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2012年1月19日 (木)

座標系

★朝日新聞の1月16日の夕刊に不思議な写真が載っていました。
イタリア西岸での客船の座礁事故での写真です。
日本人乗客の方が撮影した写真ですが、個人が写っていますし著作権問題もありましょうし、手を加えました。
Katamuki2 写真1
これが新聞掲載写真のイメージです。
客室が正立していて、人が斜めになっています。
人を長円形で覆い隠しましたが、長円の長軸と体の軸とはほぼ一致しています。
人が斜めになって踏ん張っているようですが、実はそれは不可能です。
人の体の重心が足の裏の範囲を超えていますので、どのように踏ん張ってもこの姿勢はできません。
もちろん、お分かりのように、正しくは次の写真のような事態なんですね。
Katamuki1 写真2
写真1を左に22度回転したものです。
この回転操作で人は直立しました。重力の方向と体の軸がほぼ一致していると思います。
その結果、客室が左へ大きく傾くことになりました。
これが事故の状況でしょう。
船が傾いて当然床も傾いて、その傾いた床の上で何とかまっすぐ立とうとしているところの写真なのですね。
22度も傾いています。これは歩けないですね。
事故の大変さが、このようにすると分かります。

★さて、私たちの体には重力の方向を感知する能力があります。
耳の奥、内耳には前庭という器官があって重力の方向を感知して体の傾きを検出したり、自動車などで加速減速する時の直線的な加速度を検出します。また三半規管は、体の回転をx,y,zの三方向に分解して検出します。

ですが、日常の生活では、外界は動かないという「常識」も使います。
室内の壁や柱は垂直であってそうそう動くものではない。床は水平である。
つまり通常は、体が感じる重力による垂直軸と、周囲の環境の中の垂直軸が一致しているのですね。

真っ直ぐな柱などを見ながら、首を左右に傾けてみてください。
網膜に写る像は回転しているはずですが、内耳で検出する首の回転情報と、縦のものはまっすぐ縦であるはずだ、という外部の座標系を使って正しい位置認識をします。

外部の座標系と、感覚による座標系が一致しなくなって、定位できなくなると「めまい」を起こします。
航空機のパイロットが空間認識を失うことがあって「空間識失調」といいますが、自分の体の空間的な状態が認識できなくなるんですね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B3%E8%A1%A1%E6%84%9F%E8%A6%9A
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A9%BA%E9%96%93%E8%AD%98%E5%A4%B1%E8%AA%BF
こんなところを読んでください。


写真1を見ると、なんとも不思議な感覚に襲われますね。
座標系としての部屋が正しければ、人が傾いていなければならない。なのにその傾きはあり得ないわけです。
写真2で人が真っすぐ立つと、それ自体は正常なことなのですが、今度は頼りの座標系が傾いてしまう。
そんなこと、あり?
という不思議さなのです。
実際には船の座礁事故という非常事態で、二つの座標系が一致しなくなってしまったのです。

★電車に乗って、連結部の近くに座るなり立つなりして、向こうの車両を見てください。
面白い現象が起こります。
車両はどちらも揺れます。
自分が乗っている車両が揺れていることは、体で感じとれます。
ところが、視覚的には、自分の乗っている車両は揺れていなくて、揺れているのは向こうの車両だ、と見えるでしょう。

自分が乗っている車両の方に座標系を固定して、この(主観的な)座標系に対して向こうの車両が揺れていると見えてしまうのです。
これは不思議な感覚ですので、ぜひ体験してみてください。

★窓から明るい外の景色を眺めて、網膜上に残像を作ります。
何か真っすぐ立っているものが入っている方が分かりやすいと思います。窓枠とか、外の木とか。
眼球を動かさずに眺め続けて、残像ができたら、目をつぶって下さい。
残像が見えるはずです。残像は網膜上に出来た、光の感受性の変化してしまった部分ですから、網膜に固定されています。
さて、ここで。
首を左右に傾けてみてください。
残像はどうなりますか?
首の傾きとともに、網膜上の残像も傾くはずですね。
ところが意識内の残像は、空間的に固定されていて、縦のものは縦であることが保たれるのではないですか?(すこし揺れるかもしれませんが。)

おそらく、内耳の三半規管で、頭の回転を検出して、その角度の分だけ意識内の像を回転させて、外界の座標系が動かないように処理しているのだと思います。
動いているのは自分の頭だ、外界が動いているのではない、と認識して、それに合うように意識内の像を調整しているのでしょう。

残像はそう長くは持ちませんので、また、残像をリフレッシュして試してください。
この現象は、自分自身で不思議な感覚に包まれます。
お試しあれ。

自分と外界。
自分をどのような座標系に位置付けるか。
自分の体で実験して見ると面白いですよ。
{自分の体を観察するのは「ロハ」だし、責任が生じないし。楽しめます。}

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