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2013年12月12日 (木)

理科実験

★NHKのニュースサイトで見つけたニュース。

小学校の理科実験で児童6人軽い中毒 横浜(12月5日 22時15分)
5日、横浜市の小学校で塩酸を使った理科の実験中に児童6人が体調不良を訴え、病院で治療を受けました。
いずれも塩酸による軽い中毒とみられ、現在は全員回復しているということです。
5日午後、横浜市の小学校で、6年生の理科の時間に金属繊維を塩酸で溶かして反応を観察する実験を行っていたところ、複数の児童が「気分が悪い」などと訴えました。
担当していた40代の女性教諭が児童を教室から出すなどしましたが、このうち男子5人と女子1人の合わせて6人の児童が体調不良を訴え、学校近くの病院で治療を受けました。
横浜市教育委員会によりますと、いずれも塩酸による軽い中毒とみられ、現在は全員回復し自宅に戻っているということです。
教育委員会によりますと、授業の終了時刻が近づいていたため、実験を早く進めようと通常よりも濃度の濃い塩酸を使用したのが原因とみられるということで、学校は児童の保護者に電話で謝罪しました。
小学校の校長は「安全な実験の指導が徹底できずに大変申し訳ない。職員の研修を徹底し、このようなことが2度と起きないようにしたい」とコメントしています。

金属繊維を塩酸で溶かして反応を観察する実験」とありますが、これ、スチールウールと塩酸の反応で水素が出るという反応ですね。
塩酸との反応でスチールウールを用いることは不適切である、というのは、古典的な化学教師としては当たり前のことなんですけどね。
小学校ですから、身近な素材で、という配慮なのでしょうが、それは考え物なのです。

とにかく塩酸は怖い、危険な物質だ、その塩酸を使った実験で気分が悪くなる子が出たのだから、「塩酸のせい」に違いない、という、思い込みだけの騒動ですね。
塩酸の中毒なんて、およそ経験したことはないのですけどね。化学教師を長くやってて、自分も生徒も。
その実験に使った塩酸に亜鉛の粒か顆粒を入れて反応させてみてください。匂わないはずですよ。
そうか、塩酸のせいではなかったのか。ということは原因はスチールウールにあるのだな、と思考を進めるのが理科的・科学的な態度というものでしょう。
まったく非科学的な対応なんだからあきれます。

★スチールウールは塩酸と反応します。水素も出ます。
でもねぇ、必ず臭いガスも一緒に出るんです!っ!!
スチールウールは家庭用品ですから安い方がいい、研磨材としての性能さえ十分にあれば鉄の純度は低くていい、高純度鉄を使って値段の高い商品を作る必要はない。のです。

純度が低い鉄は、硫黄やリンなどの不純物を含んでいます。
それが発生する水素と反応して水素化物が気体として水素と一緒に出るのです。
硫黄の水素化物は「硫化水素」。悪臭の有毒ガスとして有名。卵が腐ったにおいと表現されますね(腐卵臭)。
リンの水素化物は「リン化水素(ホスフィン)」悪臭の有毒ガス。魚の腐ったにおいと表現されます(腐魚臭)。

試験管の中でスチールウールと塩酸を反応させる、実験班が10班あっても、これらのガスで中毒して倒れるというほどの濃度にはなりません。ですが、鼻は敏感です。その程度の濃度でも十分「くさい」のです。

教師が予め、この実験臭いよ、と知らせておけば児童・生徒はかなり大丈夫。
予備知識なしでこの匂いを嗅ぐと、経験したことのない臭気に接して「異臭騒ぎ」になるのは、現在の生活状況では必定(ひつじょう)
誰か一人が「気持ち悪い」と訴えれば、どんどんその気持ちが伝染して広がります。

教師がね、最初にやって見せて、「くっさぁ、たまらん」とかいって鼻をひんまげて見せてからやってください、まず大丈夫だから。
ほんとだ、くっせぇ、といって騒ぐくらいですね。

導き方があるんですよ、こういう実験には。
私等のようなある種「化学物質ベテラン」はそれを知ってます。
今の若い小学校の先生は知らないだろうなぁ。

ですから「複数の児童が「気分が悪い」などと訴えました」
って、元高校化学教師としては「あたりまえでしょ」といいたい。
経験したことのない「異臭」がしたら、気持ち悪がるのは今の子なら当たり前ですよ。

児童・生徒に実験やらせるときには、同じ実験を必ず予め先生はやってみなければなりません。
どの程度にくさいか、自分で知っていなきゃ。
あるいは、用いる素材で臭さのレベルが変わるかもしれない。ですから、毎年やる実験でも、必ず教師は予備実験をしてから児童・生徒にやらせなければなりません。全く同じ素材が毎回納入されているとは限りませんしね。
元プロの化学教師として、これは実践してほしい事柄です。
まず自分でやってみる。
どんなに慣れた実験でも、毎回、必ず自分でやってみる。

