鏡の話:10の7
★ヒドラを裏返す話の続きは、ヒドラが属する刺胞動物門という名前の由来である「刺胞が裏返る」話です。
★まず、入門としてウィキペディアから
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%BA%E8%83%9E
刺胞は一つの細胞には一個だけ入っている細胞小器官である。細胞内にある間は、楕円形の袋の中に刺糸(さしいと、又はしし)が入っている。この袋を刺胞嚢という。刺胞嚢が細胞外に顔を出した部分に蓋があり、刺糸はこの裏側から始まって、刺胞嚢内で縦、あるいは横、あるいはその両方向に渦を巻いて入っている。何等かの刺激を受けると、この刺糸は反転して外に伸び出し、標的に突き刺さったりからまったりする。刺糸の外側には細かい棘が螺旋状に並んでいるのが普通である。また、刺糸の基部にやや太くなった床尾部を持つものでは、ここに特に強い棘を持つ。なお、刺胞嚢に収まっている時には、これらはすべて反転しているので、内側に向かって収められている。
クラゲに刺される、というのもクラゲが持っている刺胞の働きです。
前回もご紹介した↓ここに、図があります。
http://www.seto.kyoto-u.ac.jp/aquarium/suisoukaisetsu-file/shihou.html
京都大学白浜水族館「刺胞動物の秘密」というページです。
★言葉で「この刺糸は反転して外に伸び出し」といってもなかなかイメージがつかみにくいかもしれません。
すごくいい図を見つけました。
↓このページの終わり近くに非常に分かりやすい図があります。
http://www.biological-j.net/blog/2008/04/000459.html
ぜひご覧ください。
山下桂司さんの「ヒドラ」から引用します。
①最初に、刺胞内から剣状棘(針状突起)が突き出て、ターゲットの餌動物プランクトンの外皮に突き刺さり、孔をあける。
②刺糸が反転しながら、その孔を通って外皮を貫通する。
③さらに刺糸がのびながら体内に侵入し、刺糸のところどころから毒液が注入される。
④ ①の開始から刺糸がのびきるのに、たった3ミリ秒(0.003秒)である。
ご紹介した図を見ますと、刺糸の根元のところは「返し」がついていて、抜けにくくなっています。巧妙です。
剣状棘の最終速度は、18.5~37.1m/s(時速66.6~134km)にもなるそうです。
また剣状棘の打撃の圧力は、7GPaにもなるのだそうです。
1気圧が約0.1MPaですから、7万気圧相当ですね。とんでもないことです。
本では「体重50kgの女性1400人分の重さをもつハイヒールの踵(接地面積1平方cm)で踏まれる圧力に匹敵する」と解説しています。
「超高速ハイヒール・タップダンサー」という表現を使っておられます。
で
なお、このハイヒール・タップダンスの衝撃は、相手ばかりでなく、自分にもはねかえることになる。刺胞発射という劇的な現象の陰に隠れて見過ごされがちだが、実は、この衝撃を柔らかく吸収してしまう柔軟な体のつくりもまた、ヒドラ類を含めた刺胞動物のみがもち、他のあらゆる生物にはまねのできないものであるといえるだろう。
そうですね。相手を撃てば、自分にも衝撃が跳ね返る。
生物だけを見ているとつい、作用反作用という物理の基本を忘れる。
生物だって物理法則を免れることはできません。
ヒドラ(やクラゲやイソギンチャク)の単純そうな体が持つ恐るべき構造なのですね。
★ところで、刺胞を発射するエネルギーはどのように生じているのかについては、冒頭に引用したウィキペディアから再度引用します。
射出のエネルギー
このような強力な射出がどのようなエネルギーで生じるのかについては、詳しいことは分かっていない。刺胞の内部の浸透圧が150気圧に達すること、刺胞嚢の体積が射出の後には約半分になることなどから、この圧力差と、刺胞嚢の収縮によって押し出されるらしい。さらに、刺糸が強く撚られて収納されており、これがほぐれる力も働いているであろう。また、浸透圧の差によって嚢内に水が流入する力が働いているとの説もある。
浸透圧の差を生み出すためには、今度は刺胞細胞が細胞内の塩類濃度を濃くするという、おそらくATPを大量に使うだろう、ものすごい仕事する必要があるでしょうね。
夏、海水浴場でクラゲに刺されては困りますが、でも、ちらっとクラゲの刺胞のことなども思い出してみて下さい。
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