ジクロロメタン
★前の記事の引用文中に「1、2ジクロロプロパン」のほかにもう一つ、「ジクロロメタン」という溶剤がありました。
名前から察するに、「2つの塩素原子がついたメタン(CH2Cl2)」のようですが、「1,2‐」のようなものはいらないのでしょうか?
炭素原子を、平面的に描いてみました。
炭素原子は、「結合の手」が4本あります。
時計回りに、1~4と番号を振ってみました。
4本の手があるところへ、2つの塩素原子が結びつくのなら、可能性は2つありそうな気がします。
「1と3」「2と4」のような「向こう側」の位置に2つの塩素原子がつく。
「1と2」「2と3」「3と4」「4と1」のような「隣り合う」位置に2つの塩素原子がつく。
もし、これが本当だとすると、ジクロロメタンには2種類あることになります。
おそらく、融点・沸点などが異なってくるでしょう。{電気的な相互作用の差によって}
それなら、精密な蒸留を行うとか、ガスクロマトグラフィーというような分析法を使えば、2種類が分離できそうです。
ところが、精密な実験の結果では、ジクロロメタンは1種類しか存在しないのです。
ということは、上の図が間違っているのですね。
炭素原子の結合の手は、平面的に{座布団型に}広がっているのではないようです。
これは正四面体の図です。この正四面体の重心の位置に炭素原子があって、そこから正四面体の各頂点に向かって結合の手が伸びているのです。
この図をにらみながら考えてください。
正四面体では、ある一つの頂点は他の3つの頂点と「隣り合って」います。
どの頂点についても同じ、ですね。
ですから、座布団型の図で考えられるような「向こう側」という位置はないのです。
どの二つの頂点をとっても必ず隣り合っているので、炭素原子に2つの塩素原子がついた「ジクロロメタン」は一種類しか存在しません。
ですから、「ジクロロメタン」という名称で、その構造式は一つに決まります。
ということで、名前に位置情報を書く必要はないのです。
★ジクロロメタンって、実は身近なところにあるんです。
アクリル樹脂の板を接着したいという時の接着剤にジクロロメタンを使っています。
{系統名ではない「塩化メチレン」という名称が表記されているかもしれません。ご注意ください。正式ではない通称ですが同じ物質をさしています。}
沸点が9℃くらいで、蒸発する時に熱を奪うので、理科の「面白」実験で、水で湿らせた紙を冷やして雪のようにする、というようなことに使ったこともあるかと思いますが、あんまりおすすめではありません。
トリクロロメタン(通称「クロロホルム」、CHCl3)も、麻酔作用が強いので麻酔薬に使われたこともありますが、「慢性的には内臓に障害を及ぼす」と化学辞書でも公的に書かれていて、現在はまず使われません。
ジクロロメタンも体にいいわきゃないよなぁ。
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