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2012年7月 9日 (月)

Valeric acid

★何かをけなすとか、持ち上げるとか、そいうい意図は全くありませんので、そのおつもりで読んでください。新聞の広告に

「バレリアン」は、ヨーロッパ原産の伝統ハーブ。根から抽出されたエキスは心地よい休息に役立つはたらきがあるといわれています。しっかり休んで、朝から快適なスタートを切りたい!という方におすすめです。

こういうのがありました。
バレリアン辞書で調べますと

valerian:{名詞} 植 カノコソウ;その根を乾燥して作る神経鎮静剤.

かのこ‐そう【鹿の子草・纈草】オミナエシ科の多年草。東アジアの温帯に分布し、日本の山地草原にも自生。5~6月頃、淡紅色の小花を密生。根茎は生薬の纈草(ケツソウ)根で、鎮痙剤。ハルオミナエシ。<季語:春>[広辞苑第五版]

こういうものですから、ハーブのお好きな方はお使い下さって、何か問題があるとかいうのではありません。
理科おじさんが何かぶつぶついってるから心配だということはありません。
ただ、化学教師としての経歴がね、内心にやっとさせるものがありましてね。

★吉草酸とイソ吉草酸
Valeric_acd
これ、valeric acid = 吉草酸 という物質の構造式です。
炭素が5個あるカルボン酸ですから、「ペンタン酸」と呼ぶのが正式名(系統名)です。
valeric という名前から分かるように、カノコソウから初めて発見された、と聞いています。

さて、次の構造式を見てください。
Isovaleric_acd
炭素は5個あるのですが、これを化学の方では、炭素4個の鎖の、カルボン酸の炭素を1番として3番目の炭素にメチル基がついたものと見ます。
そこで、系統名は「3-メチルブタン酸」というのです。
よく似てます。炭素の位置が一つずれただけ。
で、「吉草酸と『同じ=iso』だけど、構造が異なっている」ということで、慣用的には「イソ吉草酸」(isovaleric acid)というんですね。

・そうなると「大変」
ウィキペディアの吉草酸の項では
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%89%E8%8D%89%E9%85%B8

吉草酸
・・・
足の裏の臭いはこの異性体であるイソ吉草酸が原因である。閾値が非常に低いことから、悪臭防止法の規制対象となっている。
・・・

などと書かれています。

さらに、
http://ja.wikipedia.org/wiki/3-%E3%83%A1%E3%83%81%E3%83%AB%E3%83%96%E3%82%BF%E3%83%B3%E9%85%B8
3-メチルブタン酸 では

 3-メチルブタン酸(3-メチルブタンさん、3-methylbutanoic acid)またはイソ吉草酸(イソきっそうさん、isovaleric acid)は、多くの植物、精油に見られる天然の脂肪酸である。水にはやや溶け、多くの有機溶媒にはよく溶ける無色透明、揮発性の液体である。
 イソ吉草酸自体にはチーズもしくは汗、足、加齢による口臭のにおいのような不快感を伴う刺激臭があるが、そのエステルは快い芳香を持つため香料として広く使われている。

とあります。

まぁ、くさいです。酪酸と並ぶ代表的な悪臭物質ですね。

しかし、嗅覚というものは不思議なものですね。炭素・水素・酸素の原子の数は同じなのに、メチル基が一つずれただけで、ハーブから超悪臭物質になってしまうのですから。
分子の形を「嗅ぎ分け」られるんですね。

★私の自分のHPから引用。

 カノコソウ属植物(Valeriana)の根の精油中に存在します。「不快な変質チーズ臭」を有すると辞書にはありましたが、むしろ汗臭さのもととして有名だと思います。蒸れた靴、蒸れたTシャツ・・・などを想像してみてください。昔、i-吉草酸を使った実験をやったあと、同僚の独身教師が家に帰ったら母親に「あんたまた靴下かえてないんでしょっ!!早く脱ぎなさい!!」と叱られたそうです。汗でぬれたジャージをロッカーに入れたまま夏休みに入って、9月新学期、扉を開けたら臭気でノックアウト、などという状況を想像してみてください。
ところがこのイソ吉草酸とエタノールが化合した「イソ吉草酸エチル」という物質はリンゴのような芳香がするのです。不思議です。実はこの実験をしていたわけです、上の話は。
 花束にはよくカスミソウを飾りにつけますが、カスミソウにはほんのわずかですが、イソ吉草酸の匂いが漂うのです。敏感な人は嫌うようです。この匂いのしないカスミソウの開発が研究されているようです。
 ところで、赤ちゃんの吐く息には、独特の乳臭さがあります。大人がそんな匂いを漂わせたら、総スカンですが、赤ちゃんは別。甘酸っぱい、発酵したような、乳臭さがかわいさを引き立てます。実はこの匂い、イソ吉草酸の匂いが入っているのです。そこで、欧米ではカスミソウを、「Baby’s  breathe」と呼ぶことがあるようです。粋なネーミングですね。

おかしいでしょ。想像しただけでノックアウトされそうですね。

ある学校に勤務していた時のこと。同僚の先生が、3年生の選択化学で、イソ吉草酸エチルの合成実験をやったのです。その学校の化学実験室は5階にあって、ちょうど真下の4階が家庭科の調理実習室。
悪臭が校内に漂い始めて、調理実習をしていた生徒たちが騒然となり、鼻を頼りに悪臭源を探り始めたんですね。鼻をくんくんさせながら、5階に上がってきて、化学実験室の前で、ここだっ!ここから匂いが出てる!、と探り当てられました。人間の鼻もまんざらじゃない。大騒ぎだったな。

私はもう、懲りてましたので、エステルというと、セメダインの香りとかいって、酢酸エチルを合成したり、サロメチールの匂いだよと、サリチル酸メチルを合成しましたね。

★いやいや、話が飛んで歩きました。
「バレリアン」にまつわる思い出。
でした。

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