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2012年11月20日 (火)

鏡の話:8

話はとんでもなくあっちこっちに飛び回るのですが。

★右巻きの貝と右手
Makigai
この写真をご覧ください。
向かって右が実物です。大きな巻き貝の殻です。(Rと呼ぶことにします)
その写真を画像処理ソフトで、左右反転させたのが向かって左の写真です。(Lと呼ぶことにします)
上下方向と奥行き方向は同じ(保存されている)なのに、左右を反転させましたので、これは鏡像関係にあることになりますね。
Rは、成長して殻を伸ばしていくときに時計回りに成長していきました。これを「右巻き」と呼びます。
Lは逆に、反時計回りに成長したことになりますね。これは「左巻き」といいます。

巻き貝の巻き方をどう呼ぶか迷ったらこの写真に戻って下さい。


↓このR(右巻きの貝)に手を突っ込んでみました。
Makimigihidari
写真向かって右:右手を入れてみます。すんなり入ります。右手は体の内側向きに曲げられますから、貝の口から中へ手を入れることに困難はありません。

写真向かって左:左手を入れてみようとしますが、指や手首を強く反らせなければなりませんから、入れにくい。

★これに似た関係が、カタツムリと、カタツムリを食べるヘビの間に存在する、という話を読みました。これがこの記事の「主体」です。

★右利きヘビの仮説
巻き貝であるカタツムリを食べるヘビがいます。
で、食べられる側の巻き貝のカイラリティが、捕食者であるヘビにカイラリティをもたらす。
それがまたカタツムリの方へフィードバックされて、普通のカタツムリとは逆巻きのカタツムリの生存率をあげて、カタツムリの進化に影響を及ぼすかもしれない。

という、粗筋です。

「鏡の話し:7」でお話しした「カイラルな触媒」との類似性を感じてしまいました。
カイラルなものがカイラルなものを生み出す、という点で。
ミクロあるいはナノの分子レベルと、マクロな生物レベルですから、話のスケールは全然違いますけれど。

★最近の読書です。
フィールドの生物学⑥「右利きのヘビ仮説―追うヘビ、逃げるカタツムリの右と左の共進化」細 将貴 著、東海大学出版会、2012年2月20日 第1版第1刷発行

「右利きのヘビ」というタイトルで嬉しくなって夢中になって読みました。最高に面白い本です。
この本から何カ所か引用します。
p.27

・・・右巻きのカタツムリが圧倒的に多いこの世の中。カタツムリの捕食者の中には、左巻きよりも右巻きのカタツムリを食べるのに熟練したものがいるかもしれない。そんな「右利きの捕食者」がいれば、左巻きのカタツムリは生き残りやすくなるはずだ。生き残ることができれば、たとえ交尾相手に恵まれないという不遇な状況を変えることはできなくても、子どもを残せる確率は上がるに違いない。つまり、左巻きに進化することが多少なりとも容易になるはずだ。

p.32

 カタツムリばかりを食べるヘビがいるらしい。・・・。名前をイワサキセダカヘビという。

p.36

 このヘビはまず、這っているカタツムリに後ろから接近して、柔らかな軟体部にかみつく。かみつかれたカタツムリはあわてて殻の中に引っ込もうとするが、深く突き刺さった下顎の歯から逃れるのは容易ではない。結果としてヘビの顎は、カタツムリの軟体部に引きずられて殻の奥に差し込まれていく。このとき、引き込まれるのは下顎だけで、上顎を含む頭部の大部分は殻の外で、殻口の縁に引っかかるような形になる。それ以上奥に引き込まれようのない状態でしばらく持ちこたえたあと、ヘビは時間をかけて殻の中にある身を引き出しにかかる。
 一般に、ヘビ類は、ちょうど人間にとっての両腕のように下顎の左右を別々に動かすことができる。・・・右巻きのカタツムリが相手なら、右の下顎よりも左の下顎の方が、より殻の奥へ突っ込むことができる。相手が左巻きならその逆だ。・・・もしイワサキセダカヘビが右巻きのカタツムリを食べるのに特化したヘビならば、その左右の下顎には何らかの違いがあるはずだ。

