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2012年12月14日 (金)

鏡の話:10の9

★「裏返し」の話をしましたが、今回は裏返しではなく「ひっくり返し」です。
まるっきり鏡の話ではありませんが、笑ってお付き合いください。
脱線いのち!

「ホメオボックス・ストーリー」形づくりの遺伝子と発生・進化
ワルター・J・ゲーリング 著、 浅島誠 監訳
東京大学出版会、2002年3月20日 初版

こういう本がありまして、この本の275ページから引用します。

・・・
体の設計図の前後軸方向の特徴は、昆虫類と哺乳類とで同じホメオティック遺伝子群によって調節される。また、この結果から考えると、おそらくホメオボックス遺伝子をもつほかのすべての後生動物においてもしかりである。同じことが背腹軸にも当てはまるか否かは、これらの事柄からはすぐには結論できない。背腹軸方向の位置情報は、主にホメオボックスをもたない遺伝子により決定される。基本的な体の設計図に見られる脊椎動物と無脊椎動物の主要な違いは、背腹軸にある。つまり、脊椎動物は背側に神経系をもつが、多くの無脊椎動物は腹側に神経系をもつ。この見かけ上の相違は、エティエンヌ・ジョフロア・サン=ティレールがジョルジュ・キュビエとの有名な論争で提唱したように、脊椎動物は進化のある段階で仰向けになったと仮定すれば解消される。・・・ジョフロア・サン=ティレールの仮説は、背腹軸の決定にかかわる遺伝子の発現パターンにより支持される。そのきわだった事例は、シグナル分子をコードするデカペンタプレジック(dpp)遺伝子と、それに相同な哺乳類遺伝子の骨形成因子(BMP-4)遺伝子である。dpp遺伝子は、ショウジョウバエの初期胚では背側に発現するが、BMP-4遺伝子は、マウスでは腹側で発現する。これと同様の事例は次第に増加しており、最終章ではもっと説得力のある二つの事例について取り上げることにしよう。脊椎動物の体の設計図は環形動物の体の設計図をひっくり返したものであると単純に説明するジョフロア・サン=ティレールの考えは、結局のところ正しいのかもしれないのだ
・・・

私たちヒトの神経系が背側にあることは自覚できます。
で、昆虫の神経系はというと、下のウィキペディアのページの図をご覧ください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%86%E8%99%AB%E3%81%AE%E6%A7%8B%E9%80%A0
「昆虫の構造」

腹側に神経系がありますね。
このことを上の引用文では言っているのです。

引用文中「体の設計図の前後軸方向の特徴は、昆虫類と哺乳類とで同じホメオティック遺伝子群によって調節される。」というのは「体節構造」のことです。
詳しいことはちょっと後回しにして、昆虫もヒトも同じ設計思想で作られているということを理解して下さい。
体の前後方向の構造は、互いに似たような体節に区切って作っていき、各体節ごとにその個性・機能を変えていくという作り方なんですね。

そのように、昆虫も哺乳類も、体の前後軸方向は体節構造という同じ設計思想で、そして共通の遺伝子群を使いながら体をつくっているのですが、背腹軸方向については、神経系は、哺乳類では背側に昆虫では腹側にあるのです。

進化の途中で「ひっくり返したもの」という考え方はこういうことなのです。
どっちが正立で、どっちが倒立かは分かりません。
昆虫が正立なら、私たちヒトはひっくり返っちゃった動物なのかもしれません。
要するに「互いにひっくり返っている」だけなのです。

裏返しの話ではありませんでしたが、面白いでしょ。

{昆虫の循環系は背側にあります。背脈管という前後が開いた管です。開放血管系ですね。途中にポンプとしての心臓部分があり、後ろから血液を吸い込んで前へ送り出します。
チョウの幼虫などを背中側から見て下さい。体内が透けて、心臓が脈打っているのが見えることがありますよ。哺乳類の循環系は、消化管をはさんで神経系とは反対側、腹側にメインの動脈がありますね。}

