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2012年1月27日 (金)

酸素吸入中の火事

★朝日新聞の記事です。

酸素吸入中の火事、8年で36人が死亡 自宅療養(2012年1月26日)
 肺の病気で自宅で酸素吸入中に、たばこやストーブの火が引火するなどした火災で死亡した患者が2003年からの8年間で36人に上っていることが、業界団体のまとめでわかった。厚生労働省は25日、業界の資料を公表し、医療機関や利用者らに注意を呼びかけている。
 日本産業・医療ガス協会によると、自宅での酸素吸入は、室内の空気を濃縮して酸素をつくる装置や酸素ボンベからチューブを鼻につないで取り入れる。
 酸素はものを燃えやすくするため、吸入中の人に火を近づけると、チューブや衣服に引火し、やけどや火災の原因となる。
 協会の集計では、亡くなった36人は60歳以上が31人で、10代が1人、40代と50代が2人ずつだった。出火原因がたばこと推定されるのが19人を占めた。
 ストーブの可能性が3人、ライターで線香に火をつける際の引火が1人だった。
 協会や厚労省はこれまで、使用中は周囲2メートル以内に火気を置かないことや、たばこは絶対に吸わないことを呼びかけてきた。しかし、火災による死亡事故は後を絶たず、昨年も5人が亡くなった。 協会によると、自宅で酸素吸入を受ける人は約15万5千人(09年度)。火災が起きても軽症で済んだケースはまとめておらず、発生件数はもっと多いとみている。

★酸素って怖い気体なのです。
そのことを普通の方はあまり意識していない。
空気の20%が酸素だ、ということはよく知られていると思います。
で、その酸素なしには生きていけないこともよく知られています。
そして酸素がないと物が燃えない、といことも知られています。

酸素が濃いとどうなるか?物がものすごくよく燃えるようになります。
それによる事故ですね。
通常は「燃える」とは思っていないようなものが燃える。
タバコや線香のように、普通は炎なしで燃えていくものが、まるで「ろうそくのように」炎を上げて燃える。
化学カイロが猛烈な発熱をして大やけどをする。

ご注意ください。

★「自宅での酸素吸入は、室内の空気を濃縮して酸素をつくる装置や酸素ボンベからチューブを鼻につないで取り入れる。」この表現は頂けないですね。
「酸素をつくる」わけじゃない。
「自宅での酸素吸入は、室内の空気から酸素を濃縮する装置や酸素ボンベからチューブを鼻につないで取り入れる。」というのが正確でしょう。「酸素富化膜」という、酸素の透過性が高い膜を使って酸素を濃縮できるようになったというのが、家庭での酸素吸入の普及に大きな貢献をしました。
日常的になり過ぎて、危険を忘れがちなのですね。
特別な道具を使っていると、特別なものという意識が生じやすいのでしょうけれど。

★もう一つ。
善玉はすべての局面において「善いはずだ」と思っていないでしょうか。
善玉・悪玉の二元論の危険性です。
そんなことはない。
もののよしあしは、その性質がどのような局面でどのように現れるかにあるのです。
酸素は生きるのに必要な気体だが、物が燃えやすくなる、という危険を同時に持っています。
以前、スポーツの後の疲労回復に軽便な酸素ボンベから酸素を吸入するというのがはやりましたが、あれはどうなりましたかね。
「よい気体」だからきっと「効く」。「そんな気分がする」というだけだったはずです。
下手すると、濃い酸素を吸うことで、体内に活性酸素が発生しやすくなったかもしれませんね。

オゾンはオゾン層にあっては紫外線を吸収するという性質によって地上の生命を守っていますが、地上でオゾン発生器を作動させたら、その酸化力で毒ガスとなります。

善玉・悪玉論はやめましょう。

★過去の事故
私の個人データベースでは
・1992年12月に「高圧酸素装置から発火」という見出しが記録されています。
 治療中の患者さんが死亡したそうです。

・1996年4月に、山梨厚生病院で高圧酸素装置が爆発するという事故がありました。
 原因は、治療を受ける患者さんが使い捨てカイロを体につけたままだったことで、発熱、発火、爆発に至ったというものです。

・ほかにも、患者さんが綿のパジャマの上にウールだったか、化繊のカーディガンを羽織っていて、静電気の火花が燃え上がったという事故もあったと記憶しますが、記録は手元に残っていません。

・アポロ1号の事故、というのも忘れられません。
私のHPでも扱いました↓
http://homepage3.nifty.com/kuebiko/science/63rd/sci_63.htm

ウィキペディアに詳しい記載があります↓
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%9D%E3%83%AD1%E5%8F%B7

★酸素は危険な気体です。
私たち酸素利用生物は、その危険性・毒性と、酸素を使うことによって得られる大きなエネルギーによる利益を天秤にかけて、酸素利用に踏み切った生物です。
私たち酸素タイプの生物の前にいた酸素を使わない生物たちは、酸素の毒性により大絶滅しました。現在は無酸素環境下で細々と生き続けています。
そして、今生きている私たちは、酸素20%という環境下で進化してきた生物です。
それが酸素資源を減らしています。二酸化炭素が増えました。
気体の酸素を作る植物たちを激減させています。
こんなことやってて、いいんでしょうか?
生物として、できることとやっていいことの違いに、けじめをつけなければいけないんじゃないでしょうか。

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