★朝日新聞の読者投稿欄「声」に「収束宣言なんてとんでもない」という投稿がありました。投稿者は小学校の先生です。
年末に政府は、福島第一原発が冷温停止になったとして「収束宣言」したが、問題は何も解決しておらず、私は反対だ。
・・・
★この話は昨年12月16日に野田政権が出した「収束宣言」に関してのものです。
福島第一原発の事故収束を宣言 野田首相「冷温停止状態を確認」 国際公約通り年内に
野田政権は16日の原子力災害対策本部で、東京電力福島第一原発の事故収束に向けた工程表ステップ2(冷温停止状態の達成)の終了を確認した。野田佳彦首相は記者会見で「発電所の事故そのものは収束に至ったと判断される」と事故収束を宣言した。
・・・
事故収束については「オンサイト(原発敷地内)の問題」と限定し、「オフサイト(敷地の外)では引き続き課題があり、事故の対応はこれで終わったわけではない」と強調した。除染に向けて来年度予算も含め1兆円超を用意し、来年4月をめどに作業員3万人以上を確保して進める考えも示した。
2011年12月17日
私は、「収束」と言う言葉を、この発表通りに受け止めました。ただし、本当に収束したのか、宣言を出した時期が正しいのか、などについての判断は保留します。
★理科系の人間としては「収束」とは「終息」を意味してはいない、と理解します。
「収束」を広辞苑第五版で調べるとは
しゅう‐そく【収束】
①おさまりをつけること。おさまりがつくこと。「事態の―をはかる」
②〔数〕(convergence) 数列が、ある一つの有限確定の値にいくらでも近づくこと。無限級数の和が有限確定の値をとること。また、変数xがある値に近づくとき、関数f(x)がある有限確定値に限りなく近づくこと。収斂(シユウレン)。
特にこの②の意味合いを強く感じるものです。
事故が終わった、というのではなく、事故を起こした原子炉の状態がある一定の状態に入って、その範囲内に converge したと判断する、と発表したのだと理解しました。
学研パーソナル英和辞典では
converge:{動詞}(自動詞)(動く物・線・注意などが)(一点に)徐々に集中する(on,upon).
convergence {名詞}集中;収斂(しゅうれん),収束;統合.
となります。
★「収束」に対して「終息」のほうは
広辞苑第五版では
しゅう‐そく【終息・終熄】事がおわって、おさまること。終止。「内乱が―する」
学研パーソナル英和辞典
しゅうそく【終息】~する end.
全部の決着がつくことでしょう。
★福島県の佐藤知事は
この日の会談で、佐藤知事は事故収束宣言に対して「福島県の実態を知っているのかという気持ちだ」と不快感を表明。避難区域の線引きの見直しに向け、「地域の事情や住民の思いを丁寧に聞いていただくことがもっとも大事だ」と訴えた。
2011年12月19日
とのべ、
●首長ら、政府宣言に反論 「収束とは住民帰還と廃炉」
・・・
川内村の遠藤雄幸村長の考える収束とは「燃料を取り出して廃炉にし、住民の帰還が終わったこと」だという。「現状は溶解した燃料に水を注入し続けて、極めてアナログな形でかろうじて冷温を保っている状態」と記者団に説明し、収束宣言について「それはないでしょ」とだけ話した。
・・・
2011年12月17日
ここで知事や村長は「収束」を「終息」の意味に使っているように思えます。
冒頭の投稿もそうです。「収束宣言」なんてとんでもない。何も問題は解決していない。
事故は「終息」していない。
と。
{「アナログ」という言葉をどういう意味で用いているのか、全然わかりません。こういう使い方はいけませんね。「デジタル」ならいいんですか?で、それってどういう意味になるんでしょう?「アナログ」は古臭くってあいまいなもの、とでも言っているのかな?なんにせよ、これは頂けません。}
私も事故が終息したとは全然思っていません。
廃炉まででもまだ何十年もかかります。燃料棒の処分まで行ったら千年、万年の桁でこの事故の影響は残り続けます。
でも、もし、原子炉それ自体の状態が安定して、この原子炉から再び放射性物質の大量流出が起こることはない、と本当に判断できるのであれば、そういう状態までステップが進んだ、行程表で定義したある状態に「収束」した、ということはできます。
{本当にそういう状態になったのかどうかについては疑念を持ちますけれど、言葉の使い方としては理解します。}
このあたりの、言葉の意味の相互理解をきちんとしないと、話は全くかみ合うことができません。
意味のかみ合わない議論は全く不毛です。
もっと生産的な議論をしましょうよ。感情的なのもよくない。
★理学・数学・工学などでは、用語の意味を限定して使います。
日常用語が含むあいまいさを排除して、表現されたことの意味がはっきり相手に伝わるように、意味を限定し、定義して、その定義通りに使います。
それを普通の方は「難しい学術用語だ」と反発するのですが、そうではないのです。簡単明瞭に意志を疎通させるために、言葉の意味を限定しましょうよ、と言っているだけなのです。
★「収束」と「終息」、これも音は同じでも意味合いが違っていますから、きちんとした意味に限定しながら使わないと、議論は不毛になってしまいます。
実りある議論をしたい、そうして、被災者の方々が可能な限り早く日常へ復帰できる条件を整えたい。
私はそのように願いつつ
原子炉の状態はある定常的な状態に「収束」したが、原子炉事故そのものは「終息」していない。
と考えるものです。
{チェルノブイリの原発事故だって、終息したとは思っておりません。}