鏡の話:10の10
★ヒドラを裏返すお話をしたり、昆虫と哺乳類が同じ遺伝子群を使って体を構築することを見ました。ヒドラの遺伝子とヒトの遺伝子とに共通する部分があることも。
そこでどうしてもお話ししたくなったのがパラニューロンの話。
★「腸は考える」という岩波新書があります。名著ですね。
「腸は考える」藤田恒夫 著、岩波新書 新赤版191、1991年10月発行
私たちは、腸の基底果粒細胞が、上半身は神経的なアンテナを立てて刺激を受け取り、下半身は無数の果粒にホルモン(ペプチドとアミン)を貯えてこれを放出する、一人二役の細胞(受容分泌細胞)であることを見てきた。
ところが、からだのなかを見渡すと、これと本質的に同じ構造をもち、同じ仕事をしている細胞がいろいろ見つかる。第一は感覚細胞とよばれる一群で、第二は内分泌細胞の一群である。この両群の細胞は、いずれもニューロンと共通の性格をもつので、「パラニューロン」(ニューロンに並ぶものという意味)と呼ばれるものである。「パラニューロン」の名称と概念は、1975年に岐阜で開催された内藤記念国際シンポジウムで私たちが提唱した。
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私はゴキブリが大嫌い。いや告白すれば、こわいのだ。昆虫はみんな苦手なのである。ガサゴソした蛾や蠅より、蛇やナメクジのようにニョロニョロ、ヌルヌルした動物の方が、ずっと性に合っている
この藤田さんが、昆虫学者の宇尾淳子さんと出会うんですね。
宇尾さんは「ゴキブリの女王」という「尊称」を奉られるほどの方です。
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初対面のあいさつもそこそこに、ハンドバッグから一束の電子顕微鏡写真をとりだした。
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私はその電子顕微鏡写真を見て、本当にびっくりした。なんと人や犬で見なれた、あの基底果粒細胞が、ゴキブリの中腸の上皮の中に散在しているのだった。
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「なんだ、人間も昆虫も変わりませんね!」
私は、ちがう世界の学問の出会いに感動して叫んだ。
宇尾さんのグループと私たちの共同研究の結果は、進化の二つの頂点に立つ哺乳類と昆虫に、同じ設計のセンサー細胞と信号物質が見いだされるということだった。
★このようにして、哺乳類と昆虫とで同じパラニューロンがある、ということから、この二つの動物が分岐する前のヒドラではどうなのか、ということになるのです。
そして、ヒドラの研究から、やはり基底果粒細胞がヒドラにもあることが分かったのです。
パラニューロンの起源はヒドラまでさかのぼるのです。
「動物みんなおなじ」だったんですねぇ。
なんともスゴイ話でしょ。
さて、ここに登場した宇尾さんの著書がありますので、それを次回取り上げます。
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