原子炉事故で放出された放射性物質の質量について:3
「原子炉事故で放出された放射性物質の質量について:1」で引用した朝日新聞の記事をもう一回引用します。
[今さら聞けない+]放射性物質と危険性 最も脅威は放射性セシウム(朝日新聞 2011年11月26日)
・・・
では、今回の事故で実際にどれくらいの物質が環境中にばらまかれたのでしょうか。事故から4日間に大気中に出た推定量は、セシウム137が約4700グラム、セシウム134が約380グラム、ヨウ素131が約35グラムです。
あわせても5キログラムとちょっと。しかしこれだけで、全国の広範囲に重大な汚染を起こしていることに驚かされます。
プルトニウム238の放出量は0・03グラムで、セシウム137の15万分の1以下。この量を勘案すると、体への影響はセシウム137の約300分の1ということになります。
プルトニウムは原発の直近にとどまり、土壌から検出される量もほんの少し。福島第一原発1、2号機の排気筒から500メートル離れた土壌での検出重量は、セシウム137の80万分の1でした。これは、過去の大気圏内の核実験によるものと同じぐらい微量です。
ストロンチウム90の放出量はセシウム137の100分の1以下の約28グラム、土壌からの検出量は1000分の1程度でした。
・・・
この記事の図中には、放出された放射性核種についての放出量、半減期などのデータが載っていました。↓
●セシウム137 4700g 1京5000兆ベクレル 半減期30年
・プルトニウム239 1.4g 32億ベクレル 半減期2万4000年
・プルトニウム238 0.03g 190億ベクレル 半減期87.7年
・ストロンチウム90 28g 140兆ベクレル 半減期29年
●セシウム134 380g 1京8000兆ベクレル 半減期2年
●ヨウ素131 35g 16京ベクレル 半減期8日「●」を合わせても5kgちょっと。
では、放出された質量を計算をしてみましょう。
式⑤
これを使います。
M n T
Cs137 137 1.5×10^16Bq 30年=9.46×10^8s
Cs134 134 1.8×10^16Bq 2年=6.31×10^7s
I131 131 1.6×10^17Bq 8日=6.91×10^5s
Pu238 238 1.9×10^10Bq 87.7年=2.77×10^9s
Pu239 239 3.2×10^9 Bq 2万4000年=7.57×10^11s
Sr90 90 1.4×10^14Bq 29年=9.15×10^8s
式に入れて計算してみますと
計算値 記事中の値
Cs137→4670g 4700g
Cs134→ 365g 380g
I131 →34.8g 35g
Pu238→0.03g 0.03g
Pu239→1.39g 1.4g
Sr90 →27.7g 28g
あれれ、Cs134だけちょっと違うな。計算値を四捨五入すると370gですね。
あとは一致していますから、式は間違っていませんね。
ということは、何か、紙面に現れたものと、記者さんが計算に使ったものが違ってますね。
チェックしてみたら、Cs134の半減期は2.06年でした。(理科年表による)
このT=2.06年=6.50×10^7s を使って計算してみると
3.76×10^2g=376g≒380gとなりました。
一致しました。
チェックして見て初めて分かったことです。
記事の中に明示的に(explicitに)現れた数値と、結果の数値の中に暗黙のうちに(implicitに)入っている数値が異なるなんて、「ずるい」よなぁ。マズイことです。
とまぁ、そういうわけで、私が導き出した計算式で通用するようですね。
ご利用ください。(こんなもの利用したくもないですけどね。)
★ウィキペディアに福島第一原発と、チェルノブイリ事故との比較が載っていて、放射性物質の放出量の表があります。必要ならご覧ください。↓
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%8E%E3%83%96%E3%82%A4%E3%83%AA%E4%BA%8B%E6%95%85%E3%81%A8%E3%81%AE%E6%AF%94%E8%BC%83#.E7.A6.8F.E5.B3.B6.E7.AC.AC.E4.B8.80.E5.8E.9F.E7.99.BA.E4.BA.8B.E6.95.85.E3.81.A8.E3.81.AE.E6.AF.94.E8.BC.83
↑この式と
↓この式とが
現象を式で記述すると、その式を解いたり、変形したりすることで新たな出来事が見えてくるのですね。これ、物理の醍醐味です。これにはまると、物理大好きになれます。
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