わたしは実践したつもりです。化学教師なんだもん。

「塩酸による軽い中毒」なんて大間違い。
濃塩酸の瓶を開ければ、溶けきれない塩化水素が気体として瓶の口から出てきて、空気中の水蒸気を集めて液化させて「塩酸の霧」ができます。見ていて白い霧がたつのが見えます。その霧を吸い込めば、鼻がつ~ん、が~んとしますが、中毒なんてしません。
これたまんねぇな、とか言いながら、窓開けてくれ、ドラフトに入れるからドラフトあけてくれ、といえば、生徒は笑いながらやってくれます。俺たちゃ一回限りだけど、先生は毎年だもんな、とか同情してくれたり。
濃塩酸なんて、市井で大騒ぎするほどには扱いにくい物質ではないのです。
ものの性質はものに聞け
思い込みで騒がない。
ものの性質をよく知って、毒性や危険性をコントロールしましょう。

★ちょっと検索してみたら

今日、学校で塩酸にアルミニウムと、スチールウールを溶かす実験をしました。アルミニウムは臭いはなかったのですが、スチールウールを実験のためと言って、代表で10回程度時間をおいて匂いました。最初は、バキュームカーの匂いだったけど、後から、ゴムの腐ったにおいがしました。あれから4時間以上経っていますが、家に帰ってからもその匂いが鼻にしみついて、鼻がきかず、くさいです。どうにかなりませんか?

こんな質問に

塩酸の霧をすいこんだでしょう。

それは多分、塩酸の蒸気で鼻の粘膜がやられてますね。

こんな回答ばっかり。基本的に間違い回答。
塩酸の方にばかり気を取られている。塩酸は危険だ、危険だ、とそっちにばかり気を取られて、スチールウールに気づいてない。

臭いがしたんですか??
本当に塩酸とスチールウール(鉄)?
スチールウールの保存状況がよくなかったのでは・・・

スチールウールの保存状況が悪いとどうなるのですか?
錆びたら水素が出なくなるだけですよ。
スチールウールが腐って腐敗臭がするとでも?
あきれてしまいました。

★小学校で私が理科支援員をしたときに書いた記事↓
http://yamada-kuebiko.cocolog-nifty.com/blog/2009/12/post-a94c.html
2009年12月21日 (月)「おまけ」

 元教師として個人的にはスチールウールを使うのは好ましくないと思っています。「身近」ということなのでしょうが、純度の低い鉄ですので、塩酸と反応させるとひどい悪臭がします。不純物のせいです。鉄と塩酸の反応は臭い、と覚えられるのは困りもの。純度の高い鉄でやりたいものです。

鉄が酸と反応して水素が発生することを実験したければ、ちゃんと試薬1級くらいの鉄粉を購入して、それで実験してください。匂いなんてしませんから。塩酸が多少濃くったって、鼻がつんつんするだけです。

★おまけ:鉄くぎもやめておいた方がいいですよ、純度の低いものも多くありますから。

理科の実験に身近なものを使うのは、実は考え物なのです。
不純物の影響などを知ったうえでコントロールするという余分な労力がかかる。
「ホントはね」といって、うまくいけばこうなるはずなんだよ、と非科学的な言い訳をする羽目に陥ります。
ちゃんと純度が保証できるものを使いましょう。
そうして、本質的な部分だけをうまく取り出して経験させてあげましょうよ。
不純物のせいで本質を見失ってしまっては理科として本末転倒でしょ。

幼い人にこそ本物を!

化学に限らずあらゆる分野に通用することだと思いますが。

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コメント

勉強になりました。無記名でごめんなさい

お読みいただいてありがとうございます。化学には「手を動かす職人技」的な部分がかなりありますので、そういう技を継承できたらよいのですが。理科が苦手だった先生方も多いので、きちんと組織的に技術伝承を図れたらいいですね。

まったくおっしゃる通りです。
理科支援員をしておりまして、今日スチールウールを塩酸に溶かす実験をして、非常にくさかったのでなんとかならないかと思って検索した次第です。
安物の鉄には硫黄が含まれるので、子どもたちに何でくさいのか聞かれたので、温泉卵の匂いと同じ硫黄の匂いだと答えておきました。正確には硫化水素ですね。
教科書通りにスチールウールを使いましたが、以前にやったときはこれほどくさくなかった気がします。百均の○イソーで買ったのでそのせいかなと思った次第です。メーカーによってはもう少しましなのではないかなと。それとも原料はどこも似たりよったりでしょうか。身近なものを使うという意味もあるかと思いますが、

勉強で学ぶものは、自分の実生活とは関係ない、と思う子が多いので、身近なものを使うことは大事だと思います。ただ、「本当はね、こうなるはずだったんだよ」というような実験はやってはいけない。身近なものと、高純度品の違いを、うまく危険のないように実感させられれば一番いいのですけれど。教師の演技力というか、組み合わせ、組み立てでなんとか良い方向へ導いてあげてください。子どもたちが元気に目を輝かせていれば、大人はなんとか気力を維持できます。

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