« アゲハ | トップページ | 虚数(その1) »

2012年10月22日 (月)

ダメ。ぜったい、ダメ。

事故がありましたね。

地下鉄丸ノ内線車内で洗剤の缶破裂 男女2人重傷(2012年10月20日 朝日新聞)
・・・
 20日午前0時20分ごろ、東京都文京区本郷2丁目の東京メトロ丸ノ内線本郷三丁目駅に停車中の電車内で、「乗客の女性が持っていた缶を振っていたら破裂した」と110番通報があった。東京消防庁や警視庁によると、中に入っていた液体が飛び散って乗客にかかるなどし、11人が手当てを受けた。いずれも意識があり、男女2人が重傷という。
 東京消防庁によると、11人は20代から50代で、男性4人、女性7人。このうちの20代の女性が持っていた容器が破裂したという。メトロによると、缶には「強力洗剤」と書かれていた。東京消防庁によると、女性は、コーヒーのキャップ付きアルミ缶に強アルカリ性の業務用洗剤を入れていたという。
・・・

丸ノ内線14人けが洗剤破裂か(NHK 10月20日)
・・・
この女性は警視庁に対して、「自宅を掃除するために、勤めている飲食店から油汚れを落とす強力な液体洗剤を分けてもらい、500CCのコーヒーのアルミ缶に入れて持っていた」と説明しているということです。
・・・

油汚れを落とす業務用洗剤だったんでしょうね。
アルカリのかなり濃い溶液(販売できる濃さというと5%程度以下でしょうけど)と界面活性剤の混合物かな。
いわゆる「苛性ソーダ」「苛性カリ」ですよ。
苛性というのですから「性質が劇しい」のです。

私の化学の授業をちゃんと受けた人だったら、こういう失敗はしないなぁ。(と思うけど。)
●アルミニウムは金属ですからね、酸と反応して水素を発生します。塩酸で書けば
2Al + 6HCl → 3H + 2AlCl

金属が酸と反応して水素が出るというのは、小学校でもやるのかな。
ですから、アルミニウム容器に酸を入れようという人はあまりいないでしょう。
古い話、毎日アルマイトの弁当箱に日の丸弁当を詰めて食べると、そのうち、梅干しに当たっていた部分が腐食してきましたよね。

●ところが、アルミニウムは両性金属。アルカリとも反応します。
「アルカリとも反応」と書くと、酸とは激しく反応し、アルカリとは酸ほどではないけれど少しは反応する、と言う感じがしてしまうかもしれません。
ところが違うんだなぁ。
「もののことはものに聞け」なんです。物質ごとに性質は異なるのです。
アルミニウムは酸より、アルカリとの方がよく反応するのですよ。「よく」というのは「激しく」ということです。

2Al + 2NaOH + 6HO → 2Na[Al(OH)] + 3H

いろんな書き方がありますが、よくアルミン酸ナトリウムといいます、ちょっと別の形で書いてみました。
本当は Na[Al(OH)(HO)] と書いた方が正確かとも思います。
NaAlO と書くことも多いです。

2HO + 2e- → H + 2OH-
こうかな、金属のアルミニウムが放出する電子が水分子を還元するのでしょう。

★授業で。3年生の少人数講座での生徒実験。
普通に使う試験管より少し太めの試験管に、6Mの水酸化ナトリウム水溶液を3mLくらい入れ、くしゃくしゃに丸めたアルミホイルを投入します。すごい勢いで反応が始まりますので、マッチの火を近づけると、試験管の口に炎が立ち、「火炎放射器」状態になります。水素の発生速度が激しすぎると、炎が成立せず、水素ガスで水素の炎が吹き飛ばされて消えてしまいます。
亜鉛と塩酸の反応に比べて、アルミと水酸化ナトリウムの反応の激しさはものすごいものです。
酸よりアルカリの方が危険ですので、この実験は気心の知れた3年生向けの実験。
1年もしくは2年では、塩酸と亜鉛、塩酸とアルミ箔の反応ですね。

★さて事故の話に戻って。
アルミ缶の内側は酸化膜の上にさらに保護膜がコーティングされています。
でも、小さな傷などがつくことはいくらでもあり得ますよね。
ですから、アルミ缶にアルカリ性の洗剤を入れて、ネジの栓を閉めたらとんでもないことになります。少しずつ少しずつ反応が進み、内部で発生した水素の圧力が高まる。コルク栓のようなものなら吹っ飛びますが、ネジの栓は吹っ飛びませんので、やがて強烈な破裂を起こすことになります。爆発です。

ペットボトルだったらなぁ、おそらく大丈夫だったんだけど。
アルミ缶では絶対だめ。
強アルカリ性の固体や溶液は、ポリエチレンの瓶にいれるのが一番安全です。

事故に遭われた方の中で、目に入った方がいらしたようでした。
大丈夫かなぁ。皮膚や角膜はたんぱく質で、アルカリの存在で加水分解してしまうので、酸よりもアルカリの方が怖いのです。もし、目に入ったなと思ったら、緩やかな水流でじっくり目を洗って下さい。激しい水流だとかえって角膜を傷めますから。眼科医に処置してもらうのはその後でもいい。とにかく、まず洗うこと、これが第一です。

・掃除に重曹(炭酸水素ナトリウム)を使うのが流行りですが、これだって目に入ったらかなり危険ですよ。
「伊達眼鏡」をして掃除して下さい。直撃は避けられます。(少し鬱陶しいかもしれませんが、目を傷めることを考えたら我慢できるでしょ。)

★もう一つ。重大なミスがあるんです、この事件には。
洗剤を「コーヒーのアルミ缶」という食品容器に入れた、ということ。
食品容器には食品以外のものは絶対に入れてはいけません。
うっかり、食品のつもりで口にして、重大な事故になることがかなりの頻度で起こるのです。
これは絶対に守って下さい。

自分は分かっているから大丈夫、とは思わないこと。
昨日の自分は、今日の他人、なのです。
自分が何をしたか、全部覚えてる人などいないのです。
自分の命を守るために、そして身の回りや周辺の人の命を守るために、このことは必ず守って下さい。

★「化学知識は命を守る」のです。
化学を学んで身につけましょうね。
化学は生きる力であり、生活の知恵になるのですから。

« アゲハ | トップページ | 虚数(その1) »

理科おじさん」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ダメ。ぜったい、ダメ。:

« アゲハ | トップページ | 虚数(その1) »

2021年5月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
サイト内検索
ココログ最強検索 by 暴想
無料ブログはココログ