貯蔵ができるのですが、活物質がナトリウムと硫黄。どちらも常温では固体ですね。
100℃を少し超えれば両方とも液体になるのですが、実用的にはほぼ300℃を維持して使用します。
そのため個人家庭などではちょっと設置は難しい。
大口需要家向けです。
ナトリウムを使っているというのも、厄介です。
もし洩れたら大事故になります。
水はかけられません、爆発が大きくなるだけ。
そのあたりの厄介さが普及を遅くしているのかもしれません。
http://yamada-kuebiko.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/post-1a66.html
2011年10月28日 (金)「NAS電池」
↑この記事でNAS電池の事故の話を扱いました。
「消火に水が使えず砂で埋めたため、鎮火には約2週間かかった。」ということです。
もし事故を起こしてしまったら、非常に厄介なことになるということがわかります。
参考:日本ガイシのNAS電池のページです
http://www.ngk.co.jp/product/nas/about/
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