鏡の話:5
鏡の話:5
★さて、いろいろ「裏返り」ましたが。
鏡の中では、ものが裏返っているということで、いいのかな?
鏡の中では「空間が裏返っている」のかもしれませんよ。
★白い紙にx軸、y軸を書きます。
高校の数学くらいまでだと、あまり「3次元座標系」を詳しく扱わないような気もします。
物理で空間に物を投げても、基本的には「平面内」の出来事として扱えますしね。
でも、一応、空間内の一点を決めるには、x、y、zの3つの座標系が必要で、(x,y,z)という組で一点を決めることができる、ということはご存知のことと思います。
で、その3本の軸なんですが。
x軸とy軸は大抵の場合、紙の上で、左から右向きに「x軸」、手前から向こうへの向きで「y軸」を書きますよね。これはもうほぼ「自明」のルールですね。
では、z軸は?
これも普通、右向きのx軸と向こう向きのy軸の作る平面から上向きにz軸を考えますね。
●明示的に(explicitに)z軸の定め方、というのを習いましたか?
思い出してみて下さい。
{余談:私、角が立つことを気にしない職業人だったので、「内々に」「言外に」「暗黙の裡に」とかいうのが嫌いで、「言われないことは伝わりません」といつも「ツノ立ててました」。で「explicit」というのが大好きです。explicit と implicit が対になります。}
よく考えると、z軸の向きは、紙面から上向きと、下向きと二つの方向が可能です。
どうしましょ。どちらかに決めるルールを習いましたか?
★「右手系」「右ネジ系」というのがあるんです。
●右手の親指、人差し指、中指を相互に直角に開いて(指ピストルみたいに)、親指の向きをx軸の向きに、人差し指の向きをy軸の向きに、中指の向きをz軸正の向きにとる、というルールです。
●x軸からy軸方向へ「右ネジ」(日常で使う普通のネジのことです)を回転させたときに進んでいく方向をz軸正の向きとする。このとき、右ネジの向きは問いません、同じ結果になります。確認してください。
右手系のルールにおいて、右ネジを回してみて下さい。
z軸は同じ向きになりますよね。
これがz軸を決めるルールです。
普通、明示的に書いてなくても、暗黙の裡にこのルールに従っているはずです。
★さて、
右手系を鏡に写してみました。
鏡のこちら側では右手系ですし、右ネジを親指から人差し指の方へ回すと中指方向に進みますね。
鏡の中で、親指から人差し指の方へ右ネジを回すと、中指とは逆向きに進みますね。
鏡の中の座標系は「左手系」になってしまったのです。
右手の鏡像は左手と一致するのですからしょうがない、そうなります。
鏡像空間では座標系が反転しているのです。
鏡の中では
右手系は左手系になります。
紙に赤で右向きにx軸、黒で手前から向こうへの向きにy軸を書きました。
(xからyへの回転方向も参考のため書き込みました。)
それを鏡に写してみました。
鏡の手前の世界で右ネジを回せば、xy平面から上に向かいますね。それがz軸方向です。
では、鏡の中で右ネジを回転矢印の向きに回したら?どうなります?
xy平面の下へ向かってしまいますね。
やっぱり、z軸が反転してしまいました。
これでお分かり頂けると思いますが
右ネジ系の座標系は、鏡の中では左ネジ系の座標系になってしまうのです。
★
ご覧ください!
巻き貝と右ネジを鏡の前に並べて撮影。
この巻き貝、稚貝から成体へと成長してきたわけですが、その成長の時に貝殻が時計回りに成長してきたことが分かります。この向きを「右巻き」といいます。
で、並べた右ネジと比べてみると分かりますが、同じ巻き方ですね。
この貝の太い方を持って、右ネジをねじ込む方向=時計回りに回転させると先端(尖端)方向へ進むことがわかります。
では、鏡の中はどうなっているのでしょう?
右ネジは左ネジになり、右巻きの貝は左巻きの貝になってしまいました。
貝の方が見やすいでしょう。鏡の中の貝は、成長の時に、反時計回りに巻いてきたようにになっています。
左巻きの貝なのですね。
右ネジ・右巻き貝の鏡像は左ネジ・左巻き貝になるのです。
★鏡に映ったものは「裏返しだ」といいましたが、空間を記述する座標系も裏返しなのです。
どうやっても一致しません。
x とyを一致させればzが反転し、yとzを一致させればxが反転し、zとxを一致させればyが反転する。という関係になり、重ね合わせることができなくなるのです。
Axes
模式図を描いてみました。ご確認ください。
鏡像の方には「 ’(プライム)」をつけておきました。
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