« キク科の花 | トップページ | ワン・ツー »

2012年12月11日 (火)

鏡の話:10の6

★ヒドラを裏返す

ヒドラという動物をご存じだと思います。
昔は腔腸動物といいましたが、今は刺胞動物門と呼ばれるグループの一員です。
外胚葉性上皮細胞と内胚葉性上皮細胞の間に薄い間充ゲル層があるという、二胚葉性の動物です。
まるで「袋」のような動物。
私たち脊椎動物は「管」のような動物ですね。口から肛門まで管が通っていて、「竹輪」のような動物です。
ヒドラは餌をとり込む口と、消化後の不消化物の排出口が同一で、全くのところ「袋」状の動物です。

昔、私が小学生の頃かな、5歳年上の兄が、高校の生物の授業で勉強してきたらしいのですが、ヒドラは裏返せる、という話を私にしたんですね。
これにはびっくり。びっくりですけど、裏付けを読んだことがなかった。
今回、鏡関連で「裏返す」話を考えていて、検索したら、ヒットしましたね。ヒドラの裏返しの話。

↓ここです。
http://www.nig.ac.jp/museum/livingthing/10_b.html
遺伝学電子博物館というサイトです。ここの「ヒドラ ~ 裏返しヒドラの話」
という所から引用します。

 200年以上前、スイスの動物学者A. Trembley先生はヒドラを発見し、再生、出芽、移植等、今日の発生生物学の基礎となる研究をしました。そのなかで、特に面白く、100年以上たって、やっと分かった実験を紹介しましょう。それはヒドラを裏返すとどうなるか、という実験です(図1)。いま、ヒドラを2重の靴下と考えて下さい。外側の靴下が外胚葉上皮層、内側が内胚葉上皮層です。その入り口に数本の触手が生えていますが、無視します。靴下を完全に裏返して下さい。内胚葉が外で外胚葉が内になりました。さて、ヒドラはどうなるでしょう?裏返しの靴下を脱ぐように、口がめくれ返って元に戻る?正解です。では、めくれ返らないようにピンを図の様に横に突き通したらどうなるでしょう?Trembley先生は突き通しているにもかかわらず、外内逆になり元通りになったと報告しました。どのようにしてそうなったかについて、現代生物学の知識のある人は次の2つ仮説を出すでしょう。(1)外胚葉が内胚葉に、内胚葉が外胚葉にそれぞれ変わる(分化転換する)。(2)外胚葉の細胞と内胚葉の細胞は元の場所を記憶していて、個々にすれ違って入れ替わる。1887年にNussbaumは、同様の実験をして観察した結果、針の作った組織の穴を通して内側に位置していた外胚葉細胞層が外側にはいだし、内胚葉細胞を覆うことによって元に戻ると結論しました。一方、石川千代松も1889年に同様の実験を行い、顕微鏡で注意深く観察を続けた結果、足先から裏返り、ピン(粗毛)の脇を通り抜けながら元に戻ること(図1)、戻らない場合は死んでしまうことを報告しています。現在ではNussbaum、石川、両者の観察したことが起きることが知られています。ちなみに、最近我々の研究室で全く別の目的で行った実験ですが、Nussbaumの見た外胚葉の細胞が内胚葉の細胞を覆う現象(エピボリー)を見出し、これがヒドラの再生の組織再構築に重要な役割を果たすと考えています。昔の顕微鏡はもちろんいまほどよく見えないにしても、正しい結論は注意深くかつ粘り強い観察によって得られるということはいまにも、或いはいまだからこそ重要な教訓に思えます。

すごいでしょ。
おそらくこの話を兄貴は授業で聞いてきて私に教えたのでしょう。
裏返されてしまったヒドラもいい迷惑ですが、ちゃんと元に戻るというのですからすごいですね。

足袋ソックスを裏返して履く私ですが、ソックスは自分じゃ戻りません。
ヒドラは、悩んで考えて「戻ろう」という意志を発している、とまぁ、考えすぎではありますが、単純な動物とはいえ、すごい能力を持つものです。

★読書
「ヒドラ 怪物?植物?動物!」山下桂司 著、岩波科学ライブラリー181、2011.6.28第一刷発行
ちょっとでもヒドラに関心がおありでしたら必読書、ですね。
面白い話満載なのですが、ちょっぴり引用。

・・・ヒドラ類の研究は今、非常にエキサイティングな状況にある。なかでも中心となっているのは、大規模な研究プロジェクト――ヒドラ・ペプチドプロジェクト、ヒドラゲノムプロジェクト、およびヒドラEST(発現遺伝子断片の網羅的な解析)プロジェクトである。
・・・
ヒドラ神経ペプチドの研究から、ヒドラ類の体部と人の腸とが、細胞レベルでも、神経レベルでも、驚くほどの共通性を示すことも明らかになっている。
・・・
2010年2月:ヒドラにおける原始的な癌遺伝子の発見。
2010年3月:ヒドラにおけるヒト視覚関連遺伝子の発見。
2010年3月:ヒドラのゲノム解読。ヒドラにおけるヒトのハンチントン病やアルツハイマー病関連遺伝子の発見。
・・・

①淡水産ヒドラのゲノムは、サイズが約13億塩基対とヒトゲノムの約3分の1にもなること、②淡水産ヒドラのたんぱく質をコードする遺伝子の数は約2万で、ヒトとほぼ同等であり・・・③ヒト脳内などの神経伝達物質であるアセチルコリンの関連遺伝子が、ヒドラの触手や出芽体の上皮で強く発現しており、それが細胞間の情報伝達や形態形成に重要な役割を果たしている可能性があること……など、驚くばかりである。

この本では各章の冒頭に、引用文があるのですが、第2章の冒頭には

それは君 大変おもしろい 君 ひとつ やってみたまへ
                   ――畑井新喜司
   (東北大学浅虫臨海実験所(現 浅虫海洋生物研究センター)初代所長、実験所の一隅の石碑より)

いいですね、これ、最高にいいですね。
こういう言葉を頂いたらもう、人生の全力を挙げて打ちこんでしまいますね。
逆に、こういう言葉をかけて後進を育てることができたら、それはそれで、人生の一つの到達点たりえますね。
よい師、よい弟子が出会うと、すごいことが起こります。
なんかの役に立つ、なんて下卑た話とは違いますね。
よい言葉を聞きました。それは喜びです。

もう一つ「あとがき」から。

そして、私を終始支え続けたのは、小さな命を愛でる天性の人、妻の○子です。今、全ての方々に心から感謝しています。

わ~いわい。いいなぁ、こういう言葉、書いてみたいなぁ。
「私とともに、小さな命(虫も植物も)を愛でる天性の人、妻のKに、我が人生のすべてをもって、感謝を捧げます。」
いいでしょ。

★参考サイト
http://www.seto.kyoto-u.ac.jp/aquarium/suisoukaisetsu-file/shihou.html
京都大学白浜水族館「刺胞動物の秘密」というページです。
解説が詳しい。

http://www.nig.ac.jp/labs/OntoGen/hiroshi.html
ヒドラの消化運動の話。

http://lifesciencedb.jp/dbsearch/Literature/get_pne_cgpdf.php?year=2007&number=5202&file=ilRnpYWpPLUS4gxZ5YPLUSl1IzqQ==
pdfファイルです。
「消化管の進化的起源:刺胞動物ヒドラにおける基本構造と機能」という話。

面白いですからぜひどうぞ。

« キク科の花 | トップページ | ワン・ツー »

理科おじさん」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« キク科の花 | トップページ | ワン・ツー »

2021年5月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
サイト内検索
ココログ最強検索 by 暴想
無料ブログはココログ