★朝日新聞夕刊にJAXAの的川さんが「宇宙がっこう」という記事を連載しています。
その2月15日は「無重力生活で老化早まる?」というお話。
記事の内容そのものは、今ここで何かコメントしたいということではないのですが。
掲載されている写真がね。キャプションは
「ISSで体重測定する若田光一さん」
というものでして、若田さんが手で何かにつかまり、足は何かに引っかけているのです。で、こちらをにこやかな笑顔を向けているのですが・・・。
この写真を見て、どうやって体重が測定できるのか、即座にわかる方は少ないだろうなぁ、と老婆(爺)心。
ぜひその写真を見ていただきたいのです。
http://digital.asahi.com/articles/ASG2D3K69G2DUZVL008.html?iref=comtop_list_sci_f01
↑ここで写真は誰でも見られます。記事は会員でないと、後半部が読めませんが、悪しからず。
さて、いかがですか?
普通の体重計じゃないようですよね。
何をやっているんでしょ。
そもそも、ISS内では「無重量状態」ですから、「通常の意味での体重」はない。
「通常の意味での体重」というのは、地表面で私たちが経験している地球の重力です。
地球が私たちを引っ張る力が通常の意味の体重です。
その力でバネを押し縮めて、どのくらい縮んだかで力の大きさがわかり、体重が測定できるのですね。
「kg重」で測る体重です。
ところがISSの中では「力」としての「体重」がありません。
なんせ「無重量」なのですから。
{無重力ではないです。地球の重力は確実にISSやその乗員を引いています。}
でも、体の「質量」は存在します。これは「無」にはなりません。
「kg」で測る質量は消えないのですね。
では、質量を測るにはどうしたらいいか。
小中高の理科教育では、バネ秤は「重量」を測るもの、天秤は「質量」を測るもの、と学んだはずです。
それなら、天秤で質量としての体重を測ればいい。
確かにね。
地球上でなら、天秤の両方の皿にかかる重力の比を取れば、重力の部分が消えて、質量だけが残りますので、天秤で質量が測れます。
ISS内で人間が乗れるような天秤を作って、人工重力を発生させれば、天秤方式で体重が測れます。
どうもやたらと大掛かりな装置になりそうだ。
写真で見る限り、そういう装置ではないらしい。
★高校物理で、振り子の周期というのを学んだと思うのですが。
単振り子の周期Tは振り子の長さの平方根に比例するというやつです。
ここには質量は登場しません。そりゃそうだ、振り子の等時性は、「おもりの質量にかかわりなく」なんですものね。
最近の物理でどう扱っているか、詳しくなくなってしまったのですが、私が教えたころには「バネ振り子」も扱って、その周期の測定実験などしながら、式を作ったものです。
ここで、①が単振り子の周期と長さの関係式ですね。
②がバネ振り子の周期の式です。
ここで、mはおもりの質量。kはバネの強さを表わす「バネ定数」です。「単位の長さ引き伸ばすのに必要な力」という形であらわされます。[N/m]という単位のある量です。
この②式を変形して、質量mを表わす式に変形したのが③です。
強さkの分かっているバネに、おもりをつけて振動させ、その周期を測れば、質量mがわかるのですね。
まさしく、若田さんがやっている体重測定はこの方式なのです。
バネを振動させる装置に、若田さんは、両手でしっかりつかまり、体全体が一つの物体としてまとまるように足を引っかけて、装置にしがみついているわけです。
で、バネを振動させて、周期を測定し、若田さんの体重(質量)がわかるという仕組みなのですね。
この話、JAXAのサイトにもあります↓が、それをもうひと噛み「砕いて」みました。
http://iss.jaxa.jp/iss_faq/go_space/step_2.html#q13
Q13 宇宙でも質量を測りたい。どうしたらよいのだろうか?
A13 バネによる振動を利用する。
・・・
「質量」の性質として、「加速されにくさ」がある。この性質を利用して、一端を固定したバネにつないで振動させ、振動周期を測れば質量を測ることができる。質量が大きいほど、周期は長くなるのだ。
宇宙飛行士の健康管理の上で、「体重」の測定は重要だ。実際、この方法がとられている。
宇宙飛行士は、台に体を固定し、振動させて「体重」を計る
・・・
物体の質量は、上記の式で求められる。
ばね定数は、それぞれのばねで決まっているため、軌道上で振動の周期を測定すれば、物体の質量が計算できる。
そのほかに考えられるのは、力を加えて、加速の具合を測ることだ。「ばねはかり」につないで引っ張り、生じた加速度と目盛りの関係から求めることができる。ひもにつないで回転させ、ひもに生じる力を測ってもいい。
「上記の式」というのが天下りに与えられるのが私のような人間には気分が悪い。
バネ振り子からちゃんとやりたくなるわけですね。
★「そのほか」の初めは「F=ma」で、Fとaからmが求まるという話。
もうひとつの「ひもにつないで回転させ、ひもに生じる力を測ってもいい」というのは等速円運動の向心力の式を見ればわかります。
F = mrω^2
rは回転の半径、ωは回転の角速度です。
r,ω,Fを測定すればmが求まりますね。
★おまけ。
単振り子の式で、g=9.8としますと
√g=3.1304・・・
で
π=3.1415・・・
ですから、有効数字2桁で
√g≒π
としていいんですね。
そうすると式のπと√gがキャンセルして
T≒2√L
になります。
Lが1mなら、周期は2秒、片道1秒ですね。
この長さ1mの単振り子を「秒振り子」と呼ぶことがあります。
正確に計算してT=2.0071秒くらいですから、実に正確な時計になるのです。
長さが4mで周期2秒など、見積もりとして十分に正確です。
利用してください。
★オマケのオマケ
g=9.8≒10
「ああ、10の平方根は3.16くらい、πとキャンセルするね」という感覚というか数覚。
計算尺世代には、普通だと思います。
説明しませんが「π切断」「√10 切断」というのがありましたっけね。