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2013年6月25日 (火)

シクロペンタジエン

★先日NHKのニュースで「シクロペンタジエン」という物質の名前が聞こえてきました。
で、NHKのサイトから内容を読んでみました。

茨城 化学工場で爆発3棟全焼(NHK 06月17日 07時04分)
 16日夜、茨城県の化学工場で敷地内にある倉庫が爆発してあわせて3棟が全焼しました。
けが人はいませんでした。
 ・・・
 これまでの警察の調べで、爆発があった倉庫には、シクロペンタジエンと呼ばれる、温度が上がると引火しやすい化学物質が保管されていて、通常は氷点下の状態で管理されていたということです。
 ・・・

おそらく、普通の方はシクロペンタジエンなんて、まるっきり御存知ないと思います。
Cyclopentadiene
構造式はこんなもの。
「シクロ」は「輪になった化合物」という意味。
「ペンタ」は炭素原子5個。
「ジ」は「2つの」
「エン」は「二重結合」
あわせて「炭素原子5個が輪になり、二重結合が2つある化合物」という意味になります。
図を見ていただくと、そうなっていますでしょ。

ところで、「かかし」爺さんが化学科の学生だった頃(大昔、40年以上も前)。
卒論の研究テーマが「ビシクロ[3.1.0]ヘキサンの反応」だったんですね。
なんだ?でしょ。
Bicyclo310hexane
こういう化合物なのですが、卒論期間では「反応」までたどりつけず「合成」で終わってしまいました。
この化合物を合成するときの出発物質がナント!シクロペンタジエンなのでした。
正直「くさい」液体です。
室温では分子が二つくっついてしまってジシクロペンタジエンという「二量体」という状態になっていますので、蒸留してシクロペンタジエンの単量体にします。二量体の沸点が170℃くらい、蒸留して出てきた単量体をドライアイス・エタノール(約マイナス70℃)で冷却して単量体として保存します。
温度差が240℃もあるんですよ。ちょっと危なっかしい蒸留でしたね。これが私の日常だったのです。

ニュースでは「通常は氷点下の状態で管理」となっていますが、どの程度のレベルだったのかな。
冷凍庫レベルなら-20とか-30℃のレベル。
ドライアイス・エタノールなら-70℃のレベル。
液体窒素なら-200℃くらいのレベル。
さて、どのくらいのレベルだったのか。

確かに「温度が上がると引火しやすい化学物質」ではありますが、引火性の点で低温管理していたというよりは、おそらく製品原料として、二量化しないように、単量体で保存するための低温だったろうと思います。
そんなところを知っている記者さんは、まずいないでしょうね。
私の方がちょっと変わった経歴を持っているせいで知っていたわけです。

★ビシクロ[3.1.0]ヘキサンの図で、Aの炭素原子の位置によって、Bの炭素原子との距離が変わります。
そのことが、化学反応にどういう影響を及ぼすかというのが、本来のテーマでしたが、合成が厄介でしてね、卒業までに、ガラスアンプル1本の高純度サンプルを作るのが精一杯だったというわけです。

★この卒研で、朝早くから夜中まで実験漬け。
大学生という若さでしたが、体力的にきつかったです。で、化学の大学院への進学はやめたんですね。で、すぐ教師になろうかとも思ったのですが。
化学科を出て化学教師になる。なんだか、ストレートすぎて面白味がないじゃないですか。教師としての「厚み」に欠ける。で、寄り道をすることにして。
科学史・科学哲学という大学院へ行ったのですが、今度は毎日「古本(文献)漬け」。
これは私にはちょいと向かなかった。
で、やっぱり、もうちょっと「生きのいい」教職が私向きでした。
でもまぁ、その教職も50代までしか続かなかったということでして。
教師も「立ち仕事」なんですね。結構辛かった。
かかし爺さんはもう、体力がありません。

★ビシクロ[3.1.0]ヘキサンのAの炭素原子をシクロペンタジエンの5角形の輪にくっつける反応なのですが。
つくりたてほやほやの銅原子を触媒に使いました。
酢酸銅に亜鉛の微粉末を入れて、「イオン化傾向」を利用して、亜鉛微粉末の表面に銅原子を析出させてすぐに触媒として使いました。
この時、うっかり、酢酸銅の溶液にオープンな容器のまま亜鉛粉末を放りこんで、ひどい目にあった。
強烈な酢酸臭が鼻を直撃、ガーン。以後、実験はちゃんとクローズドにしてやることにしましたが、この経験は後で役に立ちました。
高校化学教師として、イオン化傾向は当然扱います。
通常、金属の析出しか見ませんが、私には卒研の経験がある。
試験管に、硫酸銅の濃い溶液を入れて、亜鉛粉末とか、スチールウールを入れると、赤い銅が析出するのは普通として、沸騰するくらいの激しい発熱をするのです。
イオン化傾向の反応の際に、エネルギーが放出されるんだね。普通は熱として。
このエネルギーを「電気」として取り出すことはできないだろうか?
というのが、電池の導入。
概念の進め方が、実に素直になります。

銅と亜鉛で、ダニエル電池。ですね。
水素が燃えると熱が出る→燃焼・爆発
そのエネルギーを熱にしないで電気エネルギーにするのが燃料電池。

というわけで、化学科学生のやらかした「偶然」が、高校化学教師の教材になったのでした。
どこで何に出会うかなんて、全く分かりません。人に可能なことはその偶然をきちんと受け止めることだけです。

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コメント

シンクロペンタジエン45度で保管する時の比熱はどの位になるのかな?

コメントありがとうございます。シクロペンタジエンの比熱については私は全く知見がありません。他の物性なら「シクロペンタジエンの物性」で検索すると出てくるのですが。申し訳ありません。では。

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