鏡の話:13 「水鏡」
★「植物」のカテゴリーの方で、スイセンの話が続いていますが、ちょっとスイセンから思い出しまして。
↓朝日新聞からです。
[しつもん!ドラえもん]1094 しょくぶつとことば編(2/10)
うぬぼれの強い人のことをナルシシストというけど、この言葉の語源と関係のある花は?
[こたえ]水仙
ギリシャ神話に出てくる美青年ナルキッソス。水面に映った自分を愛してしまった彼は、頭を垂れて見つめ続ける姿そのまま水仙となってしまったんだ。
スイセンの花は下向き。
2013.2.5
直立していたつぼみが下を向き始めると、あぁ咲くな、と思うわけです。
ウィキペディア「ナルキッソス」から引用
・・・
ある日ナルキッソスが水面を見ると、中に美しい少年がいた。もちろんそれはナルキッソス本人だった。ナルキッソスはひと目で恋に落ちた。そしてそのまま水の中の美少年から離れることができなくなり、やせ細って死んだ。また、水面に写った自分に口付けをしようとしてそのまま落ちて水死したという話もある。ナルキッソスが死んだあとそこには水仙の花が咲いていた。
さて、かかしとしてはですね、ここでちょっと悩むのです。
水面に自分の顔が写る
まあね。それはそうだけど、どの程度はっきり写るのかな?
みず‐かがみ【水鏡】ミヅ :静かな水面に物の影がうつって見えること。また、水面に自分の姿などをうつして見ること。山家集「池の面に影をさやかにうつしても―見る女郎花かな」[広辞苑第五版]
この広辞苑CD-ROMには、水面に写る岸の景色、というような写真もついてます。
日本人としましては、千円札の裏側に印刷されているような「逆さ富士」はなじみが深い。
これは本栖湖の「逆さ富士」だそうですが。
悪用されないように、小さくしてモノクロームにしておきました。
若干、違和感を感じます。山体の模様とかがね。
湖が手前にあるので、山の途中から写っているというのはいいんですけど。
なんだか、居心地が悪い気がしますが・・・。
葛飾北斎の冨嶽三十六景にも「逆さ富士」があるのですが、これは「変!」
湖面に写った富士を、湖面に乗った実在物であるがごとくに、斜めから見ている。
実際にはそりゃ無理です。
水面をはさんで上下が対称になっていなくっちゃ。
こんなふうに。
冨嶽三十六景では、「夏の富士」が湖面に映って「冬の富士」になってます。
芸術家の創作、ですからまぁ・・・といっても、かかしのような理科爺さんにはどうも頂けません。
不確かな記憶ですが、ペイネの絵で、湖面に浮かぶボートに乗った恋人二人が、湖面に写る自分たちを見ているという状況を、湖岸から見たような構図の絵があったように記憶します。それは、ちょっと、無理なんだけどなぁ。
さて、そんなこんなで、
水が鏡のように反射して景色が写る
と、普通思っている。
だから、水面を覗きこめば自分の顔が写ると思い込んでいませんか?
★物理的には。
自分の顔を水に映して見るためには、真上から見なければなりません。
光が水面に対して垂直に入射することになります。
垂直入射の場合の光の反射率は下のような式で計算できます。
反射率をr、屈折率をn、として
r=((n-1)/(n+1))^2
水の場合、n=1.33くらいですから、計算してみると
r=0.02
ですね。(rは0から1の範囲の数です。)
つまり入射光の2%しか返ってきません。
暗い鏡ですねぇ。
顔面に強い光が当たっていて、背中側の背景は暗くて、水の中も暗い、というような、ちょっと難しい条件でないと、自分の顔を細部にわたって映し見ることはできないはずなのです。
試しに、今晩お風呂に入る時に浴槽の水面や洗面器の水面を真上から覗いてみてください。
美しい顔が映ると思いますよ(??)我ながらほれぼれするなぁ、とナルシシズムにどっぷり浸ってください、
★ナルキッソスが野外で「水面」を見たとして。
あるいは、ペイネの絵の恋人たちがボートから乗り出して真下の水面を見たとして。
背景は「空」ですね、ふつう。背景が明るくってこりゃだめだ。おそらく。
水面には明るい空が映っていて、自分の顔の部分が暗く抜けていて、その暗い中に水の中の様子、藻とか、湖底とかが見える、と言うことになりそうな気がするのですが・・・。
★というわけで
水鏡というイメージから何となく想像してしまうようには、自分の顔ははっきり見えないのではなかろうか
というのが私の疑問であるわけです。
ナルキッソスは、何にうっとりしてたのかな?
とにかく、一度、ご自分で確かめて見て下さい。お願いします。
★垂直入射の場合の反射率のグラフを作ってみました。
グラフは横軸が屈折率、縦軸が反射率です。
屈折率として
水:1.33
水晶:1.54
普通のガラス:1.5
ダイヤモンド:2.42
金紅石(二酸化チタン、ルチル):2.62
こんな値で反射率を読み取ってみてください。
ダイヤやルチルは正面から見ても輝きますね。
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