夏と紫外線
★先日のNHK
これでなっとく「効果的な紫外線の防ぎ方は」(5月16日放送)
最近、気温がぐんぐん上がって、日ざしも強くなってきました。
そうなると、気になるのが紫外線です。
一般的に、夏に最も強くなるとされる紫外線ですが、紫外線の種類によってはそうともいえないんです。
このグラフは、1か月あたりの「UV-A」と呼ばれる紫外線の平均値を表したものです。
5月が最も多くなっています。
この「UV-A」は、皮膚の深いところまで入って、シワやタルミなどの原因になるといわれています。・・・
どうもね、紫外線と暑さが関係しているように感じているのではないかと気になりまして。
「夏に最も強くなるとされる紫外線」といった時、夏というのは7,8月のことでしょうね、多分。
夏は暑い。夏は紫外線が強いと聞く。だから「暑さ」と「紫外線の強さ」は関係している。
と考えてないかなぁ。
★ちょっと違うんですよね。
東京でのデータですが
日の出 日の入り 南中高度(約)
立夏(5/5 ) 4:45 → 18:31 71度
夏至(6/21) 4:25 → 19:00 78度
立秋(8/7 ) 4:53 → 18:40 71度
太陽の南中高度にせよ、昼の時間にせよ、この期間そんなに大きな変化はない。
この日照量で照らされて、少し遅れて気温が上がる。
一方、紫外線は太陽光線の一部ですから、この期間、紫外線の照射量もそう大きな変化があるはずもない。
ですから、
●結論:紫外線量は太陽の高さ、日射量によるのであって、気温と相関しているわけではないのです。
★もうちょっとだけ分析的に。
「太陽定数」という考え方があります。
昔、高校で地学を学んだ時の記憶を引っ張り出して来て、考えを進めています。
↓ウィキペディア
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E9%99%BD%E5%AE%9A%E6%95%B0
太陽定数
太陽定数は地球大気表面の単位面積に垂直に入射する太陽のエネルギー量で約1366W/(m^2)である。
この値はわずかに変動しますので、物理などで「定数」という時の意味とはちょっと違いがあります。上のサイトに変動を示すグラフがあります。
物理の定数は「定まって」いなければなりません。
でも、地球が太陽から受け取るエネルギーの基本量ですから「定数」といっても差支えはないでしょう。
山賀先生という、私などと同世代の地学の先生のHPから↓
http://www.s-yamaga.jp/nanimono/taikitoumi/taikitotaiyoenergy.htm
大気圏外で太陽に垂直な1m^2の面が、1秒間に受け取るエネルギーは1.37×10^3 J・m^(-2)・s^(-1)で、これを太陽定数という。
私はこの表記の方が好きですね。
1平方メートルあたり、1秒あたり、に受け取る「エネルギー量」です。
「エネルギー(J)/秒(s)」は「W(ワット)」なので、ウィキペディアの方はワットで表記しています。
物理的には全く同じことですので戸惑わないでください。
★さて大雑把な話をしましょう。
この図で、下の実線は「地表面」、上の点線は「大気圏の上限」としましょう。スケールは全くデタラメです。概念図です、これは。
太陽光線は斜めに宇宙空間から地表に入射しています。その角度はθとします。
空気中を通過するうちに減光するでしょうが、太陽光が大気中を通過する長さ=L/sinθ となりますね。
また、断面積が1平方m(1m×1m)の光束が斜めに地表に当たると、横幅は同じで、縦の長さが(1/sinθ)に伸びますので、地表面での受光面積Sは1平方m×(1/sinθ)となり、「1」を表記しないものですから、受光面積S=1/sinθ と表記してあります。sinθが「量」を持つのではありません。面積に拡大の「係数」をかけるという意味です。
どちらも、1より小さいsinθの逆数になっていますので、1より大きくなる、ということを頭の隅っこに入れておいて下さい。
★ここからはこのθについて考えます。
以前にも「(南中時の)太陽高度」の図をお目にかけたことがあります。