★サンティレールとキュヴィエが同時代の学者であることは論争したことで分かりますが。
実は、ダーウィンとファーブルも同時代人なのです。
ダーウィンとファーブルの間に文通があって、互いに尊敬していた。しかし、ファーブルは進化論には慎重だった、というのは、知られるところです。
どこで読んだのか、出典が思い出せないのですが、ダーウィンとファーブルも「ひっくり返し」の論争は知っていたと思います。
それぞれに名前を聞くことは多いのですが、同時代人という見方で時代と地域を総合的に見るのも面白いものです。
ノーベル賞が始まったのが1901年からです。ファーブルにノーベル賞を、という声があったとも聞いています。そういう時代感覚も養っておくと楽しいですね。

★参考(ウィキペディアから引用)
エティエンヌ・ジョフロワ・サンティレール(フランス語: Étienne Geoffroy Saint-Hilaire、1772年4月15日 - 1844年6月19日)はフランスの博物学者。
ジョルジュ・キュヴィエ(バロン・ジョルジュ・レオポルド・クレティアン・フレデリック・ダゴベール・キュヴィエ、Baron Georges Léopold Chrétien Frédéric Dagobert Cuvier、1769年8月23日 - 1832年5月13日)は、フランスの博物学者である。
チャールズ・ロバート・ダーウィン(Charles Robert Darwin, 1809年2月12日 - 1882年4月19日)はイギリスの自然科学者。
ジャン=アンリ・カジミール・ファーブル(Jean-Henri Casimir Fabre、1823年12月21日 - 1915年10月11日)はフランスの生物学者である。

★体節については、ここで解説することはしないで、優れたサイトにリンクすることにします。
http://www.keirinkan.com/kori/kori_biology/kori_biology_2_kaitei/contents/bi-2/2-bu/2-2-2.htm
教科書会社の啓林館のサイトです。
「体節構造を決定する遺伝子群をホメオティック遺伝子という」という話が載っています。

体節を決めるショウジョウバエの研究がもとになって,近年ホメオボック遺伝子という語が注目されるようになった。体節構造を決定する遺伝子群をホメオティック遺伝子という。それらについて,DNAの塩基配列を調べてみると,互いに共通した配列が存在することがわかった。この部分をホメオボックスという。その後の研究で,ヒトやマウスなど体節構造(脊ついの積み重なりとほぼ一致)をもつ動物の遺伝子(DNA)内にもホメオボックスと同じ塩基配列が存在するが,体節構造のない細菌や線虫などのDNAにはホメオボックスが存在しないことがわかり,この塩基配列が体節構造と関連すると考えられるようになった。

・・・
脊椎動物では遺伝子重複してHoxA,HoxB,HoxC,HoxDの4つのコンプレックスになっており,ショウジョウバエのホメオティック・コンプレックスと同様に,前後軸や四肢の基部先端軸に沿って領域特異的に発現する。なお,ホックスの各遺伝子の前後軸に沿った発現領域の並び順と,遺伝子の並び順も,ショウジョウバエのホメオティック・コンプレックスと同様に一致している。脊椎動物のHox遺伝子群も体軸に沿ったパターン形成にかかわることが明らかになっている。

この引用文の下に、ショウジョウバエ胚とマウス胚の興味深い図があります。ご覧ください。

http://www.rikanenpyo.jp/FAQ/seibutsu/faq_sei_006.html
理科年表のFAQのページです。(Frequently Asked Questions)
「体節のでき方」について解説されています。

脊椎骨はレントゲン写真や、骨格標本などで見たことがあると思いますが、同じような骨がつながって構成されています。その 1 つ 1 つの骨の単位は、胎児が発生する過程で形成される体節という単位から由来します。体節とはその名のごとく体の節を作る源です。

 ひとたび体節形成が開始されると、一定の時間間隔で一定の大きさの体節がくびれきれるように形成されていきます。ちょうど羊羹を順番に一定の大きさで切っていく感覚です。この間隔は動物によって異なっています。例えばヒトでは約 8 時間ごとに、マウスでは 2 時間ごとに形成されます。また作られる体節の数も動物によって異なり、ヒトは 30 個、マウスは 60 ~ 65 個、ヘビになると何百という数が形成されます。さて問題は、生物はどのようにしてこの分節のタイミングを計っているのでしょうか? これはまだ完全に明らかにされていません。しかし最近体節は自らの分節のタイミングをはかる時計機構をもっていることが明らかにされつつあります。

とてもよい図が載っていますので、ぜひお読みください。

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