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2012年5月 9日 (水)

電子の干渉

★5月2日、外村彰さんが亡くなられました。70歳。

訃報記事では

 外村さんは78年、「電子線ホログラフィー」という技術を使った電子顕微鏡の実用化に成功。顕微鏡の解像度を飛躍的に高めた。86年、電磁場がない環境での電子の不思議な振る舞いにかかわる「アハラノフ・ボーム効果」を実証。量子力学の世界で二十数年も続いた論争を決着させた。

★私は専門家ではないですから、ことの詳細を理解していませんが、「アハラノフ・ボーム効果」の実証についての書籍は読んでみました。量子力学の不思議さを鑑賞して楽しむくらいの知識というか趣味はあるんです。
{わからなさを楽しむ、というのも、なかなかいいものなんですよ。}

Ab_effect
こんな写真をもし目にしたことがあったら、それがアハラノフ・ボーム効果についての外村さんの業績なのです。黒い輪の中と外で縞がずれてるでしょ、これが「AB効果の実証」というものなのです。

http://sc-smn.jst.go.jp/playprg/index/1514
↑このサイトで、外村さん自身のお話しや実験が視聴できます。ぜひ見てください。

★実は私にとっては、アハラノフ・ボーム効果よりも、電子の干渉の方が衝撃的でした。

http://www.hitachi.co.jp/rd/research/em/doubleslit.html
↑ここに電子線に関する「二重スリットの実験」の解説、画像、動画があります。
物理好きな方、必見の動画です。是非ご覧ください。
衝撃的な結果が見られます。

・・・
電子顕微鏡の中の電子源から電子を一個づつ発射します。発射された電子は「電子線バイプリズム」という装置を通ります。
・・・
実験を開始すると、モニター上のあちこちに明るい輝点が現れます
・・・
ランダムな位置にやって来る電子を沢山積算すると、きっと一様な分布になると思われるかも知れません
・・・
実験が終わる20分後には、はっきりとした干渉縞が観察できます
・・・
  大変不思議な結果が得られました。一個一個の電子を送ったにもかかわらず、干渉縞が観測されたのです。この干渉縞は、電子の波が電子バイプリズムの両側を同時に通過して下で重なりあったときにだけ生ずるものです。電子は観察すると、常に一つ一つの粒子として検出されます。しかし、それが積算されると、干渉縞を生じるのです。電子顕微鏡の中には最大で一個の電子しか存在しなかったことを思い出してください。電子顕微鏡の中に2個の電子が同時に存在したとしたら、2個の電子による干渉縞が現れる可能性も否定できませんが、それも起こりえません。毎秒10個の電子しか発射されないので、電子顕微鏡の中には電子は一個だけしか存在しえないからです。常識では考えられない結果にたどり着いてしまいました。

★これは衝撃的でした。
電子は「粒」として、1個ずつ個別に空間を飛び、電子バイプリズムを通ってモニターに粒として観測されます。
それなのに、「波」で観測される干渉縞が現れるのです。
他の電子と干渉しているのではないのです。1個で飛びながら、電子バイプリズムを通ると、干渉が生じているのです。
頭が痛くなりますね。

★この話、実は、朝永振一郎氏の「光子の裁判」という有名な作品で高校生の頃に知っていたのです。
photon(光子(こうし))を「波乃光子」という人物に仕立てて、窓から侵入して壁際で捕まった、窓は二つあるがどちらの窓を通ったのか・・・というような筋書きで進行します。

・講談社 学術文庫「鏡の中の物理学」著者: 朝永振一郎
・岩波文庫 「量子力学と私」緑152-1
などで読めます。

今回、岩波文庫版がそばにあったので読み返してみたら
主人公の名前は、「波乃光子」で、「波乃」には「なみの」という振り仮名がついていましたが、「光子」には振り仮名はありませんでした。
で、文章中ところどころで、「波乃光子」について「彼」と参照していますので、「みつこ」ではなく、「光子」という名の男性とされているようです。

岩波文庫版は江沢洋さんが編者で、解説も書いておられます。

光子の弁護人がいう「Neither A nor B のカード上の点を次々にマークする」ことを実際に実験した結果が図Ⅰである。初め点の数が少ないうちはバラバラに不規則に見えるが、数が増すと第10図に示されたような縞模様が現れる

として、外村さんたちの1989年の論文から写真を引用しています。
Interference
朝永さんの時代には思考実験だったものが、現在は実際に見られるのです。
凄い時代に生きているなぁ、とつくづく実感します。

★高校の物理で、物質波を学び、ドブロイ波長も学んだし、原子を構成する電子の「在り方」についても学びましたが。
電子の波動性を、干渉実験でそのまま見られるとはねぇ。

外村さんの実験を知ったのは、工業高校で物理と化学を担当していたころだったと記憶します。
ビデオが発売になったのですが、ちょっと高くってね。
今はネット上で見られるので物理教材として使ったら生徒が喜ぶだろうなぁ。
なんだか、頭の中で授業を組み立ててしまいます。教師時代の癖が抜けませんねぇ。


http://www.jsap.or.jp/apsp/oralhistory/QOBU090812.pdf
「電子線ホログラフィーとそれが拓く量子の世界」
外村さんへのインタビューが読めます。

★朝日新聞の編集委員・尾関章氏が、追悼文を書いておられます。
部分引用します。

外村彰さん、物理の不思議「見せる」達人(2012年5月3日03時00分)

 

物質世界の不思議さを見せる達人だった。
 2日に死去した日立製作所フェローの外村彰さんのことだ。現代物理学の大きな柱である量子力学の不可解な現象を目に見える形で人々の前に示してくれた。
 それを象徴するのは1994年、ロンドンの王立研究所で開かれた「金曜講話」だ。講師役の外村さんはタキシード姿で波について語り、ヤマ場で聴衆をうならせる映像を映した。
 量子力学が描く世界が常識破りなのは、電子のような粒子が、波の性質を併せもっていることだ。それを裏づける映像だった。
 二つの道筋を用意して電子を飛ばす実験。電子が一つずつゴールの壁に積もっていくと、やがて、そこに美しい縞模様が浮かび上がった。こうした模様は波が干渉してできる。これは、電子が1個でも波として振る舞うことの証しだった。
 この場に居合わせた私は、会場で「ベリー・ナイス」というつぶやきが漏れるのを聞いた。この光景は、R・P・クリース著「世界でもっとも美しい10の科学実験」という本でも紹介されている。
 ・・・

もっといっぱい見たかった。
量子力学の世界をいっぱい「可視化」してほしかった。
と、悼みます。
合掌。

★参考
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E9%87%8D%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%88%E5%AE%9F%E9%A8%93
「二重スリット実験」

ぜひ併せてお読みください。

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