この図には時間経過が入っていませんので、横軸に時間をとってグラフ化しました。
横軸の0…8は
0:立冬
1:冬至
2:立春
3:春分
4:立夏
5:夏至
6:立秋
7:秋分
8:立冬
です。
黒い線が太陽の南中高度(北緯35度での値)で、右目盛りです。
立冬から立春まで、非常に太陽高度が低い。
そして、立夏から立秋まで、7度上がって下がるだけで、太陽高度はずっと高いということですね。
立春から立夏までと、立秋から立冬までの高度変化はとても大きなものです。
グラフの赤い線は南中高度のサインの逆数で、こちらは左目盛り。
立冬から冬至、立春の期間、1.6~1.9くらいの値。
受光面積でいうと、断面積1平方mの太陽光の光束が2倍近い面積に当たることになります。「エネルギーが薄められて」しまいますね。
その上、大気を通過する距離も同じように、大気層の厚みの2倍近くを通ることになり、そこでのエネルギーの損失も大きくなります。
ということで、この期間、地表に降り注ぐ太陽エネルギーは非常に少なくなります。
他方。立夏から夏至、立秋の期間は話が逆。
受光面積は非常に1に近い、つまり頭の上から光が差してくるのですね。
大気を通過してくる距離も、真上近くからですから、大気層の厚み程度しか通りませんので、エネルギーロスも小さい。
大量の太陽エネルギーが降り注ぎます。
★さて、紫外線というのは、太陽光の一部なのですから、太陽エネルギーが大量に降り注いでいる、立夏→夏至→立秋の期間に最も多く降り注ぐのは当たり前。
熱いからとかどうとかじゃなくって、太陽が高い位置にあるこの期間が紫外線が一番強い期間なのです。
「まだ5月ですが、真夏のような強い紫外線が・・・」というのは間違いなのですね。
「もう5月ですから、これから立秋の頃までが『日射の夏』です。年間で紫外線の一番強い季節です」というべきなのでした。
★
あれ?6,7月が低いじゃないですか、かかしさん、嘘言ったな。
確かにね。
こちらのグラフを見て下さい。
札幌では6月あたりにピークがあって、私がお話しした通りになっています。
つくばと鹿児島では5,6月がほぼ同じ。
これ、どうしてだと思います?
「梅雨」ですよ。
日射量の大きなこの季節に、「雲が蓋」をしてしまうんですね、空に。
北海道ではあまり目立った梅雨がありません。雲の蓋がないので、ほぼ理屈通り。
鹿児島とつくばには梅雨の影響が大きく出ている。
那覇は?
那覇では梅雨が早く来ます。5月にはもう梅雨入り。ですから、雲の蓋がなければ、5,6月の値がぐんと大きくなって、グラフはもっと大きな山を描くはずなのだと思います。
鹿児島やつくばでは梅雨が明けると、雲の蓋がなくなって紫外線がぐんと強くなる。と同時に、気温も非常に高くなる。
で、暑い夏には紫外線が強い、という感覚を生じさせるのです。
★というわけで、立夏から夏至、立秋に至る期間、雲がなく晴れた日には、日差しが年間で一番強く、同時に紫外線も一番強いということになるのです。
★ちょっとだけ気になることを追加しておきますが。
朝日新聞の2012年6月21日の記事で
骨粗鬆症 過剰な紫外線ケアも要因
・・・
骨粗鬆症を招きやすくなっている要因として、気にしているのが「若い女性のライフスタイル」だ。偏食や過激なダイエット、運動不足などのほかに、「過度な紫外線(UV)対策」も懸念材料の一つだという。
骨の主成分であるカルシウムの吸収を高めるには、ビタミンDが必要だ。ビタミンDは魚や干しシイタケなどの食物からもとれるが、紫外線にあたることで皮膚でも合成される。
東京都健康長寿医療センター(板橋区)で骨粗鬆症外来を担当する森さんも「過剰にUVケアをすると、骨にはよくない。1日15分を目安に、手首から先くらいは日焼け止めを塗らずに日にあてるようにして」と助言する。
・・・
太陽光は必要なのです。最近の極端な紫外線ケアは不健康ですよ。自分自身の健康のためにも、生まれてくる赤ちゃんの骨形成が充分に行えるようにするためにも、わずかでいいです、紫外線に当たりましょうね。
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