 続いてわかったのは、セダカヘビ科のほぼ全種が「右利き」だということだった。程度の差こそあれ、ほとんどどの種も右の下顎により多くの歯を持っている。・・・一種だけ、完全に歯の本数が左右同数になっている・・・マラッカセダカヘビと呼ばれている熱帯のヘビだ。なってこった、これはいったいどうせつめいすればよいのだろう。私はひどく頭をかかえてしまった。
 ・・・
 なんとこのマラッカセダカヘビはナメクジだけを食べると力強く書かれているではないか!ナメクジを食べるのに、右利きである必要はまったくない。・・・

★と、まあ、こんな具合です。
なるほどなぁ。そんなことがあるのか、と、感動してしまいました。
カタツムリを食べるには「右利き」であることが有利。でもナメクジを食べるには左右性はなくていい。これには、思わず笑って納得してしまいました。

★生きたカタツムリにお目にかかれることは非常に少なくなっています。
2008年に私が撮影したカタツムリの写真をご覧ください。
Katatumuri1
いかがでしょう。このカタツムリは確かに右巻きですね。
Katatumuri2
これは2011年に撮影した写真。カタツムリの殻が雨ざらしになって白くなってしまったものです。これも右巻きですね。

なるほど、カタツムリは通常は右巻きなのですね。
巻き貝の巻き方には、カイラリティがある。
人の手だけではないのですね。
もし、カタツムリに意識があったら、鏡に映った自分を見てどう思うんでしょうね。
鏡に映ると、巻き方が変わってしまう、と認識するでしょうかねぇ。

写真の出所は↓です。
http://yamada-kuebiko.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/post-d984.html
2011年3月11日 (金)「カタツムリ」
http://yamada-kuebiko.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/post_d984.html
2008年6月25日 (水)「カタツムリ」

★余禄:1
朝日新聞の記事から。

カタツムリも尻尾切り:八重山生息 ヘビから逃げる(朝日新聞 2012/10/3)
 敵に襲われたとき、トカゲのように「しっぽ」を切って逃げるカタツムリを、オランダ・ナチュラリス生物多様性センター研究員の細将貴さんが発見した。3日、英国王立協会紀要に発表した。カタツムリのしっぽ切りが学術報告されるのは初めてという。
 このカタツムリは八重山諸島に生息するイッシキマイマイ。「大人」になると殻の入り口にコブができ、ヘビから身を守る。しかし、殻が未成熟な幼いカタツムリにはコブがなく、ヘビにかみつかれたしっぽを切り離して逃げていることを実験室と野外での追跡調査の双方で確認した。
 天敵のヘビがいない島では、こうした現象が著しく少ないこともわかった。しっぽ切りはヘビに対抗するために進化した適応と考えられるという。
 しっぽは2~3週間後に再生したが、その場合は殻の成長が一時的に遅れていた。「こうしたデメリットがあるが、しっぽを切ったカタツムリの方が生き残る率が高い」と話す。

記事を読んで、あれ、細さんだ、と嬉しくなりました。
著書を読んだあとでしたので、なんだか親しみを覚えてしまいました。
現地で頑張っておられます。

★余禄:2
ついでに思い出話:子どもの頃、秋田の母の実家に行くと、海が近くて、岩場でツブという貝をいっぱい採れるんですね、遊びながら。それを伯母が醤油味で煮て丼に盛ってくれます。マチ針を手にこの貝を引き出して食べるのが楽しい。一口は小さいのですが、始めるとやめられない、という食べ物ですね。

右手に針を持って、突き刺して、右手の手首を返しながらくるっと回しながら身を引っ張り出しては、パク。右利きの私には何の意識もなく一生懸命食べてましたが、今、思い出してみると、貝は右巻きだったんですね。ですから、右手の手首の返しでうまく身が引き出せたんだ。
もし左利きだったら、きっと食べにくいなぁ、と思ったことでしょう。
無意識に、右巻きの貝に右手がフィットしていたのですね。
左巻きの貝だったら、右利きの私には食べづらかったんだろうなぁ。

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