タンカーの爆発事故
★タンカーの爆発事故のニュースがありました。
朝日新聞(2012年1月16日1時48分)
韓国・仁川沖でタンカー爆発 5人死亡、6人不明
韓国北西部、仁川(インチョン)沖の海上で15日午前8時ごろ、韓国籍のタンカーが航行中に爆発して大破し、船体の半分が沈んだ。聯合ニュースによると、乗組員5人が死亡し、6人が行方不明になっている。
このタンカーは普段は軽油を運んでいるという。この日は、仁川港でガソリン6500トンを下ろした後で積み荷はほとんどなく、海洋への大規模な油漏れはなかった。船内ではタンクに残ったガスを抜く作業中だったといい、韓国海洋警察が原因を調べている。
★「ガソリン6500トンを下ろした後で積み荷はほとんどなく」という記述に対してどんな感じがしますか?
①ガソリンがほとんどないのに、なぜ爆発してしまったのだろう、ガソリン満タンだったら危ないとは思うけど。
②ガソリンがほとんどないから爆発しちゃったんだな。ガソリン満タンだったら、爆発ではなく激しい火災になったのだろうな。
化学に関わったものの経験というか、直観というか、「もの」勘というかでは、②が正解だと思います。
可燃物は容器にいっぱい入っている時の方がかえって安全なんです。
もちろん火がついたら炎をあげて燃える「火災」になりますが、「爆発」にはなりにくい。
中身が減って、液体の上に空間が大きくなってくると、可燃性の蒸気と空気中の酸素が混合して、その割合によっては「爆発」になるんですね。
★空気に対して可燃性の気体が混合した時、濃すぎても薄すぎても爆発にはならないのです。
この範囲を「爆発範囲」といいます。
理科年表で「空気と混合したガスの爆発範囲」という表をみると
(容量百分率で)
下限 上限
水素 4.0~75
アセチレン 2.5~81
ベンジン 1.3~ 7
エタノール 4.3~19
メタノール 1.3~44
などとなっています。
・爆発範囲が広い方が危険で、要注意です。
・水素やアセチレンは特に危険な気体です。
・エタノールよりメタノールの方が範囲が広くて注意が必要なことが分かりますね。
エタノールのほとんど空になったガラス瓶を胸に抱えて硬く閉まった栓を抜いていて、静電気か何かの火花が入って爆発し、死亡したという事故が昔ありました。たっぷりアルコールが入っている方がかえって安全なのです。
小学校の理科で熱源に使うアルコールランプも、傾けたりしないことを前提としたうえで、アルコールが少なくなると危険ですので、なるべくアルコールの液面が下がらないように管理しなければなりません。
さて、理科年表ではガソリンについての爆発範囲は記載がありません。
検索して見たら、およその値ですが「1.4~7.6%」となっていました。
タンカーのタンクにガソリンがいっぱい入っている時は、火が入れば火事になりますが、爆発にはなりません。
ところが、ほとんどガソリンを下ろした後なので、タンクの内面を濡らしていたガソリンが蒸発し、ガソリンを外に出した分タンク内に入って来た空気と混合し、爆発範囲に入ってしまったのではないでしょうか。
ガソリンを下ろした後の方が危険だ、という認識が欠けていたのかもしれません。
ガソリンエンジンの自動車では、ガソリンと空気を適切な割合で混合して爆発させ、その力を動力にしていますね。私が乗っている軽自動車は660ccという小さな空間でガソリンを爆発させて、何百kgという車体を走らせるのです。1リットルのペットボトルの3分の2ですよ。そんな小さなエンジンの出力で軽自動車が時速100kmも出せるんですよ。
ガソリンの爆発力のすごさを感じてください。
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