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2013年10月23日 (水)

藤原の効果

★朝日新聞の記事から

二つの台風「藤原の効果」も 相互作用で動き複雑に?(2013年10月23日01時08分)
 非常に強い台風27号は22日、沖縄の南東海上を北西に進んだ。週末には西日本や東日本に近づく見込みで、伊豆諸島でも注意が必要だ。強い台風28号も南鳥島の近くを西寄りに進行。二つの台風が1千キロ程度以内に接近した場合、相互作用で動きが複雑になる「藤原の効果」で予報が難しくなることもあるという。
(後略)

読売新聞では

「藤原の効果」…台風27・28号の動向複雑に(2013年10月22日11時43分)
 台風27号の進路は予想が難しくなっている。もともとスピードが遅く、数日後の位置を予測しにくかった。さらに、27号を追いかけるように進む28号と接近すると、二つの台風が相互作用する「藤原の効果」により、動きが複雑になると見込まれ、予報のブレが大きくなる恐れがある。
(中略)
 日本気象協会は「27号はもともと予測が難しい台風だった。それに加えて、今後は藤原の効果があるため、さらに動きが複雑になるだろう」と話している。
 ◇藤原の効果 
 二つの台風の距離が約1000キロ・メートル以内に近づくと、互いに影響して台風が複雑な動きをすること。中間点を中心に、二つの台風が反時計回りに互いを追いかけるように回転したり、小さい台風が大きな台風に吸収されたりする。戦前に中央気象台(現・気象庁)台長の藤原咲平氏が提唱した。

さらにNHKラジオの気象予報士・伊藤さんのブログでも

http://blog.nikkeibp.co.jp/wol/ito_miyuki/2013/10/post-1249.html
「早起き☆お天気☆ONAIR日記」2013年10月22日 08:55
(前略)
きのうから、「台風が合体しないの??」と何度も聞かれて、「近づくと"藤原の効果"で複雑な動きをすることがあるんです」と"藤原の効果"をキーワードに話してたら、今朝、大久保ちゃんから「朝ご飯のときにその話をして"藤原の効果"が頭に残ってたら、夕方のYahoo!の検索ワードの上位に入ってた」と教えてもらいました。
台風がある程度の距離に近づくと、複雑な動き(片方が待ったり、離れていく動きをしたり...)をすることがあるので、最新の予報をご覧ください。
(後略)

近年、あまりこの「藤原の効果」という言葉を聞かずにいました。
65年も生きてますと、何度か聞いていますよ。
さらに、これからお話しするつもりの事情で、私は小学生の頃にこの藤原の効果の原理を「理解」してしまっていました。
伊藤さんという気象予報士さんは、データはもちろん気象庁発表のものを使うのですが、気象現象への理解が深く「自分の言葉で」解説して下さいますので、好感をもっています。
なんだかなぁ、雲の名前も知らないの?というような、初歩的なレベルどまりの予報士の方も多く見受けますので。
★さて、ウィキペディアから引用します。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%97%A4%E5%8E%9F%E3%81%AE%E5%8A%B9%E6%9E%9C

藤原の効果
藤原の効果(ふじわらのこうか、英:Fujiwhara Effect)または藤原効果とは、2つの熱帯低気圧が接近した場合、それらが干渉して通常とは異なる進路をとる現象のことである。1921年に当時の中央気象台所長だった藤原咲平が、このような相互作用の存在を提唱したためこの名がある。
(中略)
2つの熱帯低気圧が接近すると、それぞれがもう片方の熱帯低気圧の周りを反時計回りに接近しながら移動していくことになる。これにさらに、亜熱帯高気圧や気圧の谷の風に吹き流される運動が足し合わされるため、熱帯低気圧ごとにかなり異なった動きが見られる。藤原の効果が見られるようになる熱帯低気圧間の距離はその熱帯低気圧の大きさや強さにより異なるが、だいたい1000km以内とされている。
(後略)

解説としてはこれで上々ですね。「後略」の部分に効果のいろいろな現れ方など書かれていますので、興味がおありでしたらお読み下さい。

★さて、私がなぜ小学生の頃に知っていたかというと。
岩波の科学映画のおかげなのです。
記憶はあやふやですが、確か日曜日の6時台の15分間、放送されていました。
「光子の窓」とか「シャボン玉ホリデー」とかも、日曜の6時台だったのではないかな。
この岩波の科学映画で見たことが、私の理系人間としての最も深いところでの基盤になっています。そして、その当時に直感的に理解したことが、後に理論的に分かるようになったりする経験をしていますので、「わからないままにのみこんでしまう」ということも、とても大事なことなんだ、と思っています。理解が後からついてくるということはよくあることです。
常に何でもかんでもそのとき「わかる」ことが大事だ、とは必ずしも思っていません。

★岩波科学映画で見たことを思い出しながら解説します。
Fujiwara1 図1
上の図1をご覧ください。
水槽に水が入っていて、中央に取り外しのできる仕切り板が立っています。そして、マグネティック・スターラーかなにかを回転させて、まるで「竜巻のような」渦を作ることができます。
ここまでのことを先ず、図から見てください。
{水槽の上下に点線で描いた円は、後で話に利用します}

図1では、渦の回転の向きが「逆」に描いてあります。
この状態で仕切りを抜き去るとどうなるでしょう?
2本の渦は、互いに干渉することなく、安定して存在し続けます。
では、同じ向きの回転をする渦を2本作って、間の仕切りを取り除くとどうなるでしょう?
渦同士が絡みあってしまって、自立した渦として存在できなくなり壊れてしまうのです。

どうして?

Fujiwara2 図2
上から渦を見た図のつもりです。
左の渦は反時計回り、右の渦は時計回りで、逆向きに回っています。
二つの渦の間の流れを見てください。同じ向きの流れですね。
ですから、特に相手の渦との間に干渉は生じません。
Fujiwara3 図3
反時計回りの渦を二つ並べてみました。
二つの渦の間の流れが逆ですね。
ということは、流れがここで衝突して、激しいことになるわけです。
一方が圧倒的に強ければ、弱い方を押し流してしまうかもしれません。
同程度の強さの渦なら?渦の方が反作用を受けて、相互に反時計回りに相手の周りをまわることになるでしょう。
それが「藤原の効果」の原理なのです。
水の渦で話してきましたが、空気の渦でも同じこと。「渦」というところに焦点を絞ると、同じ議論ができるのです。

図2と図3には、LとH、と書きこんでありますが、これはLが低気圧、Hが高気圧のつもりです。

高気圧と低気圧は共存できます。高気圧から吹き出す風を、低気圧が吸い込む。流れに乱れは生じません。天気図上で高気圧と低気圧が並んでいても相互の干渉はないのです。
熱帯低気圧のようなコンパクトな同じ向きの渦が二つ並ぶと、相互に干渉してしまいます。
一方が圧倒的に強ければ、相手を振り回したり、吸収してしまったり。
同程度の強さなら、相互の回転を生じたり。
それが藤原の効果なのです。
でも、偏西風やら周囲の高気圧の配置やら、その時に応じて状況が違いますので一概に「こうなる」とは決めつけられません。

今回の台風27号、28号の間で、相互の干渉が生じるかもしれない、というのが「27号はもともと予測が難しい台風だった。それに加えて、今後は藤原の効果があるため、さらに動きが複雑になるだろう」ということの意味です。
災害が絡むかもしれませんので、私ごときには決めつけ的なことは一切言えません。
ただ、「複雑な動き」をする可能性があるということ、その裏にこういう理屈があるということを知っていただければと思います。

★さて、最初の図の中で、「上下に点線で描いた円」がありましたが、これはなんでしょう?
渦という言葉は普通水面の渦巻きを意味しますが、実は水中にも渦の管が伸びていて、その水面での断面がが普通にいう渦なのですね。
そこで、この渦の全体を「渦管」ということにします。細長い渦の管です。
図1は、水の中の2本の渦管、ですが、空気中の2本の渦管と考えてみてください。
その渦管を延長して隣の渦管とつなぐとどうなるか?(点線に沿って)
図の場合のように渦管の回転の向きが逆である場合、延長してつないでも、回転の向きが一致します。
上側でも、下側でも。

うまく描画できませんでしたので、読者のみなさんの想像力で補って下さい。
つながるでしょ。
そうすると、環状に閉じた渦管というものが生まれます。

★イルカが水中でバブルリングというものを吹くのを見られますね。
これは水中での環状に閉じた渦管なのです。
最初はイルカたちが自分たちで発見した遊びだったらしいのです。
で、イルカの知能は高いので、誰かがバブルリングを発見して遊んでいたら、それを見た別のイルカが、あれ面白そうだ、とまねをしたというのですね。
これは高度な知能です。
猫などは個々にいろんな技能を持っていても、「まねる」ということがほとんどなくて、仲間に伝わるということは少ない。

◎人間にもバブルリングを作れますよ。
わたしも、出来ます。
息を適度に肺にためて、プールの底に仰向けに沈み、口を「あ」の発音より少し絞ったくらいに開いて、肺から息を「ほう」と吐くと、リングになって水面に浮かんで行きます。2,3個連続して作れます。
イルカさんの友達になった気分で嬉しいですよ。
ただし、水中で体や呼吸が自由にコントロールできるレベルの人に限定です。
下手すると、肺に水を吸い込みますからね、命がけになってしまう。

★理科の実験ショーとかいうので、「煙の大砲」というようなのをよくやりますね。
穴を開けた箱に煙を入れておいて、側面を叩くと、穴から煙の輪が飛び出すというもの。
これは、バブルリングと同じものです。
空気中の閉じた渦管を煙で可視化したものです。

▼やっちゃいけない実験:昔喫煙者だった時代。煙草の箱のセロファン包装を少し引き出して箱状にします。煙草の火でセロファンに穴を開け、煙草の煙を口から穴の中に吹き込みます。
そうして煙草の箱を指先でとんとん、と叩くと、直径が1cm足らずのミニ・リングが飛び出してきます。大学生の頃喫茶店でよくやった遊びです。

単に、煙の輪が飛び出して面白い、というだけでなく、環状に閉じた渦管という概念に少しでも接近できるように指導できるのが本当の理科教師でしょうね。
ショーをやって、わぁスゴイ、で終わるのなら、理科教育とはいいかねます。
実験さえやれば理科好きになるとは限らないのです。

★ところで、ちとややこしい話ではあるのですが。
粘性のない「完全流体」というものを考えます。
粘りがないので、何か物を入れてかきまわしても渦はできません。
もし、何らかの方法で渦が作られて「ある」としたら、粘性による運動の減衰がないので、その渦は消滅しません。
完全流体の中で、渦は「不生不滅」なのです。
これって、初期の原子論の原子の性質と表現が似ていませんか?
原子は不生不滅。

でね、空間はエーテルという完全流体で満たされている、光はエーテルの振動だ、という概念があった頃。
そのエーテルという完全流体の中の渦こそが原子の正体だ、と考えられたことが、短期間ですが歴史の中にあるんですよ。不生不滅ですものね。
マイケルソン・モーリーの実験でエーテルの存在が否定された、というようなところへ話はつながっていくわけですね。

余分な話でした。渦を巡っては非常に面白い話がいっぱいあるのです。
藤原の効果からいろいろ思考が飛びまわりました。
適当につまみ食いしてお楽しみください